「日本語指導が必要な子ども」4万人以上に―指導体制追い付かず、1万人の子どもが無支援状態
公立学校に通う「日本語がわからない子ども」43,947人―初の4万人台に
2018年6月13日、文部科学省より「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」、平成28年度(最新版)の結果が公表されました。以前からたびたびご紹介していたこの調査は、公立小、中、高等学校、特別支援学校等に在籍する子どもを対象として、平成3年にスタート。平成22年度までは毎年、平成24年度からは2年ごとに調査を実施し、その結果が公表されています。
前回の調査(平成26年度)では、日本語指導が必要な子どもの数は「約37,000人」でしたが、2年後の最新版で公表された数字は「43,947人」。10年前の平成16年度調査と比較すると、約1.6倍の増加となり、初の4万人台を越えました。
この内、外国籍の子どもは34,335人。前回調査時点で29,198人でしたので、5,000人以上の増加に。また、日本国籍ではあるものの日本語を母語としない子どもや、いわゆる「ハーフ」「ダブル」など国際結婚家庭の子などで、日本語指導が必要な子どもが9,612人おり、前回調査比21.7%の増加となりました。
増加のスピードに追い付かない学校現場
日本語指導が必要な児童生徒は、今や、全市町村(1,741)の半数に上ります。都道府県レベルでみても、日本語がわからない子どもの在籍数が2年前より減少に転じたのは、岩手県や高知県などの限られた自治体にとどまり、全国的に増加傾向にあります。
一方、こうした子どもたちを受け入れる学校での指導体制の整備が追いついておらず、日本語学習など特別なサポートが得られている子どもの人数は増えているにも関わらず、割合は、前回調査より外国籍で6%、日本国籍で4%減少する結果となりました。
数にして10,400人もの子どもたちが日本語がわからないにも関わらず、学校で何の支援も受けられていない無支援の状態に置かれています。学校外でボランティア団体等による支援を受けている可能性もありますが、彼らが日常生活の大半を過ごす学校の中でサポートが得られない状況は、子どもたちにとって大きな苦痛であり、気づいたら学校から足が遠のき、不登校状態に陥るリスクを高めます。
日本語がわからない子どもたちを、なぜ学校は放置してしまうのか
今回の調査の中では、日本語がわからない子どもたちに、学校が支援を提供できない理由が明らかにされています。最も理由として多く挙げられたのは、「日本語指導を行う人がいない(2,391校)」で、第2位に「在籍学級で対応できる(1,907校)」、以下、「教室や時間がない」、「日本語の指導方法がわからない、教材がない」と続きました(複数回答)
とにかく対応できる人もいなければ、場所も時間もないし、どうやって日本語を教えればいいのかすらわからない!という教育現場の悲鳴が聞こえるようです。
学校教員の多忙さがクローズアップされる現在、日本語がわからない子どもへ適切な支援環境を提供できる学校がどのくらいあるでしょうか。
実は、メディアで時々見かけるような、生徒の4割が外国にルーツを持っている学校や、日本語学級が設置されている学校、日常的な支援体制が構築されている学校の方が「レア」であり、日本語指導が必要な子どもを抱える半数以上の学校が、日本語がわからない子どもはその学校で1人または2人だけ、という状況にあります。
ぽつんと転入してきた日本語がわからない子どものために、特別な対応ができる人材やノウハウを確保できず困り果てているのが現状です。
支援体制の欠如が、学校の門を閉ざしてしまう危険
筆者の運営するYSCグローバル・スクールでは、来日直後の子どもたちの日本語教育を専門的に行っていますが、中には学校に支援体制がないために、就学手続きができない状態でスクールへやってくる子どもたちもいます。
中国にルーツを持つある兄弟。来日直後に、母親が自治体の教育委員会へ就学の相談に行ったところ、「学校側が、日本語支援が何もない状態で入っても、放置になってしまい子どもがつらい思いをする。どこかで日本語を学んでから来てほしい」と言っていると伝えられ、不就学のまま、当スクールで日本語支援を受けることになりました。
学校に支援体制がないばかりに、「子ども自身がつらい思いをするから」と、(建前上)”善意の配慮”が働き、受け入れに消極的になってしまうというこの兄弟のようなケースは、それほど珍しいことではありません。
これを事実上の就学拒否ととらえるかどうかは意見が分かれるところですが、いずれにせよ、教育機会へのアクセスが「受け入れ態勢の不備」を理由に制限されている事実に変わりはありません。
まずは使えるものはすべて使って、みんなで支える
このように、受け入れ態勢の整備が追い付いていない現状ではあるものの、政府が何も手を打っていないというわけではありません。現在、全体としては公教育における日本語教育機会の拡大に向けて、様々な動きが加速し始めています。ただ、それがあまねく広がっていくためには、まだ時間がかかりそうです。
一方で民間も含めて、学校の中で先生方が活用できる支援ツールやアプリの開発がすすめられ、すでに多くがインターネット上で無料公開されています。ICTを活用することで、専門家とつながり日本語教育機会を提供できるサービスもあり、これらをフル活用することで、人材も予算も場所もないような状況でも、一定の受け入れ態勢を整備することは可能です。
上の画像は、文部科学省が公開している「CLARINET」です。サイト内には、関連情報の他、文科省が開発した外国人児童生徒受け入れの手引きや、翻訳された学校文書のポータルサイト、子どもたちの日本語力を測るアセスメントツールなどが集約されています。
こうした情報や支援ツールの活用ノウハウを学校側に提供していくことで、まずは学校自体が、自信をもって外国ルーツの子どもたちを受け入れられる状況を作り出すことが急務です。
今あるものを全てフル活用し、社会全体で子どもたちの教育を支えなければ間に合わない。
そんな事態に直面しています。