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三重県の高校でブラック校則廃止、しかし生徒との信頼関係を取り戻す見直しになっているのか

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:PantherMedia/イメージマート)

 文科省が促していることもあってか、校則の見直しが進みつつある。しかし、「らしく」という言葉で縛ろうとする学校側の意識そのものが変わらないことには、ブラック校則はなくなりはしない。

|いまの校則だけを変えるだけでいいのか

 三重県のすべての県立高校で、髪型や男女交際、下着の色などに関する校則が廃止されたことが、「県教育委員会などへの取材で明らかになった」と『毎日新聞』(6月15日付、電子版)が伝えている。県教委では同紙の取材に、「時代にそぐわない『過去の遺物』のような校則も残っている。今後も見直しを求めていく」と説明しているという。

 頭の側面を刈り上げて頭頂部を長めに残す髪型、いわゆる「ツーブロック」を校則で禁じている高校は少なくない。

 東京都では昨年7月の都議会でも問題にされ、東京都教育委員会の教育長が述べた禁じている理由が物議を醸した。教育長は、「外見等が原因で事件や事故に遭うケースなどがございますため、生徒を守る趣旨から定めている」と説明したのだ。

「生徒を守るため」という大義名分をかざしたのだが、「髪型が事件や事故に遭う原因か」とか「そんなケースがあるのか」といった意見がSNS上でも飛び交い、テレビでもとりあげられる騒ぎになった。「ブラック校則」と呼ばれる理不尽な校則の見直し論議に、火をつけるきっかけにもなった。

 東京都の教育長が物議を醸すような説明しかできなかったのは、多くの人を納得させられる理由がないからである。そんな、校則が多い。だから、ブラックなのだ。

 三重県の全日制県立高校54校のうち、24校でもツーブロックの髪型を禁じていた。その校則が、今春までに全校で廃止されたという。

 注目したいのは、校則で禁止していた理由が「高校生らしく、技巧をこらしてはならない」ということだったと『毎日新聞』の記事が伝えていることだ。三重県の高校がツーブロック禁止の校則を廃止したのは、「高校生らしく」では世間を納得させられないと判断したからにほかならないことになる。

|生徒を枠に閉じ込める魔法の言葉

 そもそも「高校生らしく」とは、どういう意味なのだろうか。それが明確なものであれば、三重県の高校も説明のしようがあったのかもしれない。しかし、できなかった。

 考えてみれば、「高校生らしく」とは便利な言葉である。「高校生らしくない」として、ツーブロックや男女交際も禁じることができるし、下着や靴下の色も白だけと決めることができるのだ。

 誰が、「高校生らしく」を決めるのか。それは、学校側でしかない。学校側が「望ましくない」と思えば、「高校生らしくない」と断じて、禁じてきた。それが、校則である。学校側の「枠」に当てはまらないことは、「高校生らしくない」のだ。

「高校生らしく」とは、生徒を自分らの「枠」に閉じ込めておくための学校側にとっての魔法の言葉だともいえる。ただ、ただ生徒を枠に閉じ込めるために、学校側は「高校生らしく」を盾にしてきた。それが、ブラック校則を生み出した。

 批判されているのは、ただツーブロックを禁止したことだけではないかもしれない。生徒を勝手な都合で枠に閉じ込めようとする学校側の姿勢そのものが、いま批判されている。

 それを理解せず、批判をかわすために表面的な校則だけを廃止してみても、学校が信頼されることにはつながらないはずだ。それどころか、「高校生らしく」を盾にした新たなブラック校則を学校側はつくってくるだけかもしれない。学校は変わらないし、学校と生徒の関係も変わらない。そこに、信頼関係はない。

 学校側に生徒との関係までを見直していく気があるのなら、ほんとうの意味でブラック校則の無い状態を望んでいるのなら、「高校生らしく」という意識そのものを見直すことこそ必要である。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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