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笹生優花も「得ることが多すぎる」と脱帽の女子ゴルフ世界ランク1位のコ・ジンヨンは何がスゴいのか

金明昱スポーツライター
安定した強さで女子ゴルフ世界ランキング1位に君臨するコ・ジンヨン(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 女子ゴルフの世界最高峰の舞台でもある米ツアーで勝つことは、そう簡単なことではない。

 特にメジャーで何勝もするのは、ほんの一握りの選手で、それこそ雲をつかむような話かもしれない。

 日本の女子選手では、渋野日向子が2019年の全英女子オープンで優勝し、21年の全米女子オープンでは笹生優花が優勝。畑岡奈紗も米ツアー5勝しているが、まだメジャー制覇には至っていない。

 現在、世界ランキング1位のコ・ジンヨンは、2018年から米ツアーを主戦場にして通算13勝、そのうちメジャー優勝は2回だ。これを4年間で達成している。しかも19~21年まで3年連続の賞金女王ととにかく隙がない。

 ちなみに2014年からデビューした韓国ツアーでは通算10勝。1995年生まれの26歳ながら、これだけの勝利数を挙げていることは“尋常”ではないだろう。

 あまりにも勝ちすぎているからか、周囲から見れば「またコ・ジンヨン(が勝ったのか)か」という印象になりがちである。

 女子ゴルファーは歳を重ねるごとにパワーや体力、スイングに少しの衰えが見えるものだが、今季のコ・ジンヨンからはさらに勝ち星を挙げていくような雰囲気が漂っている。

「パク・セリ、パク・インビの系譜を継ぐ」

「パク・セリ、パク・インビの系譜を継ぐ韓国女子ゴルファーの柱」――。韓国版ウィキペディア「ナムウィキ」の彼女の紹介欄にはそう書かれている。

 パク・セリはゴルフファンならご存知の通り、韓国人プロゴルファーでは初めて米メジャーを制覇したレジェンドで、韓国のゴルフブームの火付け役として知られている。米ツアー25勝のうちメジャーは5勝。

 パク・インビも米ツアー21勝で、そのうち海外メジャーは7勝もしており、16年のリオデジャネイロ五輪の金メダリストでもある。33歳ながら今も米ツアーが主戦場で、現在の世界ランキングは6位だ。

 この偉大な2人のあとに続く選手であるのは間違いない。コ・ジンヨンは今季初戦となった「HSBC女子世界選手権」で最終日に6つスコアを伸ばして逆転優勝。さらに15ラウンド連続の60台と30ラウンド連続のアンダーパーという記録も打ち立てた。

 では、彼女の何がスゴいのか。

「ゴルフが簡単に見える」

 HSBC女子世界選手権の初日にコ・ジンヨンと同組で回った笹生優花は「世界一なので、(得られたものが)多すぎてどうやってまとめていいか分からない。一緒に回れたのはいい勉強になりました」と語っている。

 また、米ツアー選手のジェマ・ドライバーグ(スコットランド)は、「米ゴルフマガジン」のインタビューで「すべての現役選手たちはゴルフがどれほど難しいのかをよく知っている。しかし、コ・ジンヨン選手のゴルフは本当に簡単に見える。彼女は最近、出場した大会で最低でも10位以内に入っている。信じられないくらいに印象的な成績を残している。ドライバーを遠くに飛ばす必要がないことを教えてくれる。平凡な飛距離の彼女からたくさんのことを学ぶことができる」と語っている。

 実際にコ・ジンヨンが昨年7月からここまで出場した11試合を見ても、優勝6回と2位1回を含むトップ10入りが10回と驚異的な成績だ。

 笹生と同じく、コ・ジンヨンのプレーから学ぶべきものがたくさんあるという。

コーチ談「なぜ世界1位なのかが分かった」

 コ・ジンヨンはHSBC女子世界選手権での優勝後、韓国に帰国。16日まで国内に滞在し、24日から開幕するJTBCクラシックから出場する予定だ。

 筆者の知人の「イーデイリー」チュ・ヨンロ記者が、コ・ジンヨンの帰国後に練習場で直撃インタビューを行っている。そこにコーチのイ・シウ氏もいたのだが、コ・ジンヨンについてこう語っている。

「冬の間、アメリカ・カリフォルニア州のパームスプリングスで一緒に練習しながら、彼女がなぜ世界ランキング1位なのかを改めて感じた。キャンプでは『コ・ジンヨンくらい練習した』という言葉が出てくるほど、その他の選手よりもたくさん練習していたし、満足するまで続けるその姿に驚かされた」

 とにかく練習に練習を重ね、課題を克服するまで徹底する。世界ランキング1位という位置にいることについては、こう話していた。

「世界ランキング1位もいいし、新たな記録を打ち立てることにも意味があります。ただ、そのような記録を出すためにゴルフをしているのではありません。(先日の試合で優勝しましたが)試合中のショット一つ一つが、すべて完璧ではなかったですし、練習したものと違う結果が出たので、その感覚をもう一度つかむために練習場に来ました」

「タイガー・ウッズのような存在に」

 では、これからどんな選手になろうとしているのか。

「タイガー・ウッズが大会に出るという言葉を聞くだけで、相手の選手が緊張するという話を聞きました。私もそんな存在になりたいですが、まだまだ遠いです。なので継続して努力するのです」

 まさにタイガー・ウッズのように、名前を聞いただけで存在感を示す選手になりたいのだという。

 他の追随を許さないコ・ジンヨンの強さは今年も健在。世界1位のポジションは、当面、譲るつもりはなさそうだ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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