パリ五輪開会式 オープニングに登場したのは『アメリ』のあの人 失った右手をポケットに入れて演技をする
2024年のパリ・オリンピックが開幕。その開会式のオープニングで流れた映像で、レジェンド的存在、元フランス代表MFのジネディーヌ・ジダンが聖火を渡される演出が大きな話題となった。
そのジダンの前。つまり開会式の最初に現れた、一人の男性がいる。聖火を手に意気揚々とスタジアムに入ってくるも、そこは無人の空間。いったい何が起こっているのかわからず、途方に暮れている彼の前にジダンが姿を現し、聖火を受け取ると、そこからジダンは街へ出て、ミュージカルのような映像が展開していく。
ジダンに聖火を渡したのは、ジャメル・ドゥブーズ。フランスの俳優である。その顔に見覚えがある人は多かったに違いない。日本でも大ヒットを記録した、2001年の『アメリ』。そこでメインキャラクターの一人、リュシアンを演じた人だ。主人公アメリが暮らすアパートメントの近所にある食料品店の店員。亡くなったダイアナ元皇太子妃に思いを寄せ、そのことで雇い主からいじめられるという、ちょっと可哀想なキャラ。そんなリュシアンに同情したアメリは、雇い主にイタズラを仕掛け、こらしめる。このアメリとリュシアンの関係は、作品の中でも煌めくスパイスとなっている。
とにかく人の良さそうなこのリュシアンは、片腕がない。演じたジャメル・ドゥブーズ自身、この『アメリ』の約10年前の1990年、鉄道事故で右腕を失った。駅で時速150kmで走ってきた列車にぶつかったのだ。この時、歌手ミシェル・アドメットの息子、ジャン=ポール・アドメッドという若者がジャメルと一緒にいて、彼の方は死亡。この件でジャメルはアドメッドの家族から過失致死で訴えられるも、証拠不十分で訴訟は取り下げられた。事故の時、ジャメルは14歳だった。
フランスのパリで生まれたジャメル・ドゥブーズは、モロッコ系。生まれてすぐにモロッコに戻るも、1979年、4歳の時にフランスに戻り、事故の起こった1990年から劇団に参加。1992年に映画デビュー。スタンダップコメディアン、俳優として活躍し、脚本家やプロデューサーとしてもキャリアを積んできた。
多くの映画やドラマで、出演の際には右手をポケットに入れたまま演技をしており、そのスタイルが彼の個性にもなった。公の場でも右手を隠している。
日本ではそこまで話題にならなかったが、フランスでは国民的ヒットとなった『ミッション・クレオパトラ』とその続編『アステリクスとオベリクス』、リュック・ベッソン監督の『アンジェラ』などに出演。2006年の『デイズ・オブ・グローリー』では、カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞(主役5人の同時受賞)。2013年にはフランスのアカデミー賞であるセザール賞の会長を務めた。
フランスを代表するコメディ俳優で、モロッコ系、そして片腕を失っての成功……と、さまざまな面を持つジャメル・ドゥブースが、オリンピック開会式の“最初の顔”になったわけで、そこには多くの意味が込められているようで感慨深い。