49歳。人の話を聞くのはもうお腹いっぱい。自分の攻撃性に気づきつつあります~スナック大宮問答集58~
「スナック大宮」と称する読者交流宴会を東京、愛知、大阪などの各地を移動しながら毎月開催している。味わいのある飲食店を選び、毎回20人前後を迎えて和やかに飲み食いするだけの会だ。2011年の初秋から始めて開催140回を超えた。のべ2800人ほどと飲み交わしてきたことになる。
筆者の読者というささやかな共通点がありつつ、日常生活でのしがらみがない一期一会の集まり。参加者は30代から50代の「責任世代」が多い。お互いに人見知りをしながらも美味しい料理とお酒の力を借りて少しずつ打ち解けて、しみじみと語り合えている。そこには現代の市井に生きる人の本音がにじみ出ることがある。
その会話のすべてを再現することはできない。参加者と日を改めて対話をした内容をお届けする。一緒におしゃべりする気持ちで読んでもらえたら幸いだ。
***ミカさん(仮名。バツイチ女性、49歳)との対話***
プライベートでも8対2の割合で相手が話している。傾聴が私の役割?
――人の話をじっくり聴いてしまう癖が抜けない、短時間で大勢の人と話す集まりでは存分に楽しめない、という感想メールを送ってくれましたね。スナック大宮も20~30人ぐらいが2時間半ほどで交流するので、ミカさんはあまり楽しめなかったのかなと心配しています。
私は心理カウンセラーとして複数の職場をかけ持ちして働いています。人の話を聞く姿勢になるのは習性のようなものです。プライベートなときにでも8対2ぐらいの割合で相手が話していますから……。それが私に求められている役割だと思ってつい引き受けてしまい、友人との会話なのに若干の疲れを感じるときもあります。
――スナック大宮ではどうでしたか。
婚活パーティーなどではないので、自己アピールをする必要がなく、ガツガツした感じの人もいないのが楽でした。大宮さんの記事や取り組みに興味がある人の集まりなので安心感があります。いつもそつなく遠慮がちになってしまう私にしては、ふんわりとした気分で過ごせました。
特に女性たちの会話術がすごかったです。他の人の話を聞いて上手に話題を広げてくれたり……。いい意味で自分の欲望に忠実で、やりたいことを追求している人が多いなとも感じました。もっと話したい、また会いたいです。
――心理カウンセラーという専門職はミカさんの「やりたい」仕事ではないんですか?
そうとも言えますけど、25年以上も同じ仕事をしているので、人の話を聞くことがお腹いっぱいになっています。たまには「俺の話を聞け!」と言いたくなりますね(笑)。カウンセラーとまったく違う仕事をやってみようかなと思うこともあります。
私の話で相手が楽しいだろうか、不快に思っていないだろうかと気にしてしまう
――副業をやってみたらどうですか? 僕は漁港近くに住んでいるので、漁師などから魚介類をたくさん仕入れてさばいて近所の人に買ってもらいます。全部売れても我が家の魚代がタダになるぐらいの値付けなので仕事とは言えませんが、ライター稼業とは違う力を発揮しなければいけないので気分爽快になります。
私は休みの日も研修を受けたり専門書を読んだりせざるを得ないのですが、以前は楽器を習ったりしていました。いま興味があるのはキックボクシングです。音楽もスポーツもプロを目指したりはしませんが、自分の中にある攻撃性のようなものに気づきつつあります(笑)。
――面白いですね。「俺の話を聞け!」と叫びながらキックを繰り出したらどうでしょうか。試合相手は「何のこと?」と戸惑って動きが止まるかもしれません。あと、普段の会話でも自分の話をもっとすればいいんですよ。僕はインタビュー仕事でも途中から勝手に話し始めて対談みたいにしちゃっています。今日もそうですけど。
いいなあ。私はこんな文句を言いながらもアウトプットが下手くそなので、「私の話をして相手が楽しいだろうか、不快に思っていないだろうか」と気にしてしまいます。
「そういえばこれってさー」と気軽に話せる人間関係を広げることが私の課題
――なるほど。ミカさんはいろんなことに気遣いをし過ぎるタイプなのかもしれませんね。そういえば、以前の結婚生活について少し教えてもらえませんか。
同棲をしていた人と34歳のときに結婚して2年ほどで別れました。私はそもそも気が進まなかったのです。子どもは欲しくありません。でも、その彼が上司から「結婚しないと出世させない」と冗談で言われて真に受けてしまい、半ば強引に結婚することに。離婚してスッキリしました。
今では、誰かと一緒に住むことも難しいと感じています。体調が悪いときも相手に迷惑をかけたくない気持ちが先行してしまうからです。大丈夫じゃないのに「大丈夫だよ」と家事をやろうとしたり……。一人暮らしならば、病気のままの自分でいられるのがすごく楽です。
――病気のままの自分でいたい。ユニークな表現です! そんなミカさんも一緒に食事ができる人が欲しいと思うからスナック大宮に参加してくれたんですよね?
はい。仕事関係ではなく、日頃のなんでもない疑問を「そういえばこれってさー」と気軽に投げかけられるような人間関係を広げることが私の課題です。同世代の友だちは子育てが終わっていない人が多くてなかなか誘いづらいですし……。スナック大宮にまた参加して友だちを作りたいです。
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自分に求められる役割を演じ続けるのに飽きたら、良き酒場で良き客を演じてみる
以上がミカさんとの対話だ。一見すると柔らかで感じ良く、いろいろ聞いてもらいたくなる女性だが、それゆえに葛藤を抱えていると知った。特技や長所が自分を息苦しくさせることがあるのだ。
酒と酒場はそんなときこそ有効だと思う。職場の飲み会や同窓会などだと一定の役割やキャラクターを演じてしまいがちなので、しがらみのない人や見知らぬ人ばかりがいる場に行くと良い。ただし、安心感と共通の話題がまったくないところでは楽しめない。
筆者のお勧めは、行きやすい場所にある個人経営の居酒屋やダイニングバー、鮨屋のカウンター席に座ること。お店の雰囲気を感じながら、料理とお酒を味わい、カウンター越しに店員と少し言葉を交わす。相性がいいお店であれば、なんとなく歓迎されているのがわかると思う。最終的には常連客としてお店の一部になっていく予感がするのだ。逆に、2、3回通ってもピンと来ないようであれば別の店を探せばいい。
良き酒場は変な酔客からはちゃんと守ってくれるし、常連客同士は「この店が好き」という共通点があるので話題には困らない。お店の中だけでの付き合いを楽しんでもいいし、相手によっては個人的に親しくなってもいい。
そんな酒場の常連客になるには、「店に好かれるような大人の客」をある程度は演じる必要がある。でも、それは普段の自分とはちょっと違うはずだ。いつもは優しい聞き役に回りがちなミカさんが、いい意味での「攻撃性」を感じさせる怜悧なお姉さんに変貌する可能性もある。手軽で刺激的な気分転換になるだろう。