ノルウェー若者はフェミニズム勉強会で何を学ぶ?
ノルウェーの各政党には、「青年部」という10~20代の若者で構成される部署がある。
青年部は「優秀な政治家を育成する学校」「政治に関心がある若者のサークル」のような場所だ。
首相や大臣になるような優秀な逸材も青年部で育つことが多い。
筆者は各政党の青年部が主催する「勉強会」にお邪魔するのが大好きだ。
どの青年部も「メディアにコラムを採用してもらうコツ」「討論練習」「男性や年上の人がしてきがちな圧力的な討論に対する切り返し方」「選挙に向けて!」など、たくさんの勉強会やイベントがある。
今回訪れたのは「左派社会党」青年部の「フェミニズム」勉強会だ。この党は現政権の与党(閣外協力)でもある。
以前にもフェミニズム勉強会は取材しており、今回はレベルアップした第二弾もやるというので、わくわくして向かった。
朝日新聞Globe+ 平等先進国ノルウェーの若者が集う「フェミニズム勉強会」
まずは勉強の前にみんなでピザを食べ、コーラや炭酸飲料水を飲む。
初級と中級のふたつのグループに分かれてフェミニズム講座が始まった。私たちは中級コースに参加する。
今回は特別なゲストが筆者と共にいた。一般社団法人ソウレッジ代表の鶴田七瀬さんだ。
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小学生向けの性教育トイレットペーパーや、教員研修向けの「ブレイクすごろく」などを開発し、販売や研修などを行っている。
また、今年度は緊急避妊薬の無償化制度実現のためのクラウドファンディング「わたしたちの緊急避妊薬(現おひさまプロジェクト)」も行い、8月から若者支援団体と共に、緊急避妊薬の無償提供も行なっている。
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前日に、ノルウェー最大級のスタートアップイベント「オスロ・イノベーション・ウィーク」があったのだが、たまたま知り合い、鶴田さんの興味と青年部は相性が良さそうだったので、お誘いした。
さて、中級のクラスが始まった。
主な内容は、
- 資本主義、家父長制とは
- 女性の売買(圧力手段となるお金・暴力、女性の体の資本化など)
- 売春産業
- シュガーデート(経済的に困る女子大生向けにパパ活することを勧めた昔のノルウェーの広告などを話題に)
- 卵子提供・代理母出産の問題
- パートナー殺人、名誉殺人、フェミサイド
「ポルノ」がテーマなら?
例えば、学校や親がセックスの話題を避けるが故、若者が「ポルノ」動画を閲覧して、ポルノを「普通のセックス」だと思い込む問題は、ノルウェーでは以前から議論されている。
- 学校で性教育としてポルノ動画が使われた事例もある→それほど教員もどう教えていいかわからない・教材がない
- ポルノは依存性が高く、暴力的なセックスが普通のものとして若い世代に広まる
- 「男性が女性を狩り、女性が狩られる」というジェンダーロール
- 性的同意の欠如
- 多くの動画で女性が『ノー』と言っているのに、セックスが強制される問題
などが話し合われた。
- 「女性の体は売り物となるポテンシャルがある」という考えで子どもが育つと、社会にとって大きな痛手
- 社会で弱い立場にいる女性ほど売春をしやすい
- 売春の合法化はさらなる需要と供給をうむかもしれない
- ノルウェーで違法の代理母出産は他国で行われるため、ノルウェーの人にとって代理母出産は金銭的には安い解決策となる・買う側と売る側でさらなる格差をうむ
ということも意見があがり、「根本的な問題は、私たちが女性をどう見ているか」だという声もあった。
さまざまな課題の解決策として挙がった一例は、
- セックス売買法の強化
- 性教育の授業内容の改善
- シェルター増設
- 性的同意法
- 少女のためのフェミニスト防衛術の教室開催(この青年部は防衛術も教えることがあるそうなので、いずれ取材しようと思う)
左派社会党はノルウェーでも左寄りなので、もしこの場に極右とされる進歩党の青年部などがいたら、また違う見解が飛んだかもしれない。
意見交換も活発に行われ、「下着を売る女性は、セックス労働者なのか?どこからどこまでが、セックス労働者?」などの疑問も出た。
筆者が驚いたのは、「これが中級なのか」ということだった。
この夏にオスロ大学の大学院サマースクールで「北欧のジェンダー平等」を履修したのだが、授業内容がほとんど同じ話題だった。単にアカデミックな専門用語と理論でこの話題を取り上げていた、という違いだ。青年部だと、一般市民でも若者でもわかりやすい言葉で問題が話される。
この青年部の上級は一体どんな内容なのだろう……。
中学3年生のカヤさん(14)に感想を聞いた。
「売春など、まだタブーとされているテーマが多くて勉強になりました。青年部としてどういう考えなのか、テーマごとに知ることができて、これから私もどういう考えを発信していこうか参考になりました」
学校の社会科の授業での性教育とはどう違ったのか?と聞いてみた。
カヤさん「学校では、この国に代理母出産という方法が『ある』ということは学びますが、深堀りするわけではないので、今日青年部で学んだような『代理母出産が可能な場合、どのように女性に悪影響を与えるか』までは触れません」
一般社団法人ソウレッジ代表の鶴田七瀬さんは、民主主義を大事にして、若者が政治参加できる環境に目を見張っていた。
鶴田さん「日本の社会科教育の方法だと、政党について身近に感じる機会が少なめです。こちらの青年部の活動の参加者は全体的に年齢は若く、14歳の人もいたり、『学校で政党青年部のことを知った』という学生もいて、驚きました」
「日本ではタブー感の強い社会課題について、大人でも語れるほど知る人も少ないです。ましてや未成年には、性的なものはそれが学ぶべきものか否かに関わらず、環境問題などの他の社会課題と比較して学びの機会を与えられない傾向にあります」
18歳が講師で、他のメンバーに教えていた光景には大きな衝撃を受けたそうだ。