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ソニーのゲーム事業 苦戦覚悟も終わってみれば絶好調 なぜ?

河村鳴紘サブカル専門ライター
家庭用ゲーム機「PS5」=SIE提供

 ソニーグループの2020年度(2021年3月期)通期連結決算が4月28日に発表されました。ゲーム事業(ソニー・インタラクティブエンタテインメント=SIE)にしぼって説明します。

 ゲーム以外にも音楽や映画、金融などを抱えるソニーグループの全体の売上高は約8兆9994億円、本業のもうけを示す営業利益は約9719億円で、いずれも過去最高でした。

 ソニーグループの過去最高益の原動力になったゲーム事業ですが、全体の約3割を稼いでいます。部門別の売上高は約2兆6563億円、部門別の営業利益は約3422億円。ゲーム事業の業績が分かるようになってから約10年になりますが、いずれも最高の数字です。

 ポイントは、新型ゲーム機を発売する年度の決算は、業績が苦戦するのが当たり前なのに、2020年度は絶好調だったことです。PS4を発売したときの2013年度のソニーの当時のゲーム事業は、売上高は約9792億円、営業損失は約81億円の赤字でした。違いは明らかです。

◇際立つデジタルの強さ

 ゲーム事業の好調理由ですが、これまでの四半期決算でも触れている通り、新型コロナウイルスの感染拡大の巣ごもり効果でゲームソフトが売れたこと。続いて有料ネットワークサービスの「プレイステーションプラス」の安定収益が寄与したためです。ですが、日本国内のソフトランキングを見ると、ニンテンドースイッチばかりが売れていて、ピンとこない人もいるでしょう。そこで数字を見てみましょう。

上がゲーム機とソフトなどの売り上げ。二番目がPS4やPS5、ソフトの出荷数。下がネットワークサービスの会員数=ソニーグループ2020年度決算の補足資料から
上がゲーム機とソフトなどの売り上げ。二番目がPS4やPS5、ソフトの出荷数。下がネットワークサービスの会員数=ソニーグループ2020年度決算の補足資料から

 ソフトの売れ行きですが、前年度の約1兆1200億円強から約1兆6000億円弱に急増しました。内訳になりますが、PSstoreからソフトをダウンロード販売する「デジタル」は約3800億円(前年度)から約5400億円に、追加コンテンツ販売などの「アドオン・コンテンツ」は約6300億円から約9100億円に大きく伸びています。

 対してパッケージソフトの販売は、約1200億円から約1400億円に留まりました。PS4のソフトは日本よりも海外で売れる傾向にある上に、日本で見るゲームソフトの販売ランキングは、デジタル配信がカウントされません。数字で見るとイメージ以上にデジタルの強さが際立ちます。

◇PS5 初年度は計画上回るも…

 PS5は、作るコスト(製造価格)より売値が安い「戦略的な価格設定」にしています。要するに「赤字」なのですが、その代わり売上高の大幅なアップには貢献しています。

 さてPS5の出荷数です。2021年1~3月は330万台。2020年10~12月は450万台でしたから、合計すると初年度は780万台。計画では760万台でしたから「20万台」上乗せしたことになります。といっても、胸は張りづらいところです。PS4の初年度出荷数(760万台)を上回り、発売時よりは入手しやすくなっていますが、世界的な品不足感が続いているからです。

 なおPS5の2年目(2021年4月~2022年3月)の出荷計画ですが、PS4の2年目の「1480万台」より上を目指すことを既に明言しています。もちろん大きな上積みを期待したいところですが、半導体の世界的な不足を考えると、限界がありそうです。

◇PSプラス 気になる4Qの伸び鈍化

 年間で3000億~4000億円の安定・かつ高収益が見込める有料ネットワーク「プレイステーションプラス」ですが、伸びが鈍化しました。

 コロナ前の2019年末時点で累計会員数は3880万人。新型コロナの影響が出始めた2020年3月末時点の会員数は4150万人。昨年1~3月の3カ月間で、会員は270万人も一気に増えました。

 続いて当期(2020年度)の会員数の純増数を追ってみます。同じく新型コロナの影響を受けた第1四半期(2020年6月末段階)は350万人増。第2四半期は90万人増、第3四半期は150万人増、第4四半期は20万人増でした。5000万の“壁”は高そうですが、着々と数字を積み上げています。とはいえ第4四半期の純増数の低さは気になるところです。

 なおPS4やPS5でネットワークサービスを相応に利用する「月間アクティブユーザー」の数も、第3四半期よりは減ったものの高い水準にあります。

◇2021年度は3兆円狙える

 なおゲーム事業の2021年度の業績見通しは、売上高は2兆9000億円、営業利益が3250億円となります。状況次第では3兆円も狙えそうです。

 課題があるとすればPS5の転売対策でしょうが、転売が「違法でない」以上、一企業にできることの限界があるのは確かです。私も昨年末にトップに取材する機会があったので、転売対策について聞いてみたのですが、やはり効果的な対策は難しそう……というのが実情です。

【参考】PS5の出荷数はPS4のローンチ時より多い MSの低価格ゲーム機は気になるが… SIE社長に聞く

 自社での対応に限界のある転売問題よりも、PSプラスのさらなる会員増の方が重要かもしれません。利用者の離脱を防ぎつつ、新規ユーザーをどこまで獲得できるか。PSプラスの累計会員数は、現状維持でも十分ですが、高いほど安定収益が望めるからです。

 そしてPS4を上回るペースでPS5の出荷が持続できれば、PS5の成功を意味します。いずれにしても、赤字の可能性すらあり、苦戦が必至だった新型ゲーム機発売の初年度を、この業績で乗り切ったのは、大きいのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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