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日本の敗因は『攻めのトラップ』が出来ていないことだ

清水英斗サッカーライター

コンフェデレーションズカップ2013の開幕戦、日本はブラジルに0-3の完敗を喫した。

1失点目、2失点目のシーンでは、クロスを上げるマルセロ、ダニエウ・アウベスにサイドで寄せ切れず、フリーでクロスを上げさせた。また、中央でも相手に対するマークがはっきりしておらず、押し上げも甘い。さらに終了間際にはカウンターを食らい、吉田麻也が中央に気を取られて足を止めた瞬間に縦のスルーパスのコースに走り込まれ、不必要な3点目を与えてしまった。

問題点を挙げればきりがない試合だ。特に残念だったのは、攻撃面であまりにもミスが多く、本来もっとできるはずの後方からのパスワークが機能しなかったことだ。

ボールポゼッション率はブラジルが63パーセント、日本は37パーセント。昨年、0-4で敗れた親善試合よりも今回の日本はより守備的に、ブロックを作って待ち構える戦術を選択した。そのため、ある程度は相手にボールを持たれるのは仕方がない。しかし、それにしても、あまりにも終始ブラジルのペースで試合が進みすぎた。逆にブラジルを慌てさせるような日本のパスワークがほとんど見られなかった。

試合後、ザッケローニ監督は「普段のチームではなかった。本当の日本はもっとやれる」と語った。当然だろう。日本はもっとやれると思う。

問題はその要因だ。なぜ、あれほどミスが多くなってしまったのか?

内田篤人は試合後、「自分たちのサッカーがあまりできていない。ミスが多かった。ブラジルということで見えないプレッシャーというか、敵が来ていなくても1、2メートル近く感じるところがあった」と語っている。

今のブラジルは、攻撃陣が前線からの守備をさぼらずにプレッシャーをかけてくる。日本はそれを受けて焦り、あるいは必要以上に慎重になって積極的なプレーを選択できなかった。

内田に関しては、85分に細貝萌からのパスを止めようとしたとき、対面するオスカルのプレッシャーを受けてトラップし切れず、ボールがタッチラインを割ってしまった場面が挙げられるだろう。しかし、そのようなミスをしたのは内田だけではない。今野泰幸が何でもないフリーキックのリスタートから内田へのパスをミスしたり、長友と今野の間でも難なくクリアできるボールをコーナーキックにしてしまう場面もあった。いずれも、普段の日本ならあり得ないレベルのミスだ。王国によるプレッシャー、これはパスワークが機能しなかった要因の一つだ。

技術力の差、と言ってしまえばそれで終わりだが、日本とブラジルのボールコントロールには決定的な違いがある。

ブラジルの選手はパスを止めるとき、常にボールを自分の前にさらして、「来てみろ。プレスをかけてきたら、サッとかわしてやる」と言わんばかりの余裕を持ってトラップする。いわば『攻めのトラップ』だ。守備者がかわされることを恐れて飛び込めなくなるような位置にボールを置いている。

しかし、日本の選手はこれが出来ていないのだ。ボールを奪われることを恐れて、自分の前にボールを置くことができない。まだ相手との間合いは2メートル以上あるのに、左右や後ろを向いてトラップして一生懸命にボールを隠そうとしたり、誰かに預けようとしたり、まるでボールではなく爆弾を回しているような様子だ。これではパスワークが機能せず、追い込まれるのも必然と言える。

唯一、日本でそれが出来ていたのが香川真司だった。「来てみろ。かわしてやる」という気迫が表れており、さらに細かいターンや回転を得意とする香川の動きは、フィジカルの当たりが強いブラジルの選手に対して、すき間をスルスルと抜けるようなイメージで効果的に作用していた。

香川だけでなく本田圭佑も、『攻めのトラップ』ができる選手だが、自然身体構造研究所の所長を務める吉澤雅之氏は、この試合の本田について次のように語る。

「本田選手の振れ幅が少ない直線的な剛性が、ブラジルには通用しなかったのではないでしょうか」

『剛性』とは、体や地面の反発力などをパワーに変える運動が得意なタイプを指す。本田は直線的なパワー、突進力はあるが、前後左右へのステップの幅広さ、俊敏性はそれほど大きくない。対ブラジルという相性を加味すると、今回は豊かなステップや緩急を動きの特徴とする『柔性』の香川のほうが、自身の長所を出しやすかったのかもしれない。

いずれにせよ、彼らのようにプレッシャーがきつい中でも余裕を持ち、強気な『攻めのトラップ』ができる選手が増えなければ、日本は世界へのスタートラインにも立つことができない。オーストラリア戦後に本田が言っていたように、個人のレベルをもっと上げなければならない。

そのためには普段のJリーグや欧州リーグでも、個人が強気なトラップを心がけなければ始まらないし、逆にJリーグで守備をする選手は、それを許さないくらいの強烈なプレッシャー、たとえばこの日のブラジルくらいの迫力で彼らに襲いかかってもらいたい。その中で磨かれた本物の技術でなければ、世界では通用しないからだ。

ブラジル戦で、個の力が足りないことは改めて明らかになった。問題はそれをどのように向上させるかだ。

このメッセージは、日本代表選手やJリーガーのみに向けたものではない。未来のサッカー選手を夢見て、日夜練習に励んでいる子どもたち、あるいはその指導者にこそ、強く意識してもらいたいと思っている。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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