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ウィンターリーグの祭典、カリビアンシリーズ、パナマに還る

阿佐智ベースボールジャーナリスト
カリビアンシリーズ、2016年大会の様子(写真:ロイター/アフロ)

直前に開催地変更となったカリビアンシリーズ

 

 ウィンターリーグのフィナーレを飾るカリビアンシリーズ(セリエ・デル・カリベ)だが、今年は大きな変動が起こった。既報では、来年から事実上の下部大会に当たるラテンアメリカンシリーズの出場国のうち、パナマ、コロンビア、ニカラグアの中で一番の成績を挙げたチームが、カリビアンシリーズに進出するようになるということだったが(「ラテンアメリカンシリーズ開幕、来年以降はカリビアンシリーズと統合か」, ヤフーニュース個人1月30日, https://news.yahoo.co.jp/byline/asasatoshi/20190130-00112853/)、1月28日になって急遽、大会自体がパナマで開催となり、開催国枠でパナマが出場することになったのだ。

 その背景には、今年の開催国だったベネズエラでの政情不安がある。すでに報じられているように、ここ数年アメリカとの関係悪化から経済が破綻状態だったこの国では、反米のマドゥロ政権に対して、グアイド国会議長が反旗を翻し、自ら暫定大統領就任を宣言するなど、内戦の一歩手前と言っていい状況になっている。この情勢やそれに伴う治安の悪化は、プロ野球とも無関係ではなく、今シーズン途中には、日本でもプレーした経験のある元メジャーリーガー、ホセ・カスティーヨらが強盗に襲われ命を失うという事件も起こっている。12月いっぱいまで、ベネズエラリーグでプレーしたオーストラリア人投手の話では、プロ野球のスタジアムには機動隊が警備に入り、物々しい雰囲気だったらしい。

 そのような状況下での国際大会開催に待ったがかかった。開催地をララ州バルキシメトからパナマシティに変更、前倒しのかたちで「ラテンアメリカンシリーズ」グループから開催国パナマのチャンピオン、トロス・デ・エレラが出場することになったのだ。

発足当初はカリビアンシリーズに出場していたパナマ

昨年のパナマリーグ、ファイナルシリーズの様子。アマチュア野球の人気の高さと大物メジャーリーガーの参加がないことからウィンターリーグ、「プロベイス」は盛り上がりに欠けている
昨年のパナマリーグ、ファイナルシリーズの様子。アマチュア野球の人気の高さと大物メジャーリーガーの参加がないことからウィンターリーグ、「プロベイス」は盛り上がりに欠けている

 パナマでの開催、パナマの出場とも、1960年大会以来実に59年ぶりのこととなる。1949年に始まったこの大会は、当初、キューバ、ベネズエラ、パナマ、プエルトリコの4か国のリーグチャンピオンによって行われていたのであるが、キューバ革命によりキューバリーグがアマチュア化したことによって、パナマシティでの3度目の開催となったこの1960年大会を最後にいったん中断する。この第1次カリビアンシリーズにおいて、パナマは第2回大会でカルタビエハ・ヤンキースが優勝している。

 大会そのものは、ベネズエラ、プエルトリコに、ドミニカ共和国、メキシカン・パシフィックリーグを加えて1970年に復活、以来4か国で持ち回り開催(1990、91年のみアメリカ・マイアミで開催)されてきたが、2013年からはキューバが招待参加というかたちで復帰、昨年まで5か国体制で開催されてきた。開催地については、近年リーグのレベルを急上昇させ、球場のイノベーションも進むメキシコに集約する話なども出たものの、持ち回り方式は継続され、今年はベネズエラ開催が予定されていたが、上記の政情不安により、急遽パナマでの開催となった。 

 球場に関しては、パナマシティ郊外にあるエスタディオ・ロッドカルーが使用されることになっている。1999年に完成したこの近代的なスタジアムは、収容2万7000人を誇り、過去にもWBC予選が実施されるなど、「カリブの祭典」を行うのに十分なものである。

 急遽の変更ということで、実施期間については2月2日開幕を4日にずらせたが、決勝は10日とし、MLBやマイナーのキャンプ開始に支障のないようにしている。

 パナマ以外の各国の出場チームは以下のとおり。

 カングレヘロス・デ・サントゥルセ(プエルトリコ)、エストレージャス・デ・オリエンタレス(ドミニカ)、カルデナレス・デ・ララ(ベネズエラ)、レナドレス・デ・ラス・トゥーナス(キューバ)、チャロス・デ・ハリスコ(メキシコ)。

 開催国チャンピオン、トロスだが、下部大会のラテンアメリカンシリーズでは、総当たりの予選リーグにおいて、2勝3敗と、かろうじて6チーム中上位4チームによる決勝トーナメントに出場したものの、全勝で駒を進めたニカラグアに敗退してしまっている。この状況では、強豪リーグの優勝チームが出場するカリビアンシリーズでの戦いぶりが不安視されるが、補強選手制度を使い、国内リーグには参加しなかったマイナー上位の選手やメジャーリーガーをロースターに入れる予定だという。

 

整備、組織化が進むラテンアメリカのウィンターリーグ

 既報どおり、ラテンアメリカシリーズは、来年からカリビアンシリーズの予選大会として存続するが、ここからカリビアンシリーズに駒を進めることができるのは、パナマ、コロンビア、ニカラグアの3か国のみというのは変わらない。すでに上位リーグのメキシカン・パシフィックリーグが参加しているメキシコのベラクルスリーグや新興国のアルゼンチン、キュラソー、それに来年から参加予定のグアテマラには出場権は与えられない。現状では、後3か国がこの大会で優勝することは考えにくいが、メキシコ・ベラクルスリーグチャンピオンがラテンアメリカンシリーズを制することは十分に考えられる。

 今大会でも、キュラソーが直前に不参加となったため、主催国となったメキシコからは、ベラクルスリーグの上位2チームが出場したが、予選リーグでは、準優勝のチレロス・デ・ハラパが2位、チャンピオンチームのトビス・デ・アカユカンが3位につけ、両者が準決勝を争った。決勝では、ニカラグア相手に延長戦まで健闘したが、11回に力尽き1対3で敗れ、自国開催の第1回大会以来の優勝は逃したものの、1か国から2チームの出場、しかも、国内トップ選手は上位リーグのメキシカン・パシフィックリーグに参加という補強選手制度を最大限に生かすことができない状況下にありながら、この健闘ぶりは、近年進むメキシコ野球のレベルアップを如実に示していると言えよう。

優勝チーム、ニカラグア代表のレオンのメンバーとして参加したベネズエラ人、ルイス・アレン
優勝チーム、ニカラグア代表のレオンのメンバーとして参加したベネズエラ人、ルイス・アレン

 結局、今年のラテンアメリカンシリーズはニカラグアチャンピオン、レオーネス・デ・レオンが全勝で優勝を飾った。これでニカラグア勢は4連覇を飾ったことになる。本来なら、このグループでは頭ひとつ分抜け出ているニカラグアでカリビアンシリーズも開催すればよかったのだが、いかんせん、この国も現在政情が不安定で予断を許さない状況である。

 カリビアンシリーズは、明日、開幕する。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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