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アナタが飲んでるそのジュースに、どのくらいの砂糖が入ってるか知ってます?

渥美志保映画ライター

今回は『あまくない砂糖の話』という作品をご紹介します。

60日間一定量の砂糖を食べ続けて、人間の身体がどういう風に変わるかを実験したオーストラリアの人体実験ドキュメンタリーです。

30日間ファーストフードを食べ続けた『スーパーサイズ・ミー』という傑作面白ドキュメンタリーがありましたが、あれの「砂糖版」と言ったら分かりやすいかな。

ためになるのに難しくなくて面白く、徐々に明らかになっていく戦慄の事実と経済原理の関わりには、誰もが「ひやー!」となるに違いありません。春を前にダイエットを始める人には、その参考になるアドバイスもたっぷり。ということでいってみましょう。

いやーん、スイーツってかわいい~!な気持ちからスタートしますが。
いやーん、スイーツってかわいい~!な気持ちからスタートしますが。

映画は『チャーリーとチョコレート工場』から発想したという、スイーツ工場のカラフルな場面から、ウキウキするくらいの楽しさで始まります。

でもこの作品の監督は、実はそういうものを一切食べない、夫婦そろってオーガニック生活な人。なのにこんな実験を思い立ったのは、奥さんの妊娠がきっかけでした。生まれた子供に何を食べさせたらいいか――考えた時、最も気になったのは、「脳の活動に絶対必要」とか「百害あって一利なし」などいろんな議論を呼んでいる砂糖です。真実を知るには、自分の身体で試すのが一番。そういうわけで砂糖を解禁し、オーストラリア人の1日の平均砂糖摂取量160gを60日間摂取して、その間の身体の変化を記録することにします。

さて160gってどのくらいでしょう。映画ではティースプーン(TS)1杯=4gで40杯分と換算しています。日本人がイメージしやすいのは、コーヒーショップで出てくるスティックシュガー、あれがだいたい4〜5g。「多いな~。スイーツショップに通わないと」という監督の呟きに、医者や研究者などの「健康管理チーム」が言います。「スーパーで十分。いわゆる“ヘルシーフード”を食べていればすぐですよ」。

チョコレートとかケーキとかアイスとかは食べません。
チョコレートとかケーキとかアイスとかは食べません。

そこで監督は「ジャンクフードでなく、低脂肪の“ヘルシーフード”だけで1日160gを摂取する」をルールにします。ルールはそれ以外にもいくつか。例えば「週に2階の運動はこれまで通り続ける」。そして「制限する“糖”の種類を“ショ糖”“果糖”に限定する」。これちょっとよくわかりませんねー。まずはここから説明しましょう。

ひとまとめに「糖」といっも、実は4種類に分けられます。

1つめは「ブドウ糖」。小麦や米など、いわゆる炭水化物。脳を働かせるための必需品です。2つめの「乳糖」は、読んで字のごとし、乳製品の中に含まれ、摂りすぎるとお腹をゴロゴロするやつ。3つめが「ショ糖」。白砂糖やテーブルシュガーなどがこれで、「ブドウ糖」と「果糖」を組み合わせたもの。でもって4つめがその「果糖」。「甘さ」を感じさせるもので、果物から抽出したものや蜂蜜などがこれにあたります。

最近は流行の「糖質オフ」の「糖質」には炭水化物=「ブドウ糖」も含まれますが、今回はその中の「糖類」=「果糖」と「ショ糖」のみをカウントして160gをとるという実験です。

さて初日。朝御飯のグラノラシリアルと低脂肪ヨーグルト、フルーツジュースを、裏面の成分表示で砂糖の量を換算してみると……なんと、すでにTSで20杯超え。そして始まる人体実験で、砂糖にまつわる衝撃的な事実が次々と明らかにされてゆくのです~!

監督曰く「甘いドリンクを止めるのが砂糖を減らす一番の近道」
監督曰く「甘いドリンクを止めるのが砂糖を減らす一番の近道」

まず映画は、現代人の生活がいかに「砂糖漬け」か、そしてなぜ「砂糖漬け」になってしまうのかひも解いていきます。

まずビックリするのが炭酸飲料や清涼飲料。たとえばコカ・コーラは1缶(350ml)に入ってる砂糖は40g――なんとTSで10杯分。普通ド○ールとかでコーヒー飲んだら4gで十分なのに、ええええ40gかい!一見身体によさそうな100%フルーツジュースは、例えばリンゴそのもの(果糖はTSで4杯)を食べていれば、4分の1量の果糖と共に繊維なども摂れるのでそれなりの満腹感も得られますが、繊維質をすべて取り除いたジュースはコップ1杯分でリンゴ4個分くらいの果糖(TSで16杯)のみを摂ることになります。

実はローカロリーの健康食品も、成分表とか見ると意外と入ってます。1g=9kalの脂肪を1g=4kcalの糖類に置き換えることで、カロリーを抑えてるんですね。でも砂糖は脂肪にならないし――って思いますよね~。ところがエネルギーとして保存する時、肝臓は糖類を脂肪に変えて貯め込むので、つまり腹回りの内臓脂肪になっちゃうわけです。

さらに恐ろしいのは人間の身体の中には、砂糖がやめられない、砂糖中毒になりやすいシステムがあります。

大量の糖が身体に入ってきて血糖値が急上昇すると、「やばいやばい糖尿病になっちゃうぜ」とインスリンが出てきて血糖値が急落させます。すると今度は「下がり過ぎると死ぬから!」とアドレナリンなどストレスホルモンが出動、結果、糖類がまたほしくなるんですね。ご飯を食べた後に眠くなるとか、甘いものを食べるとハイになるとか、辛い時に甘いもので心を癒すとか、まさにこうした血糖値の乱高下とホルモンの出動に関係していたわけです。ご飯の後にデザート食べなきゃいられないアナタ、ご飯の後になぜか腹ペコになるアナタ(私ですけど)、思い当たりまくりですねー。

さてそんな感じで多くの人が「砂糖中毒」になっちゃってる現代、監督はその極致を探して「砂糖消費大国アメリカ」へ向かいます。

これまったくの偏見に満ちた私見ですが、なにに関しても深く考えず、かといって日本人のように「わかんないけど、あんまりよくない気がする」とか「上手く言えないけど、そこまでやるのはどうかと」みたいなビビリ感もないアメリカ人は、砂糖消費においても行くところまで行っちゃっていて、もう衝撃の連打です。

「健康に留意しています」と書かれたTS37杯分の果糖入りスムージー、「“砂糖は”入ってない」かわりに大量に使われている代替糖類の数々、「マウンテン・デュー(炭酸飲料)」中毒の若者の身体の目をそむけたくなるような現状、さらにそこに大企業の儲け主義がめちゃめちゃ絡んでいて――これまでなんとなーく食べていたものの裏にある「砂糖の真実」に戦慄します。マジで怖い~。

こんな感じで、パンイチで登場。
こんな感じで、パンイチで登場。

さてそんなこんなで60日過ぎた監督の身体は、どうなったか。どんなデータを重ねるより、理屈で説明するより、この変貌を見るのが一番。監督は、パンイチボディの計測から、人間ドック的な数値まで、途中経過を交えながらすべてをビジュアル的に見せてくれているので、一目瞭然です。

映画を見たら、いやがおうでも自分の食事を見直したくなるに違いありません。春のダイエットの季節に、ダイエット女子にとって必見であるのは間違いありませんが、メタボの男性、よくわからない体の不調に悩む人、不定愁訴の中年層、お子さんを持つお母さんお父さん、まあつまりは全人類必見の作品です。これ見たら、今年のダイエットは(気持ち的には)成功したも同然!に違いありません~。

『あまくない砂糖の話』

3月19日(土)公開

公式サイト

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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