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『新型コロナワクチンで6人のアナフィラキシー』は、どれくらいのリスク?アレルギー専門医が考察

堀向健太医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。
(写真:アフロ)

アナフィラキシーとは、『アレルギーになりうる物質により、急速に全身に強いアレルギー反応が起こり、いのちに危険が及ぶ可能性がある反応』のことです。

簡単にいえば、『特に強いアレルギー反応』といえばよいでしょう。

先日、『アメリカ コロナワクチン接種後 6人に激しいアレルギー症状』という報道がありました。心配になってしまう記事ですよね。では、新型コロナに対するワクチンは、アレルギー症状を起こしやすい危ないワクチンなのでしょうか?

6人という人数ではなく、頻度を考えてみましょう。

写真:WavebreakMedia/イメージマート

『6人』という人数だけでは、多いのか少ないのかよくわかりませんよね。

記事をよく読むと、27万人に接種されたうちの6人だったそうです。すなわち、ざっくり計算すると100万人あたり22人になります。これが多いのか少ないのかを考える必要があります。

皆さんは病院に受診したとき、さまざまな薬を処方されますよね。

たとえば、抗生剤や解熱薬を処方されることもあるでしょう。では、これらの薬剤でアナフィラキシーを起こす可能性はどれくらいでしょうか。

よく使われるセファロスポリンという抗菌薬に対してのアナフィラキシーの頻度は、100万人あたり1人~1000人と推定されています(幅が広いのは研究ごとに差があるからです)(※1)。

そして、解熱鎮痛剤に対するアナフィラキシーの頻度は、100万人の過去1年あたりで考えると30~500人程度ではないかと考えられています(※2)。少なくないですよね。しかし、必要がある薬剤であれば、みなさんも使用することと思います。

では、他の予防接種と比較するとどうでしょう。

米国のデータベースにおける検討で、ワクチン接種約2500万回を検討した報告では、アナフィラキシーの発生率はワクチン 100 万回あたり 1.31回と推定されています(※3) 。この結果と比較すると、新型コロナのワクチンは少し多い印象を持つかたもいらっしゃるでしょう。

(※1)New England Journal of Medicine 2001; 345:804-9.

(※2) Current Treatment Options in Allergy 2017; 4:320-8.

(※3)Journal of Allergy and Clinical Immunology 2016; 137:868-78.

これらの結果と比べ、新型コロナのワクチンのアナフィラキシーは多いのでしょうか?

写真:ロイター/アフロ

しかし、これらの頻度をそのまま横並びで比較するわけにはいきません

なぜなら、新型コロナのワクチンは新しい方法で製造されています。

世界の注目が集まっているからこそ、その副反応の情報収集はより丁寧に行われており、『最大限の情報がひろいあげられている』可能性が高いからです。

前に挙げた他の予防接種に対するアナフィラキシーの発生率は、情報データベースを『後から見直す』という研究手法で行われており、『過小評価しやすい』ことも挙げられます。

そのため、『新型コロナのワクチンは、ややアナフィラキシーの頻度が他のワクチンより高い可能性があるかもしれないけれども、中止するような確率ではないだろう』と考えられます。

もちろん、アナフィラキシーのリスクがないわけではありません。ですので、『他のワクチンと同じように』アナフィラキシーのリスクに配慮していかなければならないとも思っています。

むしろ、発熱や接種部位が腫脹したりする率が高いことが少し心配です。

たとえば新型コロナのワクチンは、接種後に発熱(38度以上)が若年者で16%、高齢者では11%にあったとされています(※4)。

これらの副反応は、『重篤でない副反応』にあたりますが、予防接種に対して慎重な姿勢の方が多い日本では敬遠される理由にならないかを懸念しています。

事前に、その頻度を心得ておく必要がありそうです。

(※4) N Engl J Med. 2020 Dec 10. doi: 10.1056/NEJMoa2034577. Epub ahead of print. PMID: 33301246.

新型コロナに対するワクチンは、『今までにないスピードで開発されたワクチン』ですが、決められた手順を飛ばして作られたわけではありません。

写真:アフロ

新型コロナに対するワクチンは、新しい手法を用いて作られています。

だからこそ、新しいワクチンに対する安全性調査は十分に必要ですし、私自身も、今後の注視は必要と思っています。

しかし、一部報道にあるような『急造ワクチン』という表現は過剰ではないかと感じます。今回、このワクチンは、各部署の連携を密に取りながら、スムーズな開発が行われるように最大限の配慮が行われたからこそ、早い開発が可能となったのです。

リレー競走を思い浮かべてみましょう。

これまでのワクチンの開発はひとつひとつの段階を、ゆっくり踏んだものでした。

すなわち、第一走者が走り終わったら第二走者のウォーミングアップをはじめ、ゆっくり走り出し、そしてまた第三走者の用意はその後…というスピード感だったのです。そして、途中で走り終えることが難しいとわかったときは、第一走者から選び直していたのです。決して悪い方法ではないですよね。

新型コロナのワクチンは、まず多くの第一走者が走り始めました。

そして第一走者が走り終える前にバトンをどこで受け取るかを決めながら、スムーズに受け取りつつ、さらに次の走者の準備を始める…そんな400mリレーのような方法をとったのです。

そして、すべての治験を正式な手順を踏んで実行されたうえで、これまでにないスピードで開発されました。

これは、人的資源や資金が潤沢だという点もあるかと思いますが、多くの関係者の方々のご尽力・治験参加者の方々の気持ちもあったからこその結果と思います。

新しいワクチンだからこそ、慎重に情報を確認しながら、しかしリスクを過大に評価しないように捉えていきたいと思います。

関係者の方々に感謝申し上げます。

医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。大学講師。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療研究センターアレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5600人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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