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何が問題か「アメフット」を考える

石田雅彦科学ジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 大学スポーツのアメリカンフットボール(以下、アメフット)で、悪質で危険な反則プレーが問題視されている。アメフットはヘルメットやフェイス(マウス)ガードなどを身につけて全力で選手同士がぶつかり合うフルコンタクトのスポーツだが、大学スポーツという教育の場での選手の指導法にも疑問が生じるとともに、報道によれば当事者大学関係者同士の応答にズレがあるようで議論は拡がり続けている。

かなり危険だったアメフット草創期

 問題になっている反則プレーは、2018年5月6日、日本大学と関西学院大学のアメフット部の定期戦で起きた事例だが、この記事では当該プレーの内容や大学の対応などとは別に、アメフットという競技における事故や傷害の管理、対処の事例などに焦点を当てる。また、アメフットという競技自体についての論評も控えたい。

 アマチュアであれプロであれ、どんなスポーツも基本的に危険がともなう。だが、ルール無視の意図的な反則が行われれば危険度はさらに増すだろう。肉体的な接触の多いフルコンタクトのスポーツでは、特にルールを守ることが重要だ。

 米国の大学スポーツでは、単独の競技だけではなくアメフット、バスケットボール、野球、アイスホッケー、テニス、ゴルフなど多種多様な競技大会を運営する全米大学体育協会(National Collegiate Athletic Association、NCAA)があり、観戦スポーツの巨大ビジネスとして組織管理をしている。だが、そもそもNCAAの発足の理由はアメフットで試合中の怪我や死亡事故が多発したからだ(※1)。

 NCAA発足の背景になった20世紀初頭のアメフットは、ラグビーから派生したこともあり、ヘルメットもヘッドギア程度でかなり危険な競技だった。NFLでヘルメットが義務づけられたのは1940年で、1970年代の初頭に現状のヘルメットやフェイスガードが登場する。致命的な頭部外傷は減ってきてはいるが(※2)、1990〜2010年までの10年間で米国の高校大学のアメフット選手の243人が亡くなっているのも事実だ(※3)。

 日本の大学アメフットでも、1982年に京都大学アメフット部のランニングバックの選手が試合中に頭部を強く打って亡くなっているし、2015年12月には名古屋大学アメフット部の部員がやはり頭部外傷事故(練習中)で亡くなっている。

 今回の議論にも関係すると考えられるのは、被害者の所属する関西学院大学アメフット部の主力選手が2003年夏の合宿中に亡くなっていることと、2016年11月に関西学院高等部のアメフット部の高校生部員が試合中に受けた衝撃がもとになった急性硬膜下血腫で亡くなっていることだろう。関西学院としては、これら過去の事例からアメフット競技における事故について特に強い想いを抱いていると考えられる。

 アメフットはヘルメットやフェイスガードなどで防備していても、また致命傷に至らなくても、脳に障害が残ったり関節が脱臼したりしてリハビリを続けざるを得なくなるような事故も多い。

 1991〜2003年の関東大学アメフット秋季公式戦では、2567件の外傷事故が発生している。股関節の靱帯損傷415件、足関節靱帯損傷408件、脳しんとう235件、頸椎ねんざ・バーナー症候群(頸部神経障害)192件、肩関節脱臼139件、大腿部挫傷117件、腹部挫傷111件などだ(※4)。

大丈夫か日本版NCAA

 アメフットの場合、体格差や体力強化の差、体重差、上位と下位の競技レベルの差なども事故が起きる要因といわれる。日本では、ぶつかり合う際の効果を狙って体重を増やすあまり、それが傷害につながるという研究(※5)もある。この研究によれば、肥満型の選手は特にラインマン・ポジションに多いようだ。

 大学アメフット部の場合、日本の大学生は米国の大学生よりも練習中の傷害率(Injury Rate)が約6倍も高いという研究(※6)もある。怪我をしている間は練習ができず体力も強化できないという悪循環があるのではないかと指摘する研究者もいるが、米国の練習環境や競技シーズンとの違いもあるようだ(※7)。

 アメフットに特有のヘルメットなども技術的な進化を遂げているが、こうした防具を過信せず、十分なトレーニングや準備をし、危険なプレーに注意するべきだろう。ヘルメットの強度測定などによれば、脳しんとうを確実に防ぐことは不可能であり、アメフットに限らずこうしたヘルメットは必ず経年劣化するという(※8)。

 日本のアメフット部大学生のヘルメットに与える衝撃度(直線加速度、Linear Acceleration)を調べた研究(※9)によれば、試合中のヘルメットへの衝撃度16.77g、練習中15.87gで頭部への衝撃が練習中より試合中のほうで強い。また、練習中にヘルメットへの衝突が平均14.3回、試合中は15.7回で、衝突回数はいずれも米国より多かったという。

 いわゆる「日本版NCAA」ということで大学スポーツ改革が叫ばれているが、今回の事件と議論はこれまで各大学がバラバラに行ってきた大学スポーツのガバナンスをどうするか、という問題にもつながる。米国のNCAAを一つの目標に掲げる場合、どうしてもビジネスの視点が強調されがちだが、学生である選手の指導や教育の側面をおろそかにすると危険だろう。

 よくスポーツマンシップなどというが、古代ローマのユウェナリス(Juvenalis)の「A sound mind in a sound body」のアイロニーを引くまでもなく、競技スポーツにはライバル心、対抗心、戦意、闘争心、さらに敵愾心といった攻撃的な感情がつきものであり、スポーツマンシップはついつい暴力的な言動に奔ってしまう選手の戒めのための言葉だ。ルールというものはそのためにもある(※10)。

 ちなみにスポーツ事故が起きた場合、加害者に故意か過失(注意義務違反など)があれば法的な責任を問われることになる。スポーツ競技では、故意に反則を犯して相手を傷つける事例は少なく、加害者が否定する場合、それを立証することはかなり難しいだろう。

 特にアメフットのようなフルコンタクトの競技では、相手との肉体的な接触が不可避だ。それゆえに怪我などを避けるためにヘルメットやプロテクターの着用がルールで義務づけられている。

 明らかに悪質な特に危険な反則ということになれば、映像などから故意による違法性も立証され得る。それは、その行為の結果がどうなるか状況から加害者が予想でき、十分にその行為を回避できる余裕があり、なおかつそれを知りつつ反則を犯している可能性が高い場合などだ。そして、もしもこれが指導者の指示による戦術的プレーだったとすれば、選手だけではなく組織に対しても責任追及がなされるかもしれない。

※1:Rodney K. Smith, "Head Injuries, Student Welfare, and Saving College Football: A Game Plan for the NCAA." Pepperdine Law Review, Vol.41, No.2, 267, 2014

※2:Barry P. Boden, et al., "Catastrophic Head Injuries in High School and College Football Players." The American Journal of Sports Medicine, Vol.35, Issue7, 2007

※3:Barry P. Boden, et al., "Fatalities in High School and College Football Players." The American Journal of Sports Medicine, Vol.41, Issue5, 2013

※4:藤谷博人ら、「関東大学アメリカンフットボール秋季公式戦における過去13年間の外傷─近年の傾向とその対策─」、日本整形外科スポーツ医科学雑誌、第25巻、第2号、263-268、2005

※5:仲立貴ら、「肥満アメリカンフットボール選手の身体組成と体力特性に関する研究」、日本体育大学紀要、第39巻、第2号、93-99、2010

※6:K Kuzuhara, et al., "Analysis of collegiate football injuries in a Kansai division 1 team using injury rates per 1,000 athleteexposures." Japanese journal of orthopaedic sports medicine, Vol.17, 542-550, 2009

※7:Junta Iguchi, et al., "Physical and Performance Characteristics of Japanese Division 1 Collegiate Football Players." Journal of Strength and Conditioning Research, Vol25(2), 3368-3377, 2011

※8:Daniel H. Daneshvar, et al., "Helmets and Mouth Guards: The Role of Personal Equipment in Preventing Sport-Related Concussions." Clinics in Sports Medicine, Vol.30, Issue1, 145-163, 2011

※9:Takashi Fukuda, et al., "Impact on the head during collisions between university American football players- focusing on the number of head impacts and linear head acceleration." The Journal of Physical Fitness and Sports Medicine, Vol.6(4), 241-249, 2017

※10:Jerry Freischlag, et al., "Violence in Sports: Its Causes and Some Solutions." Physical Educator, Vol.36, No.4, 182-185, 1979

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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