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部活ガイドラインの抜け道「闇部活」と「自主練習」の違いは何か。内田良先生の発表を参考に

谷口輝世子スポーツライター
(写真:アフロ)

 名古屋大学大学院教育発達学科の内田良准教授が、運動部活動のガイドラインが設定されたにも関わらず、一部ではそれを無視して休養日なく活動がなされていることを明らかにした。部活ガイドライン 抜け道探る動き 「闇部活」の実態

 内田良さんは、ガイドラインを守っているかのように見せながら、活動を続ける抜け道を3つに分けている。

 そのうちのひとつを「闇部活」とし、

実例として

・早朝や土日の練習を自主的な活動とみなす。

・保護者会等が活動を管理する(看板の掛け替え)

 を挙げている。

 私の住む米国の学校の運動部活動にも、ガイドラインがある。例えば、ミシガン州では、秋季スポーツである高校男子サッカーの運動部の活動開始日は8月12日である。8月12日までは、運動部としての正式な練習を行ってはいけない。しかし、夏休みが始まった6月下旬から複数の部員が集まっての自主練習や、サッカー部のコーチの仕切りによって練習試合(週1−2回)が行われている。前年度の部員の半数以上が参加している。中距離走に近い「クロスカントリー部」も、公式活動開始日以前の7月から、高校生部員たちが自主的に集まって、学校周辺を走っている。

 しかし、これはガイドライン破りの「闇活動」とは見なされていない。

 ガイドライン破りか自主練習かのポイントは

「コーチが自主練習や練習試合に参加するように指示しているか」

「コーチは、自主練習や練習試合に参加していないと、試合の出場時間が減るなど不利益があることをほのめかして、参加するように仕向けているか」

「自主練習に参加しなかったときに、コーチは試合の出場時間を減らすなどの不利益を与えているか」

である。

 コーチは参加を指示しておらず、不参加でも不利益を与えず、希望者に自主練習や練習試合の場を提供しているだけならば「闇活動」とは言い切れない。

 これは、内田良さんの記事でも述べられていて、「自主練」では、練習を希望する生徒だけが参加する。好き勝手に練習しているのだから、ガイドラインの規制対象から外れる、とされている。

 自主練習や正式な練習開始日以前の練習試合は学校運動部の正式な活動ではない。施設に不備がないのに、怪我や事故が起こった場合は、米国では、保護者が責任を負うことになるだろう。

 内田良さんは、保護者会等が活動を管理することも闇部活の事例として挙げている。

 もしも、保護者会が主導する形で、ガイドライン通りの全体練習が終わった後に、週に1度、民間のスポーツジムや練習施設でトレーニングをするのならどうだろうか。文部科学省、教育委員会、学校が、ガイドライン違反だからといって禁止すると、民業圧迫にもつながるかもしれない。例えば、優れた学習塾があり、保護者が「あそこに行くと成績が上がったよ。うちの子といっしょに通わせてみたら」と誘うことを学校は禁止できないのと似ているのではないか。

 私の近所の高校アイスホッケー部は夏休み中は正式な練習はないし、してもいけない。しかし、部員だけの話し合いの結果、民間のスポーツジムを利用して週に3回、合同自主トレーニングをしている。全員参加ではなく、希望者だけの参加で、学校外のチームに所属する同年代の選手の参加もOK 。費用の負担は保護者で、保護者の責任で子どもの自主的な活動を支えている形だ。これも、闇部活や、ガイドライン逸脱とは考えられていない。

 

 子どもたちの自主的な練習をサポートしよう保護者がお膳立てをすることが、部活動のガイドライン破りに相当するかどうかは微妙だ。部活動とリンクはしているが、保護者責任で行っている、学校外の子どもの活動を、文部科学省や教育委員会、学校などの公権力が監視し、抑え込むことは、極端にいえば、人権問題にまでたどりつくのではないか。

 ちなみに、スポーツ庁が定めたガイドラインの目安とする運動部の活動時間は、

 学期中は、週当たり2日以上の休養日を設ける。

 1日の活動時間は、長くとも平日では2時間程度、学校の休業日(学期中の週末を含む)は3時間程度。

 スポーツ庁の資料にもある通り、日本でも米国でも、スポーツ医学の観点からは、中高生のスポーツ活動は、週に1−2度の休み、週16時間未満に抑えることが望ましいとされている。

 スポーツ庁のガイドライン通りの活動であれば、週11−12時間程度に収まる。これに加えて、週に2−3時間程度のトレーニングを上積みできる余力のある子どももいることだろう。この生徒たちが、学校外で顧問の手を借りずに、自主的に練習したり、トレーニングしたりするのはかまわないはず。

 ガイドラインで示した活動時間を無視したり、軽視したりして、抜け道しようとする人たちを完全に封じることはできない。5分、10分の単位で厳守されたかどうかを監視することは費用対効果も悪い。重要なのは、なぜ、ガイドラインが作られたのかを生徒、教員、保護者が理解し、忘れずに活動することだ。数字あわせでだけなく、ガイドラインの理念が浸透していくことを願う。

 運動部での全体練習、自主練習を含めた子どもたちの総活動時間に注意を払い、オーバーユースになっていないかをモニターするのが大人の役割。ガイドラインがあることで、子どもたちが部活動だけに縛られず、自主的に何かをして過ごす時間があるかどうか。自主的な何かが、部活動に関連するトレーニングと重なるときには、保護者がオーバーユースになっていないかを見守るべきだと思う。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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