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シリア軍はアレッポ市北西の反体制派支配地の包囲をめざす一方、トルコは2月末にイドリブ侵攻すると示唆

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

シリア軍はアレッポ市西の複数町村を新たに制圧

アレッポ県では、国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、シリア軍が15日、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構やトルコの庇護を受ける国民解放戦線(国民軍)などからなる「決戦」作戦司令室との戦闘の末、アウラム・クブラー町、カフルナーハー村、ラドワーン協会地区、アージル村、ウワイジル村を制圧した。

英国に拠点を置く反体制系NGOのシリア人権監視団によると、シリア軍は反体制武装集団の撤退を受けて同地を制圧したほか、サアディーヤ村、電力協会地区、警察学校地区も制圧したという。

シリア・ロシア軍はアレッポ市北西の反体制派支配地の包囲・制圧をめざす

一方、ロシア軍戦闘機は、カフルハムラ村、アナダーン市、ハイヤーン町、フライターン市を爆撃、シリア軍も、トルコ軍の監視所が設置されているシャイフ・アキール山への攻勢を強めた。

シリア・ロシア軍は、カフルハムラ村、アナダーン市、ハイヤーン町、フライターン市、バヤーヌーン町などアレッポ市北西部に突出している反体制派の支配地の包囲・制圧をめざしているという。

クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いANHAによると、これに対して、トルコ軍とその支援を受ける「傭兵」(国民解放戦線、シャーム解放機構などのこと)は、北・東シリア自治局とシリア政府の共同統治下にあるバーシャムリー村を砲撃し、住民2人が負傷した。

バーシャムリー村は、シーア派(12イマーム派)の宗徒が暮らすシリア政府支配下のヌッブル市、ザフラー町の南、シリア・ロシア軍が包囲しようとしているアレッポ市北西地域の北端に位置しており、同地の包囲戦における要衝。

シリア人権監視団によると、トルコ軍はまた、ダーラ・イッザ市東の第111中隊基地、イドリブ県との県境に位置するタルマーニーン村に新たな拠点を設置した。

2月15日の戦況図(Step News Agency、2020年2月15日)
2月15日の戦況図(Step News Agency、2020年2月15日)

イドリブ県ではシリア軍がIDPsキャンプを砲撃し、1人死亡

イドリブ県では、シリア人権監視団によると、シリア軍とシャーム解放機構、国民解放戦線などからなる「決戦」作戦司令室がシャイフ・ダーミス村一帯で交戦、「決戦」作戦司令室がナイラブ村などのシリア軍の拠点を砲撃した。

一方、シリア軍は、タッル・カラーマ村近郊にある国内避難民(IDPs)のキャンプを砲撃し、1人が死亡した。

トルコのエルドアン大統領は2月末にイドリブ県に侵攻する意思を改めて表明

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は報道向け声明を出し、「我々はシリアの領土を占領したり、併合したりする意思はまったくない」としたうえで、「トルコは、共和国を建国した時のように、大いなる結果を生み出す闘争を行っている…。イドリブ県での問題は、シリア軍をソチでの合意で定められた境界線まで撤退させることなくして解決しない…。政権軍が撤退しなければ、我々は2月末までにそれを強いるだけだ」と述べた。

アナトリア通信が伝えた。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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