PS PlusとPS Now 統合の背景と狙いは
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が、世界で4800万の有料会員を抱えるネットワークサービス「プレイステーションプラス(PS Plus)」の改定を発表しました。背景と狙いを考察します。
◇PS Nowにあった割高感
現在のゲーム機は、オフラインでも遊べるものの、ネットワーク接続を前提にフルに遊べるよう設計されています。SIEは2006年、家庭用ゲーム機「PS3」の発売時に無料のネットワークサービス「プレイステーション(PS)ネットワーク」を開始。PS4やPS5などにも継承されており、現在は1億1100万のアクティブユーザーがいます。
その中の有料サービスとして、ソフトをダウンロードで購入できる「プレイステーションストア」、オンラインでの複数人プレーが楽しめる「PS Plus」、PS3などのゲームが遊び放題になるサブスク「プレイステーションナウ(PS Now)」があります。
PS Plusは、2010年からスタート。月額850円(年5143円)ですが、「25%割引き」などのセールもあります。同サービスは、オンラインプレーには必須で、セーブデータを預かる機能もあり、かつ月2本無料で指定のゲームソフトが提供されるため人気ですから、世界で4800万も利用者がいるわけです。
一方のPS Now(月額1180円)は、クラウド技術を利用しているため、ソニーのゲーム機を持たずとも、PCでもゲームソフトが遊べます。しかしPS4やPS5を所持するユーザーには、割高感がありました。
◇ビジネスのメリット大きく
PS Plus改定の発表の概要は以下の通りです。
・PS Nowを廃止、PS Plusに統合する。6月開始の新しいPS Plusのプランは3種類(エッセンシャル、エクストラ、プレミアム)。
・エッセンシャルは、既存のPS Plusのサービスそのまま。【月850円、年5143円】
・エクストラは、エッセンシャル(既存のPS Plus)のサービスに加え、PS4とPS5の数百本のソフトが遊べる。【月1300円、年8600円】
・プレミアムは、エクストラのサービスに加え、初代PS、PS2、PS3、PSPのソフト(最大240本)が遊べる。また購入前にゲームを「時間制限あり」ながらもプレー可能に。【月1550円、年1万250円】
改定の狙いは、当然PS Nowの建て直しです。特定のゲーム機に縛られないクラウドサービスは、今後のゲームビジネスのカギと言われていますからやめるわけにはいきません。一方で、PS Nowの料金見直しは必要だったでしょうが、漫然と値下げをするのも良策とは言い難いところでした。しかしサービスの統合であればそうした面が打ち消せます。
さらに言えば、今回の改定はSIEからすると、リスクが少なくメリットが大きいと言えます。PS Plusは既に4800万の有料会員を抱えており、うまくいかずとも現状維持です。そして最上級サービス「プレミアム」への移行がうまくいけば、大幅な顧客単価のアップにつながります。新規顧客の獲得、無料ユーザーを有料に誘導するのは大変なのですが、既存の有料ユーザーは、単価アップについて心理的ハードルが低いというのもあります。
PS Plusの収益面での“威力”は、ソニーのゲーム事業の決算を見れば一目瞭然です。新型ゲーム機の発売タイミングは、収益面での苦戦が予想されたのですが、PS Plusの支えもあり業績は好調でした。
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もちろん、SIEの狙うPS Plusの上位サービスへの移行がうまく進まない可能性もあります。世の中は映像のサブスクサービスも充実するなど、多くのエンタメサービスがあるため、消費者の時間の奪い合いが厳しいからです。
従って新サービスの詳細次第(特にソフトのタイトル)では「ダメだった」「苦戦した」ということもありえるでしょう。そうだとしても、また次の手を打てばいいだけのことです。
またゲーム会社は、精力的に新作を送り出す一方で、積み上げたソフトの資産を活用していた……とは言い難い面があります。業績が好調な今だからこそ、サービスの拡充・チャンレンジは必要なことです。少なくとも従来のサービスを、漫然と継続するよりもプラスになるのは確かです。
なお、ソニーは、2025年度までに自社制作ソフトの売上を2倍以上にする中期計画を打ち出しています。PS Plusの改定も中期戦略の一環といえそうです。