Yahoo!ニュース

流行中のマイコプラズマ。『抗菌薬が苦くて飲めません』という話が多いのはなぜ?対策は?

堀向健太医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。
PhotoAC

マイコプラズマ肺炎が増加しています。

その治療には、抗菌薬が使用されますが、抗菌薬にもさまざまあります。そしてマイコプラズマへの抗菌薬は、『マクロライド系抗菌薬』が使用されます[1]。

しかし、外来では『苦くて飲めないです。どうすれば良いでしょうか…』という質問を受けることもあります。

もちろん、薬を飲まずに治療をすることは難しいです。しかし、その苦みがなぜ起こるのかを知っていると、対策が立てやすくなるかもしれません。

そこで今回は、マクロライド系抗菌薬の苦みがなぜ起こるのか、そしてその対策を解説します。

マクロライド系抗菌薬は1952年に発見された歴史ある薬ですが、その苦味が課題になっています

マクロライド系抗菌薬の名前の由来は、「大きな(マクロ)」「ラクトン環(ライド)」という構造を持っていることから来ています[2]。

マクロライド系抗菌薬の歴史は1952年にさかのぼります。
最初のマクロライド系抗菌薬であるエリスロマイシンは、フィリピンの土の中から発見されました[3]。

その後、現在の主力であるクラリスロマイシンやアジスロマイシンなどの改良された『誘導体』が開発されていきました。歴史のある薬ということですね。

マクロライド系抗菌薬は、細菌のタンパク質を合成する装置(リボソーム)に結合し、細菌のタンパク質を作ることを邪魔することで増えることを抑えて効果を発揮します[4]。

しかし、マクロライド系抗菌薬には大きな課題があります。

強い苦味があることです [5]。

この苦味の原因は、マクロライド系抗菌薬の構造にあります。

マクロライド系抗菌薬の苦味は子どもが飲むことを難しくするため、コーティングなどの対策が取られています

ラクトン環という、マクロライド系抗菌薬の『抗菌薬としての作用の元』でもある輪っか状の構造が、苦味の元となっているのです[5]。

子どもは、錠剤やカプセルの薬を飲むことが難しい場合が多く、より苦みを感じやすい粉薬を飲むことになります。

さらに、子どもは大人よりも苦味に敏感であるため、マクロライド系抗菌薬の服用が特に難しくなりがちです。

そこで、この苦味問題に対して、製剤の段階から様々な対策が取られています。

その一つが、薬の粒子をコーティングする方法です。コーティングにより、マクロライドのラクトン環が直接舌に触れるのを防ぐことができるのです[6]。

マクロライド系抗菌薬を飲むときは酸性の飲み物を避け、直前に混ぜて服用すると良いでしょう

イラストACの素材から筆者作成
イラストACの素材から筆者作成

しかし、このコーティングには弱点があります。

酸性のものと接触すると、コーティングが溶けてしまいやすいのです。そのため、マクロライド系抗菌薬を服用する際は、以下の点に注意が必要です。

1)苦味を強める飲み物を避ける。

・ 柑橘系のジュース

・ スポーツ飲料

・ 乳酸菌飲料

・ ヨーグルト

これらの飲み物は酸性度が高く、コーティングを溶かしてしまう可能性があります[7][8]。

2)苦味を緩和する飲み物を選ぶ。

・ 牛乳

・ プリン

・ 練乳

・ アイス(特にチョコレートアイス)

・ ココア

これらの飲み物は酸性度が低く、苦味を感じにくくします[8][9]。

3)服用のタイミングを工夫する。

薬と飲み物は飲む直前に混ぜることが重要です。

長時間置いておくと、酸性度が低い飲み物でもコーティングが溶けてしまう可能性があります。

これらの対策を活用することで、マクロライド系抗菌薬の苦味を軽減することができるでしょう。

マイコプラズマは、家族マスクの着用や手洗内で感染を起こすこともあります[10]。しかし、マスク、手洗い、うがいなどの基本的な感染対策を徹底することで、感染リスクを下げることができます。

マクロライド系抗菌薬は、マイコプラズマ肺炎の治療に欠かせない重要な薬ですが、その効果を生かすために苦味対策を知っておくことは重要です。

この記事が、皆さんのなにかのお薬にたてば幸いです。

※この記事は、2024年8月18日付「ほむほむ先生の医学通信」の記事『マイコプラズマの薬『マクロライド系抗菌薬の苦み』に、どのように対策する?』を短縮し、修正のうえ転載しました。

参考文献

[1]東京都感染症情報センター:マイコプラズマ肺炎の流行状況https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/mycoplasma/mycoplasma/

[2]Woodward RB. Struktur und Biogenese der Makrolide. Angewandte Chemie 1957; 69:50-8.

[3]Haight TH, Finland M. Laboratory and clinical studies on erythromycin. The New England journal of medicine 1952; 247 7:227-32.

[4] Janas AM, Przybylski P. 14- and 15-membered lactone macrolides and their analogues and hybrids: structure, molecular mechanism of action and biological activity. European journal of medicinal chemistry 2019; 182:111662.

[5]寄り道編(6)マクロライドの苦みと飲み合わせ【臨床力に差がつく 医薬トリビア】第55回

https://www.carenet.com/series/trivia/cg004164_055.html

[6]杉浦 健. 製剤化のサイエンス 臨床で使いやすい薬をめざして(第47回) クラリスロマイシンDS小児用10%「トーワ」 一般名:クラリスロマイシン. ファルマシア 2016; 52:338-40.

[7]大石 悟, 他. 【薬に関する素朴な疑問】小児が飲みづらい薬と、それに対する対処法を教えてください. 小児内科 2008; 40:225-7.。

[8] 大正製薬:クラリスドライシロップを服用されている方へhttps://medical.taisho.co.jp/di/material_patient/62533.pdf

[9]甲〆 慎二,他. 乳幼児の散剤の服用について コンプライアンス向上への取り組みとその成果. 小児科臨床 2007; 60:337-49.

[10] Liu X, Zhang Q, Chen H, Hao Y, Zhang J, Zha S, et al. Comparison of the clinical characteristics in parents and their children in a series of family clustered Mycoplasma pneumoniae infections. BMC Pulmonary Medicine 2024; 24.

医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。大学講師。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療研究センターアレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5600人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

堀向健太の最近の記事