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AbemaTV「72時間ホンネテレビ」視聴数7400万回と視聴者数500万人強のギャップ

境治コピーライター/メディアコンサルタント
AbemaTVトップページ画像より

日経トレンディが「ホンネテレビの視聴者数は500万?」と報じる

元SMAPの三人が出演したAbemaTV「72時間ホンネテレビ」が11月2日から5日までライブで配信され、終了後に「視聴数は7400万だった」と発表されて話題になった。Twitterでトレンド入りするなどネット上で盛り上がったのは間違いない。そして視聴数7400万もすごいと讃えられ、中には視聴率に換算すると5〜6%では、と書かれた記事もあった。

だが視聴率の仕組みを理解している者の間では「視聴数から視聴率はまったく計算できないのに」といぶかる向きも多かった。しかし何しろ視聴数しか発表されてない中、実際はこうだと推計する術もない。

そんな中、11月28日にビデオリサーチ社がリリースを出した。かいつまんで書くと、同社の調査パネル「VR CUBIC」から推計すると、見た人の数は207万人になった、という内容だった。

やや強引な推計だが、考え方としてはありだし、推計の手順もオープンにしていた。調査会社のリリースとしてはよくあるタイプのものだ。

ところが翌々日11月30日にはこのリリースが取り下げられ「関係者の皆様にはご迷惑をおかけしました」と謝罪文が掲載された。207万人と推計値を出したことよりも、ビデオリサーチがリリースを取り下げたことの方が話題になり、これを報じた記事がYahoo!トピックスに載った。ほぼ同時に、AbemaTVの運営母体、サイバーエージェント社の藤田社長がSNS「755」で「削除してもらった」と書き込んだことも判明し、同社がビデオリサーチに取り下げを要請したようだと、これも話題になった。

本当に「取り下げさせた」のか、そして実際の視聴者数は何万人だったのか、それ以来業界内では噂になっていた。

本日、日経トレンディの記事が出て、上記の疑問に対しほぼ全容が明らかにされた。私もこの3週間ほどもやもやしていたので、この記事を読んで霧が晴れたような気持ちになった。

→「「AbemaTV」の元SMAP出演番組、視聴者数の真相 実際の視聴者数は500万人超?」

ここまで読んでくれた方は、上のリンクから記事を全部読んで、戻ってきてほしい。以下はその前提で書き進める。

視聴数は、視聴者数とも視聴率とも関係がない数値

さてここではっきりさせたいのは、AbemaTVが発表した「視聴数」という数値はほとんど評価のしようがない数字だということだ。視聴者数(見た人の数)を推計する根拠にはならないし、視聴率(テレビとの対比)にはどうあがいても換算できない。

視聴数はあくまで「回数」だ。1時間の番組をずーっと見続けたら1回だし、これを10分ごとに10秒ずつ見たら6回だ。だから視聴数(回数)は視聴者数(人数)に置き換えようがない。「一人の平均視聴回数」がわからない限り7400万回から人数は出せないのだ。強いて言えば、「一人平均10回見たとすると」と仮定して出すしかない。

別の言い方をすると、「7400万回」は莫大な数なのは間違いないが、数が大きいだけで「だったらどうか」を何も言えない数字なのだ。だから「日本人が1億3千万人近くだから7400万回ということは・・・」と何かを計算しようとするのは無駄だし、視聴率に換算すると何%だろう?と考えることに何の意味もない。「視聴率にすると5〜6%にあたる」と書いている人がいたら、例えその人がテレビ関係者でも「よくわかってない人だ」と思わざるをえない。そんな記事はまともに受けとめてはいけない。

AbemaTVは絶対にやってはいけないことをやってしまった

想像するに、AbemaTVが視聴数を発表したのは、その数字の大きさでインパクトを与えたかったのだろう。だが、だからと言って調査会社のリリースを取り下げるよう要望するのは、ありえない行為だ。ビデオリサーチが要望を受けて取り下げたことも前代未聞だと思う。だがやはりここでは、AbemaTVのほうを問題視してしまう。メディアを運営する事業者の資格を問われる行為と言っていい。

もちろん、実際の視聴者数と比べてあまりにも低い数値だと不満に思ったのだろう。それならば、自分たちの持つデータはこれだ!と「視聴者数=500万強」とデータを発表すべきだったのだ。何かするなら、そうするしかなかったと言っていい。せっかく元SMAPを芸能界の常識を超えて起用して清新なイメージを持ったはずなのに、逆に信頼を失わせる行為だ。しがらみに対抗するイメージだったのが、しがらみを生み出すようなことをしたのだ。

今さらとは言え、日経トレンディの記事にあるように株主総会で本当の数値を発表したことは良かったと思う。だが記事の中で以下の部分は開いた口がふさがらなかった。

本件について、AbemaTVの山田陸広告本部長は「可能であれば(調査結果を)削除してほしいと依頼をした。(ビデオリサーチにとって)プレッシャーはなかったわけではない」と認める。一方で、ビデオリサーチの調査は、その調査の前提条件に偏りがあり「実態とは大きく乖離する数値だった」(山田氏)と説明する。

出典:「AbemaTV」の元SMAP出演番組、視聴者数の真相 実際の視聴者数は500万人超?(日経トレンディ)

この発言は、メディアを運営する社会的意義や責任をわかった人のものとは思えない。このような姿勢では、いくら視聴者数が増えても、広告主が評価してくれるか疑問だ。いま、メディアの信頼性を企業は非常に繊細にチェックしているのだ。

AbemaTVは「視聴数」などもう使わないほうがいい

日経トレンディの記事の最後にはまた驚くべきことが書いてある。

藤田氏は755で「視聴率換算には付き合わないと決めとこう」と投稿しながら、一方で株主総会では「視聴率にして5%くらい」と、やや一貫性に欠ける発言もしている。

出典:「AbemaTV」の元SMAP出演番組、視聴者数の真相 実際の視聴者数は500万人超?

ここで「5%」という数値が突然出てくる。視聴者数が500万人なら、日本の人口をざっくり1億人とすると5%、という計算をしたのかもしれない。よせばいいのに、また奇妙な計算をしてしまった。仮に「人口の5%=500万人」だとしても、見た人の数の合計が500万人なら、視聴率が5%には絶対にならない。この図を見てほしい。

画像

視聴率とは、見た人(地上波テレビでは見た世帯だが)の平均値だ。上がったり下がったりした平均を取ると、5%だったということだ。

一方「視聴者数」とは、見た人の数を加算していくことになるはずだ。500万人という数は、番組の最後に累計されて初めて出てくる。最後の数値が500万なのだから、平均が500万になるはずは絶対にないのだ。

こんなことを株主の前で発言したと日経トレンディにある。ちょっと信じがたい発言だ。いい加減と言われても仕方ないのではないだろうか。AbemaTVは、こうしたメディアとしてのデータをきちんと把握したり、共有したりできていないとしか思えない。

私は当初から、AbemaTVを応援してきた。頼まれて番組に出たこともあったし、昨年5月にはYahoo!でこんな記事も書いている。

→「ウーマンラッシュアワー村本大輔と元NHK堀潤は、AbemaTVでテレビをぶち壊せるか?」

村本氏と堀氏が好きだからもあるが、AbemaTVが閉塞するメディア界に風穴を開けてくれるとも期待して書いた記事だ。

だがこのところの一連の出来事には、がっかりしてばかりだ。もっと自分たちの指標を明確にして、クリーンな発表をしてほしい。こうなると、視聴者数に絞ったほうが信頼されると思う。もう視聴数を打ち出すのはやめて、信頼されるメディアとはどうあればいいかを真剣に議論してもらいたいものだ。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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