52歳。このまま一人で生きていくつもりですが、ゴハンに行ける友だちは欲しい~スナック大宮問答集44~
「スナック大宮」と称する読者交流飲み会を東京、愛知、大阪などの各地で毎月開催している。味わいのある飲食店を選び、毎回20人前後を迎えて和やかに飲み食いするだけの会だ。2011年の初秋から始めて、今月の愛知・蒲郡での開催で140回目に到達した。のべ2800人ほどと飲み交わしてきた計算になる。
筆者の読者というささやかな共通点がありつつ、日常生活でのしがらみがない一期一会の集まり。30代半ばから50代半ばまでの「責任世代」が多い。お互いに人見知りをしながらも美味しい料理とお酒の力を借りて少しずつ打ち解けて、しみじみと語り合えている。そこには現代の市井に生きる人の本音がにじみ出ることがある。
その会話のすべてを再現することはできない。お客さんの1人と改めて対話をした内容をお届けする。会話に参加する気持ちで読んでもらえたら幸いだ。
***カナさん(仮名。独身女性、52歳)との対話***
縁もゆかりもない土地に一人で引っ越して来たばかり。会社以外の人間関係も広げたい
――カナさんはスナック大宮に初参加でしたね。そもそもどうやってこの食事会を見つけたんですか?
大宮さんの連載「晩婚さん、いらっしゃい!」を以前から読んでいます。晩婚というカテゴライズで、普通に生活している人たちの話を集めていますよね。有名人や変わった人たちじゃないところがいいな、と思っています。
私自身は結婚したことがなく、婚活したりする予定もありません。このまま一人で生きていくんだろうなと思っています。自由な身なので、去年の秋に愛知県の会社に転職をして引っ越してきたばかりです。スナック大宮が県内で開催されると知り、ぜひ参加したいと思いました。
――その前は長く首都圏に住んでいたんですよね。
はい。今は会社の近くで一人暮らしをしています。まだ仕事関係の人しか知り合いがいないので、完全にプライベートな友だちが欲しいなと思ったのもスナック大宮に参加した理由です。ゆるくつながって、休みのときにゴハンに行けたりする人ができたらいいなと思っています。
話の輪に入れなくても耳を傾けると面白い。ネタを探すつもりで食事会に参加する
――蒲郡市は僕が住んでいる町でもあるので、良い飲食店を探してスナック大宮をときどき開催する予定です。ぜひまたお越しください。今回はどうでしたか?
普段は会わないような人たちが参加していたのが良かったです。年齢を重ねると、同業者や同僚、同じ趣味の人という限られた生活になりがちですから。
――今回は和食店でのコース料理だったので席の移動がしにくく、交流はしづらかったのが申し訳なかったです。近くの席に座った人とは話せましたか?
はい、大丈夫です。でも、自分を受け入れてもらおうとし過ぎると人見知りをしてしまいがちだと思います。話の輪に入れない場合でも、他の人たちの会話に耳を傾けると面白かったりしますよね。ネタを探すような気持ちでこういう場に参加するのもありだと思います。
私が一番びっくりしたネタが、店主の方が実演して下さった包丁式です。茶道や華道と同じぐらいの歴史がある儀式料理なんですね。三河地方にこういう伝統文化があること自体を知らなかったので貴重な体験でした。
海が好きな私。駅から徒歩数分で港に出られるという住環境が羨ましい
――せっかく蒲郡に来てもらったので、三河の文化を味わってもらおうと思って店主にお願いしました。僕も初めて見たのですが、想像以上にすごかったです……。
私は海が好きなので、駅から徒歩数分で港に出られるという蒲郡の環境が羨ましいです。三河湾は浅いので趣味のスキューバダイビングはできなさそうですが(笑)、海を眺めているだけでも気持ちが落ち着くし、海産物を料理して食べるのも大好き。会社までも通えそうなので、この町に引っ越してこようかと本気で検討中です。
――最近、うちのマンションの201号室が空きました。カナさん、いかがですか? 僕は単なる店子なので家賃を下げたりはできませんけど(笑)。賃貸マンションなのに14世帯中7世帯はLINEグループでつながり、魚介類などを分け合ったりしています。楽しいですよ。
そういえば、先日のスナック大宮では大宮さんお手製のメヒカリの干物も焼いて出してくれましたね。あんなにフワッフワの食感の干物を食べたのは初めてです。美味しかった! 蒲郡での暮らし、いいですね~。
読者かつ飲食好きのつながり。利害関係のない人たちと美味しく過ごせる「共有の場」を作る
以上がカナさんとの会話だ。スナック大宮の会場は、個人経営の良き飲食店をその常連客(蒲郡の場合は筆者自身)に予約してもらうことにしている。そのほうがストーリー性を楽しめるし、お店との一体感を覚えやすいからだ。飲み食い好きの読者に集まってもらうことで、共通の話題を持ちやすくするという狙いもある。
先月の開催場所である奈良県生駒市のイタリア料理店は、読者の女性が22年前の入社時に会社の先輩から「強くお勧め」してもらった店だという。「とても美味しくて、雰囲気も素敵。それでいてリーズナブル。ものすごく感動したのを憶えています」と聞いて、迷わずにこの店に決めた。
人と人が出会って友情などを育てるには、興味や親しみを感じられる場の共有が有効だと思う。学校や勤め先、保護者つながりなどは強力だ。でも強力過ぎて世界が限られてしまいがちだし、しがらみも多くなる。もっとゆるくて利害関係もなく、安心できて美味しい場があっていいと思う。行政や企業に任せてはつまらない。我々個人が住民目線で好き勝手に作って仲間を募ればいいのだ。