「24時間営業」だけが問題?全国推定143万個分の弁当を毎日捨てるコンビニはなぜ見切り販売しないのか
「万引き家族」ならぬ「値引き家族」
2019年3月30日付、朝日新聞名古屋版朝刊の「声」欄に、66歳の男性アルバイトからの投書が載っていた。
夫婦二人の年金暮らし。年金で足りない分をアルバイトで補っているので、スーパーの賞味期限接近の「2割引き」「3割引き」「半額」は、家計の強い味方だという。
映画『万引き家族』ならぬ、「値引き家族だね」と、夫婦で苦笑いした、と書かれていた。
消費期限や賞味期限の近づいた値引き食品を家計の助けにしている家庭はいるだろう。
全国55000店舗のコンビニで毎日推計116万〜143万個分の弁当が捨てられている
2018年8月24日、脚本家の倉本聰さんと対談した際、コンビニの1日あたりの食品廃棄量を聞かれ、過去に書いた記事をもとに「1日384トンから604トン」と答えた。すると倉本さんは、数字だとわからないから、弁当に換算して教えて欲しい、とおっしゃった。弁当もいろいろあるので計算は難しく、「おにぎりはどうですか?」と答えたが、倉本さん曰く、おにぎりより弁当の方が、肉やハムなどいろんなものが入っていてリアリティがあり、イメージ的に迫力があるとのこと。
大手コンビニ3社の肉入り弁当の重量測定をしている方がいた。この3社の肉入り弁当の平均値400gから算出すると、毎日116万8000個分の弁当が捨てられている計算になった。倉本さんと筆者の対談の様子は季刊誌として発行された。
改めて、環境省のデータから計算すると、どうなるだろうか。
環境省のデータを見ると、リストに挙げられているコンビニ7社(当時)で20万9000トン。これを、先ほどの肉入り弁当平均値で計算すると、弁当143万1506個分になる。
いずれにせよ、弁当換算で116万〜143万個分と、毎日100万個以上を捨てていることになる。これは店頭だけなので、ベンダーと呼ばれるコンビニ弁当納入業者の製造工場で作り、待機していたものの出荷されずに廃棄になる分を加えれば、数字はさらに膨らむだろう。
なぜコンビニは値引きしない?
スーパーと違って、なぜコンビニは値引きしないのだろう?
主に2点を挙げる。
1、見切り(値引き)販売するより廃棄した方が本部の取り分が多いから
コンビニでは、期限が近づいて値引き(販売)することを「見切り」と呼ぶことが多い。
「こんなに捨てています・・」コンビニオーナーたちの苦悩にも書いたが、見切り販売するより、廃棄した方が、本部の取り分(儲け)が多くなるから。
この独特の仕組みは「コンビニ会計」と呼ばれ、一応、合法であるとされている。
2、売れ残り食品のコストの80%以上は本部ではなくコンビニオーナーが持つから
あるスーパーの経営陣は、「廃棄は悪。売変(売価変更)してでも売り切る」と語る。
コンビニでは、いわゆるデイリー食品と言われる弁当やおにぎり、サンドウィッチなどが売れ残った場合、仕入れたコストはオーナーが払っているが、損益計算書上は「なかったこと」にされている。払っているのに、見かけ上の粗利が大きくなる。
2009年(平成21年)6月22日、公正取引委員会は、セブン-イレブン・ジャパンが見切り販売をオーナーに対して制限していたことを「優越的地位の濫用」に当たると判断した。セブン-イレブン・ジャパンは公正取引委員会から排除措置命令を受けた。
それまで、売れ残り食品のコストは、オーナーが100%負担だった。が、それ以降は、オーナーが85%負担に変わっている(ただし、オーナーが契約書の一部変更を承認してサイン・捺印をした場合のみ)。
他のコンビニでは、オーナー80%負担のところもある。いずれにせよ、売れ残り食品のコストは、店舗オーナーに大部分の負荷がかかっている。本部ではない。
ポプラは弁当値引き販売を試験的に開始し販売額12%増、粗利額3%増、セイコーマートは以前から見切り販売
コンビニの全てが見切りをしないわけではない。
2019年4月5日付の食品新聞は、ポプラが弁当の値引き販売を始めることを報じた。
2018年末から試験的に実施したところ、関西の直営店2店舗では、弁当や調理パンなど、デイリー食品の販売額が12%も伸びたという。集客力が高まり、粗利額が3%も改善した。
2014年、うなぎの品薄を受けてさんまの蒲焼の販売へとシフトしたセイコーマートは、早くから見切り販売を実施している。2018年9月に発生した北海道地震の際には、カツ丼にするはずだったご飯を塩むすびにして、より多くの人に食べ物が買ってもらえるようにした。停電に際しては、車のバッテリーを使って動かし営業を開始するなど、臨機応変な対応が際立っている。北海道地震の際、大手コンビニが、弁当に一品欠けたがためにすべてを廃棄した杓子定規の対応とは、大きく異なる。
ポプラやセイコーマートだけでなく、大手3社の加盟店の中にも、積極的に見切り販売を行なっている店舗はある。ただ日本全体では見切りしているのは1%だという(映画『コンビニの秘密』より)。
見切りは長期的に見ればコンビニ本部とオーナー双方にメリットをもたらす
見切り販売をすることで、オーナーの取り分は増える。オーナーの不満が募り、国が多額の予算をかけてコンビニの実態調査を行い、経済産業相が大手コンビニ本部に指導をしている現状だ。全国のオーナーの満足度が上がることは、中長期的に見れば、本部にとってもメリットをもたらすはずだ。
それだけではない。
今、この瞬間に自然災害が起きたら?
災害で被災地の農産物の生産が叶わなくなったら?
食料輸入国から輸入を止められたら?
国民の命を支える食料が不足するリスクはいくらでもある。リスクに備えて、今ある食料を、確実に消費し尽くしていくことは、SDGs(持続可能な開発目標)が採択され、持続可能性を目指す社会にとって必須だ。
提言:コンビニはデイリー食品の見切り販売をしよう
筆者の提言は「コンビニは、まだ十分に食べられる食品の見切り販売を今すぐに始めよう」ということだ。
「新鮮なものを売るのがコンビニです」と反論されるかもしれない。
衣食住の世界では、新しいものが古くなったら値段を下げて提供している。
住宅しかり。
衣類しかり。
もちろん、時を経た方が価値が上がる住宅や衣類もある。それは、食品でも同様だ。だが、日持ちのしない、鮮度が劣化しやすいデイリー食品に関しては、期限が近づけば近づくほど値段を下げて売りきるのは妥当なことだろう。毎日毎日捨てるよりもずっといい。
「見切り狙いの客が来るから」という反発もあるかもしれない。
筆者が取材したある店では、そうならないよう、曜日や時間帯をバラして見切りしていた。「お金払って買ってくれるんだからいいじゃない」と、見切り販売の客を歓迎している店もあった。顧客から「よくやってるね。なかなかこういう店は少ない」と褒めてもらったというオーナーもいた。
経済産業省によるコンビニ調査2018や、東大阪のセブン-イレブン・ジャパンの夜間閉店の件などから、ここのところ、24時間営業のみに課題が集約されている。世間の関心を集めたのはいいが、そこだけに集中し過ぎのようにも見える。他に山積している問題をはぐらかすために「24時間営業」というキーワードに終始しているようにすら見える。
コンビニの抱える課題は24時間営業(労働)だけではない。見切りをしないことによる大量の食品廃棄や、ドミナント戦略による過剰出店も、全国のオーナーを苦しめてきた、深刻な課題だ。
24時間労働をやめた東大阪のセブン-イレブンの店舗は、2019年3月から見切り販売も始めた。店舗利益は対前年比で21万円上昇している。
コンビニ11店舗の損益計算書を税理士が分析したところ、見切り前と後では年間400万円以上も取り分が増えている。
コンビニの抱える問題に注目が集まり、大勢の議論の場ができたことはよかった。だが、解決すべき課題は「24時間営業」だけではないはずだ。