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なぜロジカルシンキング研修を受けると、よけいに仕事ができなくなるのか?

横山信弘経営コラムニスト
ロジカルシンキング研修は大人気だ。(写真:アフロ)

■ タチが悪い「論破思考」の人

最近「論破思考」の人が増えた気がします。相手の意見に反論し、言い負かそうとする思考、習慣を持っている人です。

ルールを決めてディベートするならいいですが、単に相手を屈服させたいとか、反論できなくなった相手を見て悦に入りたいというような悪癖は身につけるべきではありません。

とくに、ロジカルシンキング研修を受けたばかりのときは、タチが悪い。付け焼き刃の知識で、ロジカル風なコミュニケーションをとろうとすると、周囲との関係を悪くさせやすいのです。

ロジカルシンキングは、いわばスポーツです。知識だけで使いこなせると思ったら大間違い。

たとえば、以下の会話文を読んでみてください。

上司:「残業を削減するために、もっと情報共有を促進させてくれ」

部下:「もっと情報共有をしたほうがいい? 残業を減らすために、ですか? 論理の飛躍じゃないでしょうか」

上司:「営業第二課が正しく情報共有することで、業務の効率化が進んだらしい」

部下:「それってMECEになってませんよ。残業削減のための施策が、情報共有だけとは限りません。なぜ・なぜ・なぜ……を繰り返して、真因を見つけましたか」

上司:「ミーシーって、何だ?」

部下:「MECEも知らないんですか。漏れなくダブりなくという意味です。いずれにしても、思いつきでやっても残業は減らないと思いますよ。これまでも、そうだったじゃないですか」

上司:「……」

この会話文では、部下が上司を論破したように読めます。最終的に、上司が反論できなくなっているからです。

気になるのが、部下側に代替案がないことです。本来なら、

「情報共有することで業務効率が進むと思いますが、MECE的に考えたら、施策が足りない気がします」

と、建設的な意見を出すべきです。そのうえで、

「本気で残業を削減するために、他にもやるべきことがないか。一緒に考えませんか。せっかくロジカルシンキング研修を受けたので、そのとき覚えたフレームワークを使って、頭を整理したいのです」

と、このように提案するのです。

本当に論理思考力がある人は、「組織」の言葉の定義を正しく知っています。

ですから、上司を論破などしようとしません。このシチュエーションでは、相手を論破することを目的とせず、組織目的である――残業削減のためにポジティブな提案をしなければなりません。

■ 論理思考と論破思考

論理思考と論破思考は、一字しか違いませんが、まったく逆です。

論理思考力が高い人は視野が広い。状況に合わせて視座を高くしたり、低くしたり、柔軟にできます。俯瞰力があるため、物事を『線』や『面』でとらえられます。

いっぽう相手をその場で論破しようとする論破思考の人は『点』でしか世界をとらえていません。

ふだんから自分の確固たる芯みたいなものがなく、感情にとらわれて言い訳ばかりしていた人が、ロジカルシンキング研修を受けたとたん、その感情に、にわか仕込みの「ロジカル風なフレーズ」を沿えたりします。

■ ロジカルシンキングはスポーツだ

冒頭に記したとおり、ロジカルシンキングはスポーツです。にわか仕込みの知識は体に馴染んでいないから、うまく使いこなせないのです。

筋力もないのに、高性能なマシーンでトレーニングをしようとする人と同じで、へたをするとケガをします。周囲から見ていると、滑稽きわまりない。

ロジカルシンキング研修を受けても、問題がないのは、「絶対論感」の持ち主だけでしょう。

「絶対論感」とは、人の話を聞いていて、たとえば「筋が通っていない」「つじつまが合っていない」と一瞬でわかる感覚のことを指します。

(※あなたがロジカルかどうか試す「絶対論感テスト」

絶対音感と同じで、「絶対論感」がある人は、他人から教えられなくても論理思考力――というか「論感」があります。

この論感というのは感覚のことですから、体で感じるものです。「なんかこの人が言っていることは、おかしい」「そのスピーチって、うまく整理できていないな」と、体で感じとれるスキルです。

このような論感がある人がロジカルシンキング研修を受講すると、これまでずっと体で覚えてきた感覚が言語化されますので、すーっと腹に落ちます。

頭で理解することではないので、「腹に落ちる」という表現をします。ですから、すぐさま使いこなすことができます。しかし「絶対論感」を持っている人は、なかなかいません。

論感がない人がロジカルシンキング研修を受講すると、体に馴染んでいないまま、頭で考えてその武器を使おうとします。

プロコーチにラケットの振り方を教えられても、テニス初心者はうまくボールを打ち返すことができません。教えられたことが、まだ体に馴染んでいないからです。これと同じです。

とくに、時間という軸を「線」でとらえたり、置かれた環境を「面」でとらえたり。視座を柔軟に操ることができない人は、自身の感情を「点」でとらえてしまいがちです。

相手を論破するクセ――論破思考は今すぐやめて、正しい論理思考を身につけましょう。「絶対論感」がない人は、トレーニングによって論感を鍛えることができます。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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