海外ルーツ日本語指導必要な高校生、中退率平均の7倍超えるー文部科学省が対策へ
日本語の力が十分でない海外ルーツの高校生が抱える大きな困難
2018年9月30日、朝日新聞朝刊一面に「日本語教育必要な生徒、高校の中退率9%超 公立校平均の7倍」というショッキングな見出しが大きく掲載されました。これは文部科学省が隔年で実施している「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」の平成30年度版(未公開*1)に新たに盛り込まれた調査結果の一部を取り上げたものです。
この「日本語指導が必要な児童生徒」に関する調査では、これまで「公立高校に何人、日本語指導が必要な生徒が在籍しているか」までしか把握することができず、高校中退率や進路決定の状況については実態がわからないままとなっていました。
(「日本語指導が必要な児童生徒」調査については拙記事 『「日本語指導が必要な子ども」4万人以上に―指導体制追い付かず、1万人の子どもが無支援状態』や『どの子に「日本語指導が必要」なのか、客観的測定採用校4分の1―曖昧な判断実態明らかに』を参照)
朝日新聞の当該記事によると、
であり、日本語の力が十分でない海外にルーツを持つ高校生の中途退学率(日本語指導が必要な生徒9.61%/公立高校生徒1.27%でその差7倍以上)だけでなく、高校卒業時点で大学や専門学校等に進学する割合や進路未決定のまま卒業する生徒の割合なども軒並み、それ以外の高校生と比較し、大きな差があることがわかりました。
初めての実態調査を足場に
以前から、海外にルーツを持つ子どもを支えてきたNPOやボランティア団体などは、こうした子どもたちの高校進学率の低さ(推計70%前後)に加え、高校進学後の中途退学率の高さを問題視する声がたびたび上がっており、具体的な実態調査が望まれてきました。
今回、文部科学省が「日本語指導が必要な」という限定(すべての海外ルーツの高校生の状況、ではない)ではあるものの、外国籍の高校生だけでなく、日本国籍を持ちながらも日本語を母語としない生徒を含めた実態調査を実施したことや、朝日新聞が早い段階でこの点にも着目し大きく報道したことは、今後、必要な支援・対策を行っていくために大きな意義があるもので、関係者として感謝申し上げます。
文部科学省ではこの実態を踏まえ、平成31年度概算要求に関連施策として、新規事業「外国人高校生等に対するキャリア教育等の充実(*2)」(2億円)を盛り込みました。高校やNPO等など約10団体程度に対して、企業やボランティアなど地域関係団体との連携の下、中退予防や進路保障の観点から包括的な支援を行う取組をサポートするとのことです。
海外にルーツを持つ「高校生」に対して、政府が何らかの事業を行う計画を盛り込んだのも、実態調査同様今回が初めてとなります。これまで文部科学省では「小中学校に在籍する子ども」に関して日本語教育や就学支援を中心に取り組む自治体や団体等への補助事業は行ってきたものの、高校入学後の配慮やサポートについてはごく一部の都道府県を除き、主に各高校の判断に任されていました。その結果、日本語の力が十分でない生徒は大きな困難を抱えてきました。
なぜ「日本語がわからない」のに高校に入れるのか
そもそもなぜ「日本語の力が十分でない子ども」が高校進学できるのか、疑問に思う方々もいらっしゃるかもしれません。公立高校の入試制度は各都道府県等により異なりますが、全国47都道府県や、市立高校を持つ自治体合わせた62地域の内、外国籍や海外にルーツを持つ生徒等に対して、「特別入学枠(一定の要件を満たした外国籍等の子どものみが受検できる枠組み)」や入試において試験問題のルビ振りや辞書の持ち込みなど、何らかの「特別措置」を行っている地域は58地域に上ります。
(まったく何の措置等を持たない地域は62地域中、4地域のみ)
これは、外国人支援に関わる有志が行っている「都道府県立高校における外国人生徒・中国帰国生徒等に対する2018年高校入試の概要」調査結果が明らかにした数値で、多くの地域で、海外にルーツを持つ受験生の高校受験に際して、何らかの配慮がなされていることがわかります。
また、地域によっては「定員内不合格(受験生の数が入学定員数を下回った場合、全員合格になる)」を出さないケースもあり、定員割れのこうした地域の高校では、日本語がほとんどわからない生徒でも試験を受ければ合格し入学できると言った状況です。
一方で、同調査によれば、高校入学後に日本語や教科の支援の実施は6の地域のみであり、各学校または校長判断で実施が可能(実際に実施しているかどうかは不明)とした地域でも25に留まることも明らかとなっています。
つまり、多くの地域では入口では「日本語の力が十分でなくても高校に入れる」よう支援がなされているにも関わらず、入学後には日本語で学ぶためのサポートを十分に用意できていないという状態にあったのです。
より効果的な取組と地域間格差の解消に向けてさらなる工夫を
この矛盾を抱えた状況を次年度以降、海外にルーツを持つ高校生に対する新たな施策による取組でどのように改善できるのか、期待が高まりますが、これまで「海外にルーツを持つ子ども支援」は日本語教育や学習支援など、「教育」に関わるサポートを行っている団体が大半を占め、高校生世代に必要となる「キャリア教育」や「自立(を目指した)支援」についての取組はまだ少なく、ノウハウや経験値の蓄積がない中で受け皿の不足が懸念されます。
また、全国的に外国人が多く暮らしている自治体では関連支援団体や人的資源は比較的豊富である一方で、外国人の数自体が少ない自治体や地域では海外にルーツを持つ子ども支援団体や人材自体が不在であったり、ボランティアや支援者の高齢化が進んでいるという状況で、支援の質と量に地域間格差が大きいことは以前から指摘されてきました。
新たに始まる海外ルーツの高校生に対する支援においても、この地域間格差がそのまま影響するであろうことは十分に考えられ、支援格差の拡大が一層進む可能性は否定できません。支援対象となる子ども・若者の範囲拡大と同時に、この地域間格差をどのように解消するかについて、日本語教育専門家の育成・登用やICTの活用、すでに日本人を主な対象とした高校生支援グループ等の連携などを含めた、更なる検討と工夫が求められます
公立学校内での支援拡充の外側で
今回の調査および次年度に新たに誕生する施策やこれまでの取組によって、海外にルーツを持つ子どもに関する日本語教育等支援の枠組みは「小学校、中学校、高校」においてそれぞれ実施されることとなります(支援の空白地域があったり、質や量の課題は別として)。
着々と体制の整備が進むことを歓迎する一方で、事実上の就学拒否による不就学や、日本の学校に入った後、いじめや日本語がわからないことなどから不登校状態に陥ってしまった子ども、出身国で中学校相当を卒業してから15歳以上で来日し、その後自力で高校受験をしなくてはならない「既卒(学齢超過)者」、など、未だにこうした枠組みからこぼれおちてしまっている海外ルーツの子どもたちに対する支援についても、その体制整備を急がねば、せっかくのバイリンガル・バイカルチャーのポテンシャルを潰しかねません。それはその子自身にとってだけでなく、日本社会にとっても結果として大きな損失となります。
外国人受入れに舵を切り、事実上の移民国家としての道を歩み始めた日本で、日本語を母語としない子ども達が健やかに成長していくための体制の整備は必須であり、私たちの近い未来を左右する社会全体の喫緊の課題となっています。
(*1) 文科省担当者によれば、調査の全体的な結果については2019年春に文科省から公開予定。すでに公開済みの同調査平成28年度版は「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成28年度)」を参照。
(*2) 文部科学省による「外国人受入れ拡大に対応した日本語教育・外国人児童生徒等への教育の充実」関連施策・予算については「2019年度概算要求のポイント」p32 (資料掲載ページ番号は p30) を参照