【最先端の獣医療】ペットの脳外科専門医がいることを知っていますか?
現在の犬や猫は、人間と同じような病気をするようになってきました。
その理由のひとつは、ペットの平均寿命が延びているためです。一般社団法人ペットフード協会によりますと、2020年の犬の平均寿命は14.65歳、猫の平均寿命は15.66歳になりました。
そのため、脳の疾患のひとつである脳の腫瘍も増えているのです。
筆者は、がんの治療を多くしています。がんの三大治療は、手術、抗がん剤、放射線治療です。脳腫瘍も他の腫瘍と同じように、手術をして腫瘍を取れば寛解することがあります。
少し前の獣医学だと、開頭(頭蓋骨を開けること)手術などをする動物病院は、ほとんどなかったのですが、最近では脳神経脊椎だけを専門にする動物病院ができました。
農林水産省の発表では、令和3年の全国の小動物の動物病院(産業動物以外)数は、12,435施設あります。そのなかで、脳神経に特化した動物病院があることはあまり知られていません。
今回は、なぜいま脳外科が必要なのか、そして、脳の疾患ってどんな病気なのか、その脳外科を専門にしている獣医師を見ていきましょう。
脳腫瘍ってどんな病気?
飼い主が、一番、わかりやすい症状は、痙攣(けいれん)発作です。そのときになって、初めて脳に異常があると気がつくのが一般的です。
痙攣以外の他の症状は、食欲低下、嘔吐、元気がないなどがあります。具体的には「歩き方がおかしい」「くるくる回る」「起き上がれない」「痛みにより吠える」「性格の変化や行動パターンの変化」「同じ方向を見ている」「左右差のある行動」「ハエを追うような行動」などが見られることもあります。
人間の脳腫瘍の場合は、頭痛を感じる、歩けない、ふらつく、言葉が出にくい、人の話すことが理解しにくい、片目が見づらい、物が二重に見える、などの症状が現れます。
その一方で、犬や猫も同じような症状があるのかもしれませんが、彼らは言葉が話せないので、わかりにくいです。筆者は、犬や猫の頭痛を感じることが理解できればいいのに、と思いながら臨床をしています。
脳腫瘍の症状が出たらどうすればいいの?
頭の手術は、他の臓器の手術と比較して難易度が高いです。もちろん、熟練していない獣医師がすれば、脳や血管を傷つけて重大な合併症を起こすことがあります。
その一方で、いわゆる神の手を持っている獣医師の脳外科医が開頭手術をすると、合併症を起こす確率はそれほど高くありません。実際に脳腫瘍を取りのぞいて退院する子も多くいます。実際に、脳外科をしている獣医師を紹介します。
獣医師の脳外科医・井尻 篤木(いじり あつき)
獣医師・井尻先生は、かかりつけ医の紹介を受けていく二次診療の動物病院「日本動物脳神経脊椎センター(大阪市)」とアツキ動物医療センター(滋賀県草津市)の動物病院を持っています。
筆者は、大阪の日本動物脳神経脊椎に取材に行ってきました。脳神経脊椎の専門の動物病院だけあって、院内には、MRI、CTなどの画像診断の設備と脳の手術のときに使う手術用顕微鏡など最新医療設備がありました。
Q:脳神経脊椎専門の獣医師になろうとしたきっかけは?
井尻先生:
大学時代から、骨を中心とする整形外科にとても興味を持っていました。大学の研究所も外科に所属しています。1995年に一次医療であるアツキ動物病院(滋賀県草津市・現在はアツキ動物医療センターに改名)に開院して、外科が好きなので多様な手術をしていました。
2000年頃になると、ミニチュアダックスフントが人気になりました。ご存じのように、ダックスフントは、胴長なので椎間板ヘルニアになりやすい犬種です。アツキ動物病院では、CTがありましたので、ダックスフントの脊椎の画像診断を多く撮り治療をしました。
そのときに、CTで脳を撮影していたので、脳にも関心を持つようになりました。
Q:具体的には、どのようにして脳神経の専門の獣医師になったのか?
井尻先生:
2003年に滋賀医科大学医学部付属病院脳神経外科研究生となりました。そこで、人間の脳神経外科を勉強しました。
獣医療の方では、大学でも脳神経外科をそこまで詳しく教えていないので、やはり人医療に行って勉強すべきだと考えたのです。
実際に、アツキ動物病院で犬の脳腫瘍の手術をするときは、滋賀医大の脳外科のドクターが傍らについて教えてくれました。
Q:なぜ、脳神経脊椎センターを大阪に開設されたのですか?
井尻先生:
滋賀県でやっていたのですが、やはり都会の方が、犬や猫を飼っている人も多く、来院しやすいと考えたからです。
脳神経外科の分野は、まだまだそれほどやっている獣医師がいません。後継者の育成と学術的に貢献することをスローガンに活動をしています。
Q:飼い主に伝えたいこと
犬や猫は、痙攣発作が起こったときには、かなり症状が進んでいます。
手術をするのでしたら、早い方がいいのです。そのためには、獣医学で、脳神経外科ができることをみんなで共有してほしいです。実際、猫で脳腫瘍の手術をして、怒りっぽい子の性格が穏やかになった例もあります。熟練した獣医師が脳の手術をすれば、命が助かる子もいるのです。
高額な治療費をどうするか?
人間の医療と違って、動物の治療費は飼い主さんの全額負担です。
民間の保険もありますが、その保険でカバーできるかどうかわかりません。100万円を超えるような脳腫瘍の治療費を、全額負担できる飼い主さんは多くはないのが現状です。
脳腫瘍の場合は、手術をすれば寛解する子もいます。手術でしか助からない脳腫瘍もあるのです。
飼い主にできること
もちろん、全部の犬や猫が、脳腫瘍などの病気になるわけではありません。
その一方で、犬や猫が長寿になると脳の病気になる子も増えてきているのです。愛犬や愛猫が、痙攣発作を起こしたときに、慌てて脳外科を探すのではなく、普段から、獣医療には、脳神経を治す獣医師がいることを知識として持っておくことが大切です。
そして、人間のような保険がなく、高額になるので、そのため民間の保険に加入しておく、獣医療貯金をしておくのもいいかもしれません。
愛犬や愛猫が病気になったときに、事前に上述のことを知っておくことは、大切です。獣医学が進んで、以前なら治せなかった病気が治る時代になっているのです。
井尻 篤木先生の経歴
博士(獣医学)
1991年
酪農学園大学獣医学科(現・獣医学群獣医学類)卒業
1995年
民間動物病院勤務を経て、一次医療であるアツキ動物病院を滋賀県草津市に開院
2003年
滋賀医科大学医学部付属病院脳神経外科研究生となる
京都大学整形外科研究生および人工骨開発プロジェクトに参加
2006年
高度医療部門を立ち上げ、アツキ動物医療センターに改名、二次医療をスタートする
2021年
日本動物脳神経脊椎センター開設
(役職)
アツキ動物医療センター 院長
酪農学園大学 特任教授
獣医神経病学会 理事
獣医脳神経脊椎外科研究会 会長
(所属学会)
獣医神経病学会 獣医麻酔外科学会 日本獣医がん学会
□日本動物脳神経脊椎センター(二次診療なので、獣医師の紹介が必要)
〒531-0074
大阪市北区本庄東1丁目18-14 アシスト90 1F
予約受付:TEL:06-6376-8355
〒525-0058
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