ボートからの冷水への落水死 落ちたらどうすればよいか
3月になり、ボートからの冷水への落水死が続いています。春になって気温が暖かくなっても自然の水温はまだ冬の装い。この落差が命取りになります。救命胴衣着用でも5月の連休過ぎまでは要注意です。
続いたボートからの冷水落水
いずれも冷水への落水事故でした。3月17日の太田名部港の海水温はお天気ナビゲータの発表でほぼ6度でした。支笏湖では3月中の水温はおおよそ3度と言われています。
3月から5月にかけては、冷水への落水は死亡事故につながりかねない時期でもあります。その理由の一つとして、最高気温と水温との乖離が挙げられます。図1をご覧ください。このグラフでは岩手県の宮古の気温と重茂の海水温を比較しています。宮古では月の最高気温、重茂では月の平均海水温をデータとして選んでいます。
よく言われるのは、「海の中では季節が少しずれる。」陸上の宮古では1月に最高気温が最も低いのに対して、海中の月平均は3月が最も低くなっています。また9月以降の温度の下がり方は海水温の方が緩やかです。
3月から5月にかけて、死亡事故が毎日発生するわけではありません。最も危険なのは、土日祝日でたまに最高気温が急に上がって汗ばむような陽気になった日です。こういった日に水辺で遊ぶと、どうしても衣服は軽装となります。図1では、赤丸で示した3月に、特にここに始まりの月になる理由があるわけです。全国的にも5月の連休を過ぎるまでは海も川も湖も水温がなかなかあがりませんので、どうしても重大な水難事故が発生しやすくなります。
冷水への落水の危険
温度数度の水に落水すると、命が持つのは防寒具着用で数時間、未着用で1時間以内です。図2をご覧ください。これは、様々な服を着用して、冷水にてどれくらいの時間生存できるか推定したグラフ(SURVIVAL IN COLD WATER)です。
例えば水温5度で見ていきましょう。下の横軸の5度の所から上に向かっていけばいろいろとわかります。最初に交差する曲線が普段着。ここでは1時間ももちません。次は、防水の上着で衣服に水が1リットルほど浸入してきた場合で1時間強、完全防水で2時間、厚手の防寒着で衣服に水が1リットルほど浸入してきた場合で4時間、水が入ってこなければ推定生存時間8時間です。
要するに、普段着で1時間持たない、防寒着を着こんでいるほど助かる可能性があがるということになります。
どうしたら生還できるか
水温20度以上で遊ぶ
3月から5月にかけては、水温が20度はほしい所です。救命胴衣を着用してボート遊びをしましょう。
ドライスーツなどの乾燥断熱スーツを着用
断熱で水の浸入がなければ生存時間はだいぶ延びます。もちろん緊急通報が必要になりますが、救助されるまで浮いています。
ただ、水温数度となれば救助隊にとっても決死の救助活動となります。たまたま北海道であれば、氷からの転落事故を想定した救助訓練を行っている組織が多く、冷水救助活動を行うのに必要な装備と技術があるのですが。
そうでなければ、専門的な冷水救助のできるプロフェッショナルが現場に到着するまで待つことになります。
這い上がることができれば素早く
落水後数分以内に這い上がれれば、這い上がります。這い上がるものはせいぜい水面からの高さが10 cmです。それ以上の浮遊物や桟橋では這い上がりが難しくなります。さらに、時間が経つと筋肉の動きが鈍くなります。刺すような痛みの中、手の指すら動かなくなります。時間との勝負です。
水温10度あれば、動画のようにして静かに待ちます
水温が1度でも上がると生存時間は急に延びます。動画をご覧ください。水温10度の中を厚着+カッパの状態で背浮きをしています。この状態では落水直後に水が衣服に浸入してきますが、そのまま動かないようにしていれば衣服内の水は体温で温まり、それが衣服外の水と入れ替わらなければ体温を奪われずに済みます。動かなければ生存時間を稼ぐことができます。最後は、この方法に頼り救助を待つことになります。
動画 水温10度の冷水水面での背浮き(水難学会提供)
さいごに
これから最高気温が高くなり屋外活動が増えます。水辺に行く時には水温のことを頭にいれて遊ぶようにしたいものです。