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扇風機付きベビーカーに、赤ちゃんを熱中症から守る効果はあるの?

堀向健太医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。
(写真:アフロ)

暑いですね。
各地では40度を超える暑さが記録されて、『命に関わる危険な暑さ』と報道されています[1]。

そもそも日本の平均気温は上昇しています。

東京管区気象台のデータによると、1920年から2020年にかけて東京の平均気温が2.6度上昇したのだそうです[2]。すなわち、熱中症対策がますます重要になっています。

特に、小さな子どもは体温調節機能が未発達ですし、地面に近いところで生活するため、熱中症のリスクが高くなります[3]。

熱中症対策は、『涼しいところに逃げる』ことが最も重要な対策です。

ですので、エアコンの使用が熱中症予防のために推奨されていますが、電気代の高騰や外出時の対策として、扇風機やその他の方法にも注目が集まっています。

たとえば、赤ちゃんや乳児と外出せざるを得ない場合に、『ベビーカーに取り付ける扇風機』も、一つの対策として注目を集めています。
では、そのベビーカーに取り付ける扇風機は実際に有効なのでしょうか

扇風機の効果は、年齢によって異なる

写真:イメージマート

実は、扇風機の効果については、年齢によって異なることが分かっています。

2015年にオタワ大学で行われた研究で、8人の健康な若い男性を対象に実験が行われました[4]。

気温を36度から42度、湿度を25%から95%に変化させながら、心拍数や体温の変化を観察したのです。すると扇風機を使用した方が体温の上昇がゆっくりになり、汗の量も増えて快適になりやすいことが分かりました。これは若い方への効果ですね。

では、高齢者へはどうでしょうか。

2016年にテキサス大学で高齢者を対象とした同様の研究が行われました[5]。すると若者とは逆に、扇風機による体温上昇を遅らせる効果はなく、むしろ扇風機を使用すると心拍数や体温が上昇するという悪い効果が見られたのです。

これらの研究結果から、年齢によって扇風機の効果が大きく異なることが分かります。

しかしこれらの研究結果は、赤ちゃんや小さな子どもが外出時に扇風機を使って有効かどうかに関する研究ではありませんね。そして最近、扇風機を取り付けたベビーカーの温度を調査した研究が行われました。

ベビーカーの温度を下げるために、扇風機は有効か?シドニー大学の最新研究

写真:イメージマート

2019年11月から2020年2月のオーストラリアの夏季に行われたシドニー大学の研究が、2023年に発表されました[6]。

温度センサーを取り付けたベビーカーを、午前11時から午後3時30分まで20分間ずつ外で移動させ、覆いを閉じた標準的なベビーカーと比較して、他の方法を確認したのです。

その方法としては、クリップで取り付けるタイプの電池式扇風機を取り付ける方法、さらにモスリン布、フランネル布というやわらかい布でベビーカーを覆ったり、さらにその布を水で湿らせたり…を行いました。

まず、ベビーカー内部の温度は、外気温よりも3.5度高くなりました

これは、何も対策をしないと、ベビーカー内部がかなり暑くなってしまうことを示しています。

しかし、扇風機を取り付けただけでは、ベビーカー内部の温度はわずかに下がっただけでした。つまり、扇風機だけでは十分に涼しくすることはできないということです。しかし、乾いた布(モスリン布やフランネル布)は、かえってベビーカー内部の温度が上昇させてしまいました。乾いた布はむしろ熱を閉じ込める結果となり、逆効果だったと考えられます。

では、湿らせた布を追加するとどうだったでしょうか。ベビーカー内部の温度が外気温とほぼ同じになり、かなりの効果が見られました。湿らせた布の水が蒸発することによる冷却効果が働いたと考えられます。

しかし、もっとも効果があったのは、湿らせた布に扇風機を併用した方法でした。

ベビーカー内部の温度は、外気温よりも低くなりました。すなわち、湿らせた布の蒸発冷却効果と扇風機の風による冷却効果が相乗的に働いたと考えられます。

この研究結果から、ベビーカーに取り付けた扇風機単体ではあまり効果はなく、湿らせた布の水分蒸発効果と組み合わせることで涼しくする効果が得られたといえます。これは、ベビーカーのなかの赤ちゃんの熱中症対策として有望な方法と言えるかもしれません。

もちろん、注意点もあります。

この研究結果を、実際の生活に使用する際の注意点

写真:イメージマート

20分程度の短時間の結果なので、長時間の外出では効果が落ちる可能性があります。

また、湿らせた布は乾くと効果が低下するので、定期的に濡らし直す必要があるという手間もかかってきます。また、扇風機や湿らせた布が赤ちゃんの顔などに直接触れないよう注意が必要です。

そしてこれらの方法は、あくまで補助的な対策です。

赤ちゃんの体調をこまめに確認しながら、可能な限り暑い時間帯の外出を避けること、十分な水分補給を行うことなど、基本的な熱中症予防策も忘れずにおこなっていくことが重要です。

暑い夏はまだまだ続きます。この記事がなにかのお役に立つことを願っています。

※この記事は、2024年7月6日付「ほむほむ先生の医学通信」の記事『扇風機を取り付けたベビーカーは、熱中症予防に有効ですか?』を要約、修正のうえ転載しました。

【参考文献】

[1]NHK:三重 桑名で40.4度に あすも危険な暑さ予想 熱中症対策徹底を

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240809/k10014543871000.html

[2]東京都の気候変化:東京管区気象台

https://www.jma-net.go.jp/tokyo/shosai/chiiki/kikouhenka/html/tokyo.html

[3]環境省:熱中症予防サイト

https://www.wbgt.env.go.jp/lifewbgt.php

[4]Ravanelli NM, Hodder SG, Havenith G, Jay O. Heart rate and body temperature responses to extreme heat and humidity with and without electric fans. Jama 2015; 313:724-5.

[5]Gagnon D, Romero SA, Cramer MN, Jay O, Crandall CG. Cardiac and Thermal Strain of Elderly Adults Exposed to Extreme Heat and Humidity With and Without Electric Fan Use. Jama 2016; 316:989-91.

[6]Bin Maideen MF, Jay O, Bongers C, Nanan R, Smallcombe JW. Optimal low-cost cooling strategies for infant strollers during hot weather. Ergonomics 2023; 66:1935-49.

医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。大学講師。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療研究センターアレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5600人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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