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唇が腫れあがり「醜い」と言われた野良猫に驚きの変化が。猫の疾患で知っておいてほしいこと

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

ウェブメディア「grape」に、「障がいがあると思われた猫 治療を続け、数カ月後の姿に『すごい変化』『とても美しい』」というニュースがあがっていました。記事によりますと、アメリカに『Poets Square Cats』という野良猫に食事を与えたり、必要な医療を受けさせたりする野良猫の集う家があるそうです。

ある日、そこに先天的な疾患を持つと思われる野良猫がやってきました。その子は、サムちゃんと名付けられたシャム猫で、斜視で唇が腫れあがっていました。『Poets Square Cats』の運営者は、サムちゃんを見た時に「生まれつきの障がいだ」と思ったそうです。しかし、サムちゃんには思わぬ変化があったのです。

一連のサムちゃんの様子からわかることと保護主や飼い主が気をつけたい点、対処法などを獣医師の観点から見ていきましょう。

サムちゃんの衝撃的な症状とは?

出典:poetssquarecats 
出典:poetssquarecats 

サムちゃんは、口を痛がる様子はなく、ほかの猫たちと一緒にごはんを食べに来ていました。しかし、顔を見ると、目は斜視(しゃし)※で、唇は腫れて潰瘍のようになっていました。

『Poets Square Cats』は『Sad Mouth Sam(悲しい口のサム)』という呼び名で、サムちゃんのことをSNSに投稿しました。それをきっかけに、サムちゃんには、喜ばしい展開が訪れたのです。

※斜視とは、片方の目は視線が正しく目標とする方向に向いているが、もう片方の目が内側や外側、あるいは上や下に向いている状態のことをいいます。

サムちゃんが完治へ

出典:poetssquarecats
出典:poetssquarecats

サムちゃんの投稿写真を見た親切な人が、サムちゃんを一時的に預かって病院に連れて行ってくれました。

そこでサムちゃんの唇の腫れの原因は、食べ物や環境などによって引き起こされるアレルギー反応だということがわかったのです。

サムちゃんは、ステロイド注射や飲み薬の投与を受けたことで、上記の写真のように口や目は数カ月後には治ったそうです。

サムちゃんの唇の病気は好酸球性肉芽腫症候群

サムちゃんの皮膚疾患は、好酸球性肉芽腫症候群という病気です。

この皮膚病は名前の通りに白血球のなかのひとつの好酸球により炎症がおこり、肉芽腫が猫の皮膚にあちこちにできてしまいます。

以下のように症状を3つのタイプにわけることができます。

好酸球性潰瘍(かいよう)

口腔に深くえぐれた潰瘍が形成されます。サムちゃんはこれにあたります。主に上唇に深い潰瘍ができます。犬歯が当たる部分の口腔粘膜に最初はできることが多いです。

好酸球性プラーク

平らに膨らんで盛り上がったように見える大きい潰瘍(プラーク)を形成し、赤くなります。複数のプラークが石畳のように寄せ集まることもあります。通常はかゆみが伴います。そのため、化膿したりもします。よく現れる部位は腹部、そ径部、大腿(太もも)の内側や後ろ側、首などです。

好酸球性肉芽腫(線状肉芽腫)

肉芽腫という組織が線状に盛り上がります。よく現れやすい部位は、大腿の後ろ側、顎や鼻、口の中や喉です。

□好酸球性肉芽腫症候群の原因

好酸球性肉芽腫症候群の原因は、アレルギー、寄生虫、細菌感染といわれていますが、はっきりとした原因はわかっていません。ストレスや猫白血病ウイルス(FeLV)、猫免疫不全ウイルス(FIV)などにより猫の免疫力が低下したことにより発症しやすいといわれています。

口唇に潰瘍ができた猫がノミを持っていて、ノミを退治すると病気が消えたという事実もあります。したがって、この病気は、さまざまなアレルギーによって発生すると考えられるようになっています。

□好酸球性肉芽腫症候群の治療

原因と考えられるものを取り除き以下の治療をします。

・ステロイド剤

・免疫抑制剤

・抗生剤

・駆除薬

サムちゃんは、室内飼いになり、食事も改善されて、この病気を完治しています。

まとめ

『Poets Square Cats』は、SNSにサムちゃんの「先天的な疾患と思われた野良猫」の写真を投稿したところ、親切な人が動物病院に連れていき、完治させてくれてました。

その様子をSNSで見ていたサムちゃんの里親になったケイトさんは、以前に飼っていたシャム猫が数年前に亡くなり、そろそろ新しい猫を家族に迎えたいと思っていたそう。そんな時にサムちゃんの写真を見て「この子だ」と思い、離れた距離のアリゾナ州まで飛行機と車を乗り継いで、サムちゃんを引き取りに行ったそうです。

SNSに投稿することで、多くの人が見てくれて、治療のアドバイスなどがもらえて、里親まで見つかることもあります。SNSを通して、このように心ある人が行動して、野良猫が幸せになりました。

サムちゃんの唇の潰瘍は、臨床経験を積んだ獣医師が見れば、わかることが多いので、もう治らない病気だと思わず、一度は動物病院に連れて行ってください。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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