「リーマン・ショック並みに消費マインドが悪化している」。
西村康稔経済再生担当大臣がそう述べるように、新型コロナウイルスの感染拡大によってリーマン・ショック以来の世界的な景気後退への懸念が高まりつつある。
そうした中、与野党から大規模な経済対策、特に消費税減税を求める声が挙がっている。
自民党からは、安藤裕衆議院議員を中心とした45人の若手有志が「消費税ゼロ」「30兆円規模の2020年度補正予算」という大胆な提言を行い、安倍晋三首相は14日の会見で消費税減税について、「自民党の若手有志の皆さまからも、この際、消費税について思い切った対策を採るべきだという提言もいただいている。今回(昨年10月)の消費税引き上げは全世代型社会保障制度へと展開するための必要な措置ではあったが、今、経済への影響が相当ある。こうした提言も踏まえながら、十分な政策を間髪を入れずに講じていきたい」と発言、消費税減税に含みを持たせている。
また、れいわ新選組の山本太郎代表や馬淵澄夫衆議院議員らが野党有志とつくる「消費税減税研究会」は16日、消費税率を5%以下に1年程度引き下げることなどを盛り込んだ提言を発表した。
国会においても、日本維新の会の音喜多駿参議院議員が減税を求め、麻生太郎財務大臣から「景気対策としての減税には、反対するつもりない」という発言を引き出したが、13日の記者会見で、「一律減税しても(景気)刺激にはならない」と、減税には消極的な姿勢を示している。
はたして、消費税減税は今すべきなのか。
結論から言えば、消費税や所得税減税の緊急度、優先度は高くない。
まずは、国民民主党が訴えている「国民一人あたり10万円給付」、税金・奨学金の納付延期、企業向け融資拡大をすみやかに実施すべきである。
必要なのは生活保障
理由は、明確だ。
今必要なのは、休業や失業によって失われた給料(生活費)、企業収入を一刻も早く補填することだからである。
現在政府は、学校の臨時休校に伴う休業に対する雇用者への所得補償を行う準備を進めているが、1人当たり1日最大8330円(フリーランスは4100円)と、規模が不十分な上に、企業が申請を行わなければならず、スピーディーに対応できるのかわからない。
また、所得補償は保護者を対象にしているが、外出自粛などによって単身世帯の労働者にも影響が出ており、明確に補償すべき対象を絞ることは難しい。
現役世代の方が影響が大きく労働者も多いことを考えれば、2009年のリーマン・ショック時のように対象年齢によって支給額に差をつけることは一案であるが(当時は基本1人当たり1万2000円で18歳以下と65歳以上は2万円)、近年では高齢者で働いている人も多く、基本的には全世代対象で現金を支給すべきだろう(60代後半では約半数、70代前半でも約30%が働いており、多くが非正規)。
従業員であれば、休業補償を受けられるが、休業手当は平均賃金の60%以上とされており、ぎりぎりで働く若者や非正規社員にとっては十分ではない。
さらに、外出を自粛している中で消費税減税を行っても、使う機会に乏しく、生活費程度であれば大したインパクトにならない(仮に5%減税、全て価格に反映させたとしても、おそらくはそうならないが、生活費10万円だとして減税分は5000円である。中期的な経済対策としては別として、即時的な効果は見込めない)。
こうした背景から、共和党寄りの経済学者、グレゴリー・マンキュー ハーバード大学教授も13日、「手始めにすべての米国人に1000ドル(約11万円)の小切手を可能な限り早急に送るべき」だとブログで主張。
これを見てか、トランプ米政権は17日、「2週間以内に国民1人当たり1000ドル以上を支給」を含めた、最大1兆2000億ドル(約130兆円)規模の緊急経済対策案を検討していることを発表した。
国民民主党案だと、貯蓄に回らないよう期限付きの金券か電子マネーで給付ということだが、喫緊の課題が(家賃や公共料金の支払いなども含む)生活費・企業収入の補填であることを考えると、現金と融資の方が良いだろう。
一刻も早く給付の実施を
金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」(令和元年)によると、20代の単身世帯の約45%が「貯蓄がない」と答えており、多くの人々の日々の暮らしが自転車操業になっているのが日本の現状である。
借入のある世帯も近年増加傾向にあり、借入の目的は、「日常の生活資金」が43.7%と最も高くなっている。
こうした現状を踏まえると、生活保障のための現金給付に一刻の猶予もない。
「コロナショック」前の2019年10~12月期の実質GDPが年率換算で前期比7.1%減だったこと、今後さらに世界的な経済悪化の影響を受けることを考えると、減税も含めた経済対策は必要であるが、まずは緊急対策として、大規模な現金給付をすみやかに実施すべきである。