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日本代表が大勝も指揮官は「課題」を強調。なぜ。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 ラグビー日本代表は9月15日、東京・秩父宮ラグビー場でのパシフィック・ネーションズカップ(PNC)の準決勝でサモア代表を49―27で撃破。21日には大阪・東大阪市花園ラグビー場でフィジー代表との決勝に臨む。

 今年、エディー・ジョーンズヘッドコーチが約9年ぶりに復帰。大幅に若返ったスコッドへ新しいスタイルの導入に着手するなか、6月からのサマーキャンペーンでは非テストマッチを含め1勝4敗と負け越していた。北米大陸や環太平洋の国々がひしめくこの大会では3連勝中と、成功体験を積み上げられるようになった。

 攻めては数的優位を作ったり、防御の裏を首尾よく射抜いたりして計6トライも、試合後の会見場に現れたジョーンズの顔つきは穏やかではなかった。

「まずはとても我々としてはステップアップとなるようなゲームだったと思っています。これまで対戦していたカナダ代表、アメリカ代表より、サモア代表は格上のチームとなります(戦前の世界ランクで日本代表よりひとつ上回っていた)。

 試合の序盤に関してはとてもいい形でスタートができました。向かい風の厳しいコンディションの中、とてもいい形でプレーできていたと思います」

 ここまで語り切ったところで、ややトーンを変えたような。

「次のフィジー代表と対戦するにあたっての課題としては、ディフェンスがテーマとなってくると思います。

 特にラック周りのディフェンス、そしてキックチェイスのディフェンス後は今週の課題として取り組んでいきたいです。きょう勝ったことに関してはとても良かったと思いますが、次のフィジー代表はとても質の高い対戦相手となります。いい準備をして次の試合を迎えたいと思います」

 以下、共同取材の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——気を引き締めようとしているように映ります。来週以降、意識したいことは。

「まずはハードなトレーニングをすること。これに尽きる。先ほど伝えたように、我々はディフェンス面で流れを掴んでいかないといけません。ラックディフェンスに関してはフィジー代表にモメンタムを稼がれないためにも精査していかないといけない。また、キックチェイスに関しても、コネクトしながらチェイスをするというところが肝になってくる。

 こういった課題が出るということは、我々が成長するチャンスがわかったということです。今週に関しては、プレイヤーそれぞれの試合に対してのアプローチが格上相手であってもとてもよいものだったと思っております。次の試合も楽しみにしています」

 確かにこの日は前半13分と後半12分、向こうの勢いに気圧され失トライ。続く32分にはコントロールを誤ったキックからピンチを与え、カウンターアタックでフィニッシュされていた。改善点があるのは確かかもしれない。

 そもそもサモア代表陣営は、この一戦は自滅に泣いた80分と総括している。フランカーのテオドール・マクファーランド主将はこううなだれていた。

「日本代表は、こちらがミスをするたびに自分たちに有利に使った」

 さらに同国ラグビー協会は、慢性的な財政難にさいなまれている。今秋に予定していた代表欧州ツアーからも撤退。マホンリ・シュワルガーヘッドコーチはこうだ。

「説明しようと思えば多岐にわたるが、コーチとして私はラグビー協会の財政はコントロールできるところではない。もちろん年末まで大きな試合がないことは大きな損失だが、コントロールできる範囲で取り組むしかない。…ただ、強化のためには強い相手とのゲームを多くしたい。困難な立場ではあります」

 ライバルが苦境にいるのは確かだった。

 何より、まだこの大会は続く。日本代表は次戦でフィジー代表とぶつかる。日本代表が予選プールで敗退した昨秋のワールドカップで8強入りを果たした強豪だ。

 4年に1度のワールドカップの決勝を3度、経験している百戦錬磨の指導者は、前向きな形で白星を掴んだことより、約1週間後に強敵と戦うことに視線を向けている。気を引き締める。同席したスタンドオフの立川理道主将もこう述べていた。

「点差、結果に関しては後からついてくるものだと思っていますけど、(大きな)点差で勝てたのは若い選手にとって自信になる。いい準備をすると結果に現れるという経験がいまのチームには大事。ここで気を抜くのではなく、いい準備をしてフィジー代表に立ち向かいたいです」

 指揮官が笑顔で冗談を述べたのは、プレイヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた李承信に触れた時だ。

 もともと司令塔のスタンドオフとしてキャリアを積ませていた23歳のプレーメーカーは、この日、最後尾のフルバックで先発。防御をいなす動きでチャンスを量産していた。

 殊勲の若手についての質問に、ジョーンズは…。

「まずは李が本日プレイヤー・オブ・ザ・マッチになったことで、アサヒビールを 100 本、獲得してしまったことを懸念しています。ビールがとても好きなプレイヤーなので。自分としては、他の人に与えて欲しかったなと思っているところです。

 …冗談はさておき、試合にとてもいい形で順応しておりましたし、いい形で仕掛けながらプレーをするところがよかったです。ゴールキックに関しても確率で決めていますので、今後も期待したいです」

——スタンドオフのスターターは立川選手でした。

「立川はとても落ち着いているところがポイントです。スピードがあるなかでもいい判断ができますし、本日はディフェンスもフィジカル面を見せられていました。やはりチームにプラスの面、付加価値が多い。彼がいてくれることでチームとしても強くなりますし、いい影響が与えられると思っています。

 前回のワールドカップの時、テストマッチに耐えうる10 番(スタンドオフ)は松田力也だけだと自分は判断しました。今後テストマッチでプレーできる10番の育成が早急の課題だと考えました。

 現状では、李に関しては、能力が見込める。理想的には李をテストマッチの10番として育成できればと思います。

 今回、15番(フルバック)では山沢(拓也)、矢崎(由高)を離脱で失っています(山沢の詳細は15日時点では未発表も、関係者によるとコンディション面が理由。矢崎はかねて早稲田大学での活動に専念)。そんななかでは立川が10番、李が15番といったところが、バランスとしては最適だと思っています。

 我々の置かれた状況はユニーク。矢崎は昨日、早稲田大学の試合で4トライ! これについては理解していて、文句を言うつもりはありません。そんななか、立川には100パーセントの信頼を置いています。2015年のワールドカップまでの4年間、一緒にワークしてきました。謙虚で真摯な態度でトレーニング、チームに臨んでくれている」

——セレクションポリシーについては。

「長期的な戦術としては2027年のワールドカップでトップ4になるためのスコッドを育成しますが、(試合へは)毎週、毎週、ベストの23名を選ぶことにしています」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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