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『タイタニック』なぜ満席続出? 「今しかない限定感」「多くの人と名作を分かち合う喜び」か

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

今この瞬間、映画館で最もチケットが取りづらい作品は何か。それは観客動員トップの「鬼滅の刃」や2位の『THE FIRST SLAM DUNK』ではない。『タイタニック』である。

公開25周年を記念してリバイバル上映中のあの名作が、各所で満席続出の事態になっている。たとえばグランドシネマサンシャイン池袋のIMAX3D。当日にチケットを取ろうと思っても、まず不可能。2日前でこのように、ほぼ埋まっている状況である。(2/15昼の時点での、2/17の予約状況。赤が販売済み)

グランドシネマサンシャイン池袋のHPより
グランドシネマサンシャイン池袋のHPより

TOHOシネマズ新宿でも、これが2日後の回。似たような、ほぼ完売状態だ。(同じく2/15昼の時点での2/17の回)

TOHOシネマズ新宿のHPより
TOHOシネマズ新宿のHPより

結果的にこんな反響が頻出している。

シネコンによっては一日一回の上映というところもあり、回数を限定しての公開。とはいえ新作ではないにもかかわらず、この反響は異例で、配給側や劇場側からもうれしい悲鳴が聞こえる。

この熱狂は日本だけではない。世界各国で、この『タイタニック:ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター』は2/10に公開され、イギリス、韓国、イタリア、インド、インドネシア、マレーシア、香港、タイなどで週末ナンバーワンのヒットを記録。北米でも3位となった。ちなみに日本では観客動員5位で初登場。それでも上記のとおり、「観たいけど観られない」人が続出しているようである。

海外の記事には「バレンタインデーにぴったり」というタイミングの良さを指摘するものもある。実際に日本で観た人の

こんなにも心を動かされる映画は後にも先にもない

という反応に代表されるように、25年前、アカデミー賞で作品賞など11部門を受賞(過去最多タイ)し、日本で洋画の歴代ナンバーワンヒットの地位を今も維持している名作への素直な賞賛で溢れている。

同時にこんなコメントも。

ずっといつか映画館でやらないか〜って思ってたから、スクリーンで見れて夢叶った

つまり公開時は劇場で観るチャンスはなかったものの、その後、DVDやテレビ放映、配信などで観て感動し、大きなスクリーンで体験したいと思っていた若い世代にアピールした部分も大きそう。

このような微笑ましいツイートも見かける。

作品に対する安定感、「観れば絶対に感動する」という保証は、名作にはつきものだが、『タイタニック』の場合、たとえば今年のバレンタインデーに絡めた、映画誌や女性誌の恋愛映画特集で人気ランキングの1位となるなど、「レジェンド」として不動の地位を獲得していることも、今回のヒットの要因だろう。

ただ、『タイタニック』の劇場再上映は、今回が初めてではない。2012年の4月に『タイタニック3D』として日本を含め、世界で劇場公開されている。公開15周年に当たる年だった。しかしこの時は、日本で期待されていたほどの数字は出せなかった。公開時の週末2日間で興行収入が8692万円。今回は週末3日間の数字が1億3115万円。単純には比較できないが平日を入れての数字なので、明らかに今回の方が盛況の印象である。

15年後より25年後の方が上回ったわけだ。前述したグランドシネマサンシャイン池袋のIMAX3Dスクリーンの人気からもわかるように、近年、作品に合わせて、より良い上映形態を求める観客が増えており、『タイタニック』を最高の環境で満喫したいという欲求に、今回の公開は応えたようだ。

同じジェームズ・キャメロン監督の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の影響も多少はあるかもしれない。作品自体、日本では賛否両論の印象であったが、映像に関しては美しすぎるクオリティをほとんどの人が絶賛した。特に今回の『アバター』はハイ・フレーム・レート(HFR)での上映もあり、通常は1秒24コマのところを48コマにして、限りなく美しくリアルな映像がスクリーンに広がった。今回の『タイタニック』も池袋などではHFRで上映され、『アバター』の映像美に陶酔した人が、その期待感を高めた部分もありそう。「3Dは疲れる」という概念も、3時間弱の『アバター』で意外に大丈夫だった人が、3時間超えの『タイタニック』を心配しなかった……と考えられたりも。

また3Dと言っても『タイタニック』の場合、『アバター』と違って最初は2Dだったことから、“いかにも3D”へとイメージが変わったわけではない。終盤の氷山との激突や沈没など、最初から3Dだったらもっとスペクタクル化されていたかもしれないが、変に過剰になっていないところも、「風格のある作品」のまま受け取られているのでは?

そしてこれらの要因をふまえ、最も重要なのが、今回の劇場での公開が一部を除いて2週間限定という点。「急いで観なければ」「これを逃したら次はない」という欲求をくすぐっている。

観た後の感想として思いを代弁するのが、こんなツイート。

多くの人と一緒に観ることで感動は何倍にもなる。名作映画の喜びとは、こういうものなのか。

セリーヌ・ディオンが「あなたは私の心の中にいる。私の心はずっと生き続ける……」と主題歌で歌ったように、名作への愛は人々の心にずっと残っていた、ということだろう。

※文中の引用コメントの一部は、ウォルト・ディズニー・ジャパン提供

※文中の歌詞は筆者による日本語訳

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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