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中国で死者激増か 火葬場に列 軽症者は出勤するも、街は閑散 「日本がうらやましい」の声も

中島恵ジャーナリスト
外出を控える人が増え、閑散とする中国の地下鉄車内(写真:ロイター/アフロ)

12月7日に中国政府がゼロコロナ政策を撤廃した結果、全国各地で感染者が急増している。北京市などでは火葬場に向かう車が渋滞し、火葬できない遺体が順番待ちをしているという。

多くの中国人が厳しすぎるゼロコロナが撤廃されたことに対し、一時的に喜んだが、あまりに急激な方針転換に、すぐに混乱が広がった。一部の中国人からは「日本のコロナ対策がうらやましい」という声も……。ゼロコロナ撤廃後の2週間、どんなことが起きたのか、振り返る。

突如としてゼロコロナを撤廃した

政府がゼロコロナの撤廃を決定した。きっかけとなったのは、11月末、上海など全国各地で白紙を手にする若者らの抗議活動だった。

「習近平を打倒せよ」「ゼロコロナはいらない、自由が欲しい」などとデモを行ったことが引き金となり、政府は突如として方針を変更。感染者を病院や隔離施設へ移送することをやめ、無症状者や軽症者の自宅隔離を認めるとした。

各地に設置していたPCR検査場も撤去。これまで毎日のように行うことを義務づけていたPCR検査を不要とし、建物に入る際や公共交通機関に乗る際に必要だった健康コードや場所コードの提示義務もなくした。

出張や旅行の妨げとなっていた省や市をまたぐ移動にも陰性証明を求めないこととした。つまり、マスクの着用義務以外、ほぼ完全にコロナ前のような状況に戻り、一気に野放しになったのだ。

政府のいきなりの方針転換に人々は一瞬喜んだものの、すぐに、それは戸惑いや不安に変わった。人々は行動制限がないにもかかわらず、自主的に外出を控えるようになった。

とくに感染者が増えた北京では、大通りや繁華街に人がほとんどいないという珍現象が起きた。上海でも、外出の際に防護服を着たり、N95マスクを装着したりして防備する人が多い。

「政府のいうことは信じられない。緩和したら一気に感染者が増えるのではないか」と怯えたからだ。これを「自主隔離」「逆ゼロコロナ」と自虐的に呼ぶ人もいた。

薬が入手できず、デマも広がる

発表から数日後、感染者が急激に増加し始めた。何の準備もなく政府が方針転換したことに対して批判が起き始めたが、政府は14日の記者会見で全国にある医療機関に発熱外来を約5万か所開設したと発表した。

各地の病院の発熱外来には長蛇の列ができるようになり、薬局には解熱剤や風邪薬などを求める人が殺到。しかし、一部地域では販売に制限をかけており、入手できない人が続出して混乱した。

これを受け、在日中国人などの間で、ドラッグストアで風邪薬や鎮痛剤などを買い求め、中国に送付する姿も。とくに大正製薬の『パブロンゴールドA』がコロナに効くという情報が出回ったことで、同製品の買い占めが一部で発生した。

混乱に乗じるようにデマも広がった。中国ではこれまでも根拠のない発言に惑わされる人が多い傾向があったが、今回もSNSで「レモンがコロナに効く」という情報が広がったことでスーパーではレモンの争奪戦に。「モモの缶詰が効く」といったデマもあった。

現地の日本人も続々と感染している

12月中旬以降、北京や上海に住む筆者の日本人の知人、友人も在宅ワークをしているのにもかかわらず、続々と感染し始めた。在日中国人からも「北京、上海だけでなく、武漢、重慶、広州、深圳など全国で親戚や友人が軒並み感染している。地域を問わない広がり方だ」という話を聞いた。

日本政府の発表によると、22日、現地の日本人駐在員1人が検査で陽性になったあと、死亡したことも判明した。

中国のワクチンは国内のシノバック社、シノファーム社製の2種類だが、日本など各国で使われているファイザーなどのmRNAワクチンと比較すると有効性が低いとされていることも、中国人の間に不安が広がっている原因だ。

中国では高齢者のワクチン接種率が低く、1万人あたりの病床率も日本の3分の1程度しかないことから、高齢者の重症化や死亡率が高いといわれている。

ジェトロのサイトによると、19日にジェトロが広州の日系企業にヒアリングしたところ、「3~5割の従業員が感染しており、出勤可能なのは3~4割だ」との回答を得たという。

しかし、政府は軽症や無症状者の出勤を求めている。なんとかして経済活動を回すためだ。オフィスには陽性者用のスペースと、陰性者用のスペースを分けて対応しているところもある。

しかし、同サイトによると、広州の地下鉄利用者も12月5日の週は1日500万人が利用していたが、19日には半減したとある。上海、広州など多くの小中学校も一部オンライン授業に切り替わっており、幼稚園は通園を停止しているところも多い。

日本がうらやましい

北京や上海在住の複数の中国人に現在の状況についての思いを聞いてみると「周りが次々と感染していて、自分が感染するのも時間の問題かもしれない」「スーパーにいっても店員しかいない。商品もわずか。買えるものだけ買って帰り、できるだけ自宅にひきこもる」「商談も延期になっており、仕事への影響は大きい」という意見があった。

日本に以前住んだことのある中国人に聞いてみると、「日本のコロナ対策を以前はゆるい、手ぬるいと思っていたが、いま改めて考えてみると、日本では強い規制をしないで自主性にまかせてきて、結果的に集団免疫ができたように見える」といった声や、「ワクチン接種率も高齢者のほうが高い。極端なことが起こらず、コロナでも社会が混乱しない日本がうらやましい」といった声もあった。

死者数は爆発的に増えるとの推計も

死者数について、政府の方針転換以降、疑問の声が上がっていた。政府の公式発表では、コロナによる死者は17日は「ゼロ」、19日は「2人」だったが、20日の記者会見で、死者数の集計基準を変更し、基礎疾患が主な死因の場合、死者に含めないようにしていたことを明らかにした。

英国の医療調査会社は22日までに「1日の感染者は100万人超、死者は500人超に上るとの推計を発表。同調査によると、ピークは2023年1月半ばと3月始めの2回で、1日あたりの感染者数はそれぞれ370万人、420万人に達する可能性があるという。

3月まで3つの感染の波

これとは別に、中国CDCの専門家は17日、この冬の流行は1つのピークと3つの波(一峰三波)に要約できると発表した。

第1波は12月中旬から1月中旬にかけて都市を中心とした感染拡大、第2波は1月下旬から2月中旬の春節をはさんだ時期の人の移動による感染拡大、第3波は2月下旬から3月中旬にかけて、春節後に人流が戻る際に生じる感染拡大としている。

2023年の春節(旧正月)は1月22日と例年より早い。この日程であれば、通常、1月10日過ぎには帰省のための民族大移動が始まるはずだ。

政府は今のところ省をまたぐ移動を規制していないが、もし数億人が公共交通機関を通じて移動するとなると、感染が内陸部の農村にまで拡大するかもしれない。脆弱な医療機関では対応しきれなくなり、死者はますます増える可能性もある。これから春節までの1ヵ月、予断を許さない状況だ。

参考記事:

感染者急増、薬不足の中国で「医薬品を分け合う相互扶助アプリ」をテンセントが開発

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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