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女性だけの「なでしこ寿司」で男性客が3年以上ストーカー。なぜ寿司店の女性職人は好意を寄せられるのか?

東龍グルメジャーナリスト
「なでしこ寿司」公式サイト

女性だけの寿司店

<女性職人専門の寿司店店長が激白 「執拗な嫌がらせ」被害を公表した理由>という記事で、寿司店「なでしこ寿司」に対して度を越した迷惑行為を行っている男性客が取り上げられています。

日本初という女性職人専門の寿司店「なでしこ寿司」(東京・秋葉原)の店長・千津井由貴さんが、特定の男性から数年にわたって執拗な嫌がらせを受けていることが分かった。J-CASTニュースの取材に、本人が明かした。

出典:女性職人専門の寿司店店長が激白 「執拗な嫌がらせ」被害を公表した理由

「なでしこ寿司」は寿司職人とサービススタッフ、つまり、全ての従業員が女性だけで構成されている日本初の寿司店であり、2010年9月にオープンしてから、日本国内だけではなく、海外からも注目されています。

この「なでしこ寿司」で、一体どのような事件が起きたのでしょうか。

男性客によるストーカー行為

概要は以下の通りです。

千津井さんによれば、嫌がらせ行為を続けているのは、客としてよく店を訪れていた男性だ。好意を寄せていた従業員が結婚を機に店を辞めた直後から、千津井さんへのつきまといや店の営業を妨害するような行為が始まったという。

出典:女性職人専門の寿司店店長が激白 「執拗な嫌がらせ」被害を公表した理由

「なでしこ寿司」によく訪れている男性客が、好意を寄せていた女性従業員が結婚して店を辞めたことを逆恨みし、店主である千津井由貴氏につきまとい、嫌がらせを続けています。

卵を投げつけたり、千津井氏の自宅の住所を晒したり、「なでしこ寿司」のドアの鍵穴に接着剤を入れたり、誹謗中傷の書き込みを行ったりと、悪質な行為を3年以上も行ってきました。

そして驚いたことに、男性客はこの件にまつわる脅迫で警察に逮捕され、執行猶予の判決を受けていたにも関わらず、全く改心していないのです。

千津井氏もとうとう対処に困り果て、オーナーと相談した結果、「なでしこ寿司」の公式サイトでこの件について触れたり、取材を受けたりするようになりました。

一方的な勘違い

男性客が行ってきた迷惑行為は、遥かに度を超したものであり、決して許されるものではありません。

では、この男性客はどうしてこのようにストーカー行為をするようになってしまったのでしょうか。

先の記事には、男性客が好意を寄せていたのは女性従業員と記されていましたが、千津井氏に尋ねると、女性職人であることが確認できました。

男性客が好意を寄せていたのが女性サービススタッフではなく、女性職人であるとすれば、寿司店の職人ならではの以下の特徴が、男性客に一方的な勘違いを起こさせたのではないかと考えられます。

  • コミュニケーションが多い
  • 距離が近い
  • 手で握る

それぞれどういうことなのか、説明していきましょう。

コミュニケーションが多い

回転寿司や海外の寿司店は別として、オーセンティックな寿司店では通常、野菜は扱いますが、肉はほとんど扱わず、ほとんどの食材が魚となっています。寿司ネタは魚が中心となっているだけに、日によってどの魚が入っているのかが異なります。

そのため、その日に何を握れるのかは、客が訊いたり、職人やサービススタッフが説明したりしなければ分かりません。従って、客は職人やサービススタッフと多くのコミュニケーションを取ることになります。

カウンター席に座った場合には、職人が目の前で握るので、サービススタッフよりも職人とコミュニケーションする機会が多くなるでしょう。

日本料理はもちろん、フランス料理やイタリア料理、中国料理では、料理人が客とコミュニケーションを取りながら料理を作るということはありません。

従って、寿司店ならではの客と職人のコミュニケーションの多さが、男性客に女性職人に対して一方的な勘違いを起こさせた可能性もあります。

ただ、もちろん、コミュニケーションが多いからと言って、女性職人に対する好意をストーカー行為に発展させてよいわけでは断じてありません。

距離が近い

料理人がキッチンで調理するフランス料理店やイタリア料理店、日本料理店や中国料理店とは異なり、寿司店ではネタ箱が置かれているカウンター越しで職人が握ります。

そのため、先に述べたように、客がカウンター席に座った場合には、職人がすぐ目の前で寿司を仕上げて提供することになります。

食事時間は短くて30分程度、長くて1時間30分程度として、その間中ずっと、カウンターを挟んで60から80センチメートルくらいの近い距離で、客は職人と対峙することになります。

この距離の近さも、男性客に女性職人に対して親近感を覚えさせることになったのではないでしょうか。

近い距離でコミュニケーションをとることにより、男性客は女性職人に対して心理的な距離も縮めていったのかも知れません。

手で握る

寿司は、手で握って完成させる食べ物です。

手で握る食べ物として代表的なものは、日本人であればすぐに思い浮かべるのが、<「おにぎらず」が「おにぎり」となるために>でも紹介した、おにぎりではないでしょうか。

おにぎりが日本人のソウルフードたる理由は、ほぼ全ての日本人が、小さい時に母親が手で握ったおにぎりを食べたという、食の原体験にあります。

母親であれば、自分の子供のために、おいしい料理を作って食べさせたいと思うでしょう。この母親から子供への愛情が手を通して伝わった食べ物の象徴がおにぎりなのです。

従って、おにぎりが特においしく感じられたり、他の食べ物とは異なる記憶として残ったりするのは当然なのではないでしょうか。

また「手塩にかけて」「手間暇かけて」という慣用句は、愛情や心が込められた表現ですが、これに<手>が用いられているのは重要なことです。

職人が手で握る寿司もおにぎりと同じように、手で握るからこそ、職人の気持ちが伝わり、寿司がよりおいしく感じられるのではないでしょうか。

近い距離でコミュニケーションを取ることに加えて、手で握った寿司を食べたことにより、男性客は女性職人に対して一方的な気持ちを強めていったのだと私は考えています。

寿司店の女性職人は少ない

お菓子職人であるパティシエールやパン職人は増えており、フランス料理やイタリア料理でも女性の料理人が活躍してきています。その一方で、寿司や天ぷら、鉄板焼なども含めた広義の日本料理において、女性の料理人はまだまだ少ないです。

しかし、残念ながら、中国料理と並んで日本料理では女性の料理人は増えているようにはあまり感じられません。寿司店では、サービススタッフに女性を見掛けることは多いですが、女性職人を見掛けることはとても珍しいです。

寿司店の女性職人に対する心配

ストーカー行為を犯す人の90%を男性が占めること、先に述べてきたように他の飲食店に比べて寿司店の職人が少し特殊であることを鑑みると、寿司店で女性職人が増えて活躍してもらいたいですが、件の男性客のような客がまた現れはしないかと心配しています。

男性客の行為は、客として以前に、人として許されない行為であるだけに、女性だけの寿司店でこういった客が現れるようであれば、客の目の前で握ることが寿司の醍醐味の一つであるにも関わらず、女性職人は裏の厨房で握らなければならなくなるかも知れません。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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