Bリーグの昇降格制度が一変? 大河チェアマンが打ち出す改革の狙い
「2020以後」に向けた新構想
6月26日に行われたBリーグの臨時会員総会で、大河正明チェアマンの再任が決まった。都合3期目で、任期は2年間となる。7月1日には「B.LEAGUE BEYOND 2020」と題された未来構想の記者発表も行われた。
2020年の夏には東京でオリンピックが開催される。スポーツ界にはそこに向けた追い風が吹いているものの、「2020以後」に苦しむ競技もあるはずだ。
Bリーグは2015年に法人が設立され、2016年9月に開幕を迎えた。昨季の実績はリーグの収益が8億→50億、クラブの合計収益は83億→215億と3年間で大きな伸びを見せている。
一方で2020年はスポンサーなど大きな契約が更新されるタイミング。「東京オリンピックまでは日本バスケを支える」考えだった会社に、次のビジョンを提示する必要がある。
大河チェアマンは構想発表の背景をこう説明する。
「僕らは2020年以降も成長していかなければいけない。それを考えると1年前の今リーグが将来的にどういう中長期的契約を持っているか、リーグの構造改革をどうやっていくか……。アリーナのことも含めてしっかり示そうと考えて、発表の場を設けた」
「ナショナルアリーナ」構想も
チェアマンが以前から強調しているのは「夢のアリーナ」の整備だ。今回は「ナショナルアリーナを含めた夢のアリーナを全国に10か所以上展開」することが、公約に掲げられている。
フロアが広く座席が選手から遠い、競技目線の国体型体育館は試合の臨場感を損なう。コンコースが広く取られて飲食や物販の店が充実し、VIP用のラウンジやスカイボックスも用意される「おもてなしの場」こそが夢のアリーナだ。
日本バスケの「聖地」となるナショナルアリーナ構想が、今回新たに発表された。Bリーグや日本バスケットボール協会が主体となってSPC(特別目的会社)を設立し建設を行う構想が立てられている。大河チェアマンはこう口にする。
「場所は一番の問題ですが。東京の中心部に近いところが希望です。キャパ的には1万5千近く欲しい。完成は1年でも早いほうがいいけれど、オリンピック後の建設需要が一段落した中で建設する。土地との兼ね合いも考えると、2026年のBリーグ10周年が私の中では一つのメドです」
構想の発表後には早くもBリーグに対して、用地を巡る引き合いや、「一緒にできないか」という提案も持ち込まれているそうだ。
アリーナ不足、高コストの悩みを解消
日本は大型アリーナの需要に対して供給が少ない。昨年末のワールドカップ予選は辛うじて富山市総合体育館を確保したが、会場探しは難航した。今年8月の親善試合も会場の問題で有料試合が予定より一つ減らされた。大型のアリーナを自前で持てれば、そのような苦労がなくなり、チケットの売り逃しも避けられる。
また日本の体育館は仮設席やビジョンの設営、撤去が必要となる施設が多い。協会は試合の運営費に年間5億程度を費やしているが、バスケの興行に適した設備を常設できれば運営コストを下げられる。
ナショナルアリーナは男女の日本代表、Bリーグのビッグマッチ、高校バスケや大学バスケの全国大会など、年間に40日程度の稼働が見込まれている。空いた日をコンサート、イベントなどで埋められれば、採算の取れる施設となり得るだろう。
昇降格制度をなぜ変えるのか?
今回の構想発表における最大の衝撃は「単年競技成績のみによる昇降格廃止」が打ち出されたことだ。現状でもB1ライセンス、B2ライセンスの審査があり、競技成績以外の要素で昇格が妨げられるケースがある。2018−19シーズンのB2は信州ブレイブウォリアーズが優勝し、群馬クレインサンダーズが2位に入った。しかし両クラブはライセンスとの兼ね合いでB1昇格が認められなかった。
ライセンス制度の厳格化と昇降格の緩和には、経営体力のないクラブがB1に上がることで逆に消耗することへの憂慮がある。過去のB1昇格チームを見ると「4分の3」が1年でB2に逆戻りをしている。「1年でもいいからB1に上がりたい」というファン心理もあるだろうが、頻繁な昇降格はどうしても経営を振り回す。
大河チェアマンはこう説く。
「サッカーにいたときから、中長期的にそのクラブを支えて投資をする意味で、1シーズンの成績だけで昇降格を決める仕組みはあまり適さないという感覚があった。アメリカ型のプロスポーツが中長期的に投資していけるのは、昇降格がない仕組みだからと言うのもある」
中長期的な投資を呼び込むために
新ライセンス制度は2026年のゴールに向けて、段階的にハードルが上がっていく。B1はアリーナの要件に加えて「売上高12億円・入場客数4,000人」が条件に提示されている。B2は「売上高4億円・入場者数2400人」で、これも現在の平均値より明らかに高い。B1、B2は最大24チームと発表されているが、何チームがハードルをクリアできるかは不透明だ。
新制度は投資の呼び込み、経営規模の拡大が前提となる。売り上げや入場客数など「コート外の強さ」がライセンス判定の材料として重視されるようになる。B1とB2が固定されるわけではないが、単年での昇降格が無くなる。
ファンの中では昇降格の廃止と受け取る人もいたが、それは違う。チェアマンはこう説明する。
「昇降格を無くすとは全く言っていません。3年連続下から3つに入ったとか、2年連続最下位、ブービーでしたとか……。2場所連続負け越しで陥落する大関みたいな、緩やかな昇降格制度に変えていくイメージです」
JリーグではAC長野パルセイロ、ギラヴァンツ北九州のように、良いスタジアムは建ったが肝心のクラブは低迷している例もある。B1のクラブを落ちにくくして、アリーナ建設の呼び水とするのは新制度の大きな狙いだろう。
もちろんどんな制度もメリットとデメリットがあり、「B2からB1に上がりにくくなる」ことも間違いない。残留争いの脅威が薄まり、シーズン終盤の消化試合も増えるだろう。一方で若手への切り替えなど、チーム再建にじっくり時間をかけられるメリットはある。
大河チェアマンはこう口にする。
「今は『3年後を見据えて』とやった瞬間に落ちてしまう。もう少しゆっくり、育成ビジョンを示せると思います」
「アメリカ型」の要素が強まる
サッカーの世界を見れば、世界中のプロリーグは大半が「オープン型」「階層性」だ。J1はプロで、都道府県リーグはアマチュアだが、上下の行き来は成績次第。Jリーグにも県リーグの一番下から上がってきたチームはあるはずだし、逆にJ1の強豪が一番下に落ちる可能性もある。単純に分類をするなら「ヨーロッパ型」の仕組みだ。
一方でアメリカの四大スポーツは「クローズ型」で、エクスパンション(拡大)はあっても入れ替えがなく、フランチャイズ(本拠地)の権利も保護される。日本ではプロ野球がこれと同様の仕組みを採用している。アメリカ型はドラフト制度、サラリーキャップ(年俸総額制限)などとも相性がいい。
Bリーグはアカデミーの整備などヨーロッパ型の仕組みも取り入れているが、今回の構想はリーグの設計をアメリカ型に寄せた印象がある。制度への賛否は別にして、大河チェアマンや理事の貪欲に成長を追い求める、現状に安住しない姿勢はバスケ界にとって明るい材料だ。
「大関の番付」のような上がりにくく落ちにくい昇降格制度がBリーグをどう変えるのか?詰めの制度設計がどうなるのか?
新構想の狙いは分かるが、成否は率直に言って分からない。1年ごとに昇降格を背景にした緊張感が試合の魅力を高め、選手のモチベーションを上げている部分もあるだろう。ただし経営目線で考えれば安定のメリットは大きい。2024-25シーズン、2025-26シーズンのカテゴリー分けに向けて、各クラブの経営者はシビアな努力を要求されるだろう。