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アメフット選手を守れ「ヘルメット革命」NFLの取り組み

石田雅彦科学ジャーナリスト
NFL2018スーパーボウル(写真:ロイター/アフロ)

 選手の悪質な反則をめぐり、大学スポーツのアメリカンフットボール(以下、アメフット)問題が依然として注目されている。アメフットの本場である米国のプロリーグ、NFL(National Football League)では選手をアクシデントから守る取り組みが行われ、頭部への衝撃を軽減するヘルメットの新たな開発計画を発表した。

選手の安全を図るNFLの取り組み

 アメフットはヘルメットやフェイス(マウス)ガードなどを身につけ、全力で選手同士がぶつかり合うフルコンタクトのスポーツだ。それがこの競技の魅力でもあるが、練習中や試合中の事故が絶えない(※1)。

 2018年5月6日、日本大学と関西学院大学のアメフット部の定期戦で起きた悪質な反則が問題視され、日本大学は謝罪したが関西学院大学側は選手個人に責任を負わせるような日本大学の対応にまだ納得していないようだ。反則された選手は、治療や精密検査を受けるなどした。幸い怪我の程度も軽く後遺症などが残る可能性は低いという。

 関西学院大学がこれほど態度を硬化させている背景には、日本大学の対応のまずさもあるが、同学院のアメフット選手が過去に亡くなっているということも大きい。2003年の夏合宿中に大学の選手が、また2016年には高等部のアメフット選手が試合中の事故で亡くなっているからだ。

 アメフットはヘルメットやフェイスガードなどで防備していても、また致命傷に至らなくても、脳に障害が残ったり関節が脱臼したりしてリハビリを続けざるを得なくなるような事故も多い。本場のプロリーグ、NFLでは「PLAY SMART PLAY SAFE」という安全への取り組みを行っている。

 この取り組みは2016年9月から始まったが(※2)、より高度な試合を選手が安心して行えるようにするために医学的な手法や対応を強化し、特に頭部への傷害を予防し、仮に事故が起きた際には適切な診断や治療ができるような体制を構築することが目的となる。

 NFLはこれまでも安全対策のために順次ルールを改正してきた(※3)。アメフットのルールは難解で理解しにくい部分も多く、ヘルメットや肩パットなどの防具を身につけているため、それらに関するルールも複雑だ。こうした防具の決められた部分以外への攻撃は禁じられているが、ルール改正の基本的な方向性は選手を事故から守ることだ。

 こうしたルール改正に加え、NFLと32のクラブチームはこれまで医療や神経治療のための研究に1億ドル(約110億円)を拠出してきたが、それに加えてPLAY SMART PLAY SAFEプログラムのために新たに1億ドルの予算を組み、この取り組みを進めるとアナウンスした。具体的には、選手の保護のためにフィールド外でも改革を進め、事故予防や防具改良のための研究体制を確立し、神経障害などの治療技術向上のための他機関の研究も支援する。こうした知見をNFL以外のアメフット組織はもちろん、他の競技スポーツとも共有するとしている。

 NFLでは「HeadHealthTECH」プロジェクト(※4)として従来からヘルメットの研究を進めてきたが、PLAY SMART PLAY SAFEプログラムからヘルメットの研究開発のために約6000万ドル(約67億円)の予算が組まれている。最近、NFLから最新のリリース(※5)が出たが、それによれば頭部の障害や脳しんとうを防ぐため、ヘルメットの改良に使う工学的なプログラミング・ツールキットを無料で提供するようだ。

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NFLがアナウンスした新しいプログラミング・ツールキットには、アメフットのヘルメットに関する3Dモデル、ダミーを用いた衝撃試験のデータ、実際の試合をシミュレーションしたテストデータなどが含まれている。Via:NFL:Finite Element Models: New Tools for Innovation in Football Helmet Design

ヘルメットはどこまで進化できるか

 フルコンタクト競技であるアメフットでは、頭部の傷害が極めて多く、それが選手の健康や生命を脅かしている。NFLの試合を分析したところ、ヘルメットが相手選手の身体(特に肩パット)へ衝突する割合が45%、ヘルメット同士の衝突が36%、ヘルメットから地面へ落ちるケースが19%だった。また、脳しんとうを起こすプレーではタックルをしている時に41%、タックルされた時に22%、ブロックしている時に19%、ブロックされた時に11%などとなっている。

 アメフットでは、衝撃を受けるヘルメットの場所やねじり、歪みなどによって選手が脳しんとうを起こしやすかったりそうでなかったりするようだ。ヘルメットの12カ所の部位への衝撃をコンピュータ・シミュレーションした研究(※6)によれば、衝撃場所の違いによる脳への影響は33〜37%あり衝撃度よりも影響が大きかった。また、ヘルメットの側頭部への衝撃で脳しんとうを起こすケースが約半分という分析もある。

 NFLのプロジェクトに限らず、ヘルメットに関する研究はかなりある。それだけ事故が多く、障害に悩んだり死亡したりする選手も絶えないのだろう。NFLが今回提供するヘルメット改良のためのプログラミング・ツールキットは、研究者に広く研究開発を呼びかける目的がある。HeadHealthTECHプロジェクトでは、クラウドで研究結果、試合や選手のデータなどを共有しているが、それをさらに広げ、ヘルメットの進化へつなげようとしているのだろう。

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NFLのHeadHealthTECHプロジェクトでは、試合中の動画を分析し、選手が受けた衝撃や事故などの研究に役立てている。Via:NFL:Finite Element Models: New Tools for Innovation in Football Helmet Design

 NFLでは、試合中のフィールドの両チームにそれぞれ医療チームが常時、待機している。その内訳は、整形外科医2名と総合診療医2名などのチームの医師に帯同し、アスレチック・トレーナー4名、カイロプラクティック師1名、神経系の傷害に関する専門家1名だ。また、スタジアムのメディカル・チームとして、呼吸器系の医師1名、眼科医1名、放射線技師1名、連携医療機関の医師1名、歯科医1名、救急クルー2名、アスレチック・トレーナー2名がいる。

 日本の社会人アメフットのリーグ「Xリーグ」によれば、各チームに1名以上の医師を試合中に帯同させるように要請しているという。各チームの医師はXリーグのメディカル委員会に所属し、相互に知見を共有しているようだ。また、競技スポーツの研究者や医療関係者らによる集まりもあり、その中からアメフットに限らず各自、競技スポーツの試合などに帯同することも多くなってきている。

 今回の大学アメフットの問題は、競技スポーツをする選手の健康や安全についての議論も巻き起こしつつある。特にフルコンタクトのスポーツジャンルにおける危険な反則は、生命に関わる重大な障害につながりかねない。ルールの厳守はもちろんだが、各スポーツ関係者は用具の改良などを含め、選手の安全対策に注力することが求められている。

※1:「何が問題か『アメフット』を考える」Yahoo!ニュース:2018/05/16

※2:"NFL ANNOUNCES PLAY SMART. PLAY SAFE., A NEW COMMITMENT TO IMPROVE PLAYER HEALTH AND SAFETY":2016/09/14(2018/05/18アクセス)

※3:NFL:HEALTH & SAFETY RULES CHANGES:(2018/05/18アクセス)

※4:NFL:HeadHealthTECH:(2018/05/18アクセス)

※5:NFL:Finite Element Models: New Tools for Innovation in Football Helmet Design:(2018/05/18アクセス)

※6:Benjamin S. Elikin, et al., "Brain tissue strains vary with head impact location: A possible explanation for increased concussion risk in struck versus striking football players." Clinical Biomechanics, doi.org/10.1016/j.clinbiomech.2018.03.021, 2018

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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