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「裸の王様」大手コンビニ本部の暴走を支える「マンセーオーナー」とその仲間たち

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:ロイター/アフロ)

「マンセーオーナー」とは?

2017年、コンビニを取材した時、初めてその言葉を聞いた。

「マンセーオーナーって、なんですか?」

マンセーは「万歳」を意味し、あるものに熱狂することを揶揄する言葉として使われている。コンビニ業界では、本部を崇拝し、なんにでも従うような加盟店主(オーナー)を指すのだそうだ。

コンビニ取材のきっかけ

食品業界には「3分の1ルール」など、食品ロスを生み出す商慣習がある。欠品NG(絶対ダメ)もその一つだ。

メーカーは小売(スーパー・コンビニなど)から欠品を許されないことがほとんどだ。欠品すると取引停止の可能性を示唆される。自社商品を小売の棚に置いてもらうためには、欠品はNG。全国展開している売り手からすれば、競合メーカーなんて他にいくらでもある。いくらでもすり替え可能だ。メーカーは、自社が取引を続け、売り上げを確保するためには、商品が足りなくなるのは許されない。

2017年、ずっと訪問したいと思っていた「欠品を許容するスーパー」の企画を出した。その際、スーパーと並行して「コンビニの記事も取材して書いてはどうか」との提案をYahoo!編集部から受けた。それが、コンビニ取材のきっかけだ。

「マンセーオーナー」ってほんとにいるの?

ところで冒頭の「マンセーオーナー」って、本当にいるの?

つい先日、東日本で食品ロスの講演をした際、講演が終わり、幾人かとの名刺交換を終え、あとは新幹線に乗るだけという段になって、一人の男性が近づいてきた。

「わたし、このマークなんです」

彼は大手コンビニエンスストアのロゴの入った名刺を見せた。複数の店舗を経営するオーナーだった。

「本当は、食べ物あんなに捨てたくないんですよ」

「この後(他の店の)オーナーたちに会うから、もっといい話が聞けると思ってたんだけど」

主催者から依頼されたその講演は、事業者も消費者も両方を対象に含めた、食品ロス全般に関する講演だった。コンビニに特化したテーマではない。

筆者は

「コンビニなら見切り(値引き販売)をすればいいではないですか」

と言った。するとその男性は

「○○(会社名)はダメ!(見切りなんてしたら)即、閉店!」

と言った。

「そんなことないですよ」

と返したが、聞く耳を持たないようだった。あまりに食らいついて放してくれないので、主催者の方が「新幹線の時間、大丈夫ですか?」と声をかけて終わらせようとしてくださったが、講師の後の予定なんて知ったこっちゃない、という感じだった。

その話をあるオーナーにしたところ、「たぶんマンセー(オーナー)ですね」ということだった。

「マンセーオーナー」の典型的なパターン。

従業員に社会保険をかけないなど、福利厚生をごまかしつつ、本部にはもの申すことができない。

「もう少し自分の頭で考えろよ」と言いたくなる人が多過ぎる。

あげくに「ブラック業界」と突き上げられるのは、こんな加盟店主(オーナー)たちが主流だから。

今はある程度、売上利益があるから、先のことは考えていない。今さえよければいい。

出典:コンビニオーナーの言葉

コンビニで売れ残った食べ物のコストは、8割以上、オーナーが負担している。それでいながら損益計算書上、なかったことになるので、見切りするより捨てた方が本部の取り分が大きくなるのが「コンビニ会計」だ。

見切り販売を制限したためにセブンーイレブン・ジャパンは2009年6月、公取から排除命令を受けた。だが、見切りすると閉店させられる(契約を解除される)という恐れから、10年近く経つ今でも、見切りをしないオーナーがほとんどだ。映画「コンビニの秘密」によれば、全国で1%程度しか見切り販売をしていないという。

見切りすると、本部側は儲けが少なくなる反面、オーナーにとっては赤字回避の策となり得る。2018年、コンビニ11店舗分の損益計算書から見切りの有無で比べて税理士に分析してもらった結果、見切りするしないで年間400万以上もの違いが出るのは明らかだった。

もう一人のマンセーオーナー

西日本でも同じようなことがあった。一般向け、社会的課題の食品ロスに関する講演を依頼され、市民も含めて複数のコンビニオーナーも参加した。講演後、他のオーナーに、講演内容がコンビニに特化したものでないことに不服を唱えていたらしい。

その後、対面しての取材の際には、オブラートに包んだ話を聞かせてもらったので、よくわからなかった。

マンセーオーナーの特徴は、視野が狭いこと。自分しか見えていない。いいがかりをつける。何かに押さえつけられ、欲求不満がたまって、それをぶつけられそうな相手にぶつけているのだろう。

オーナーだけじゃない、「マンセーベンダー」の存在

「マンセー」は、オーナーだけじゃなかった。

「マンセーベンダー」にも取材した。

ここで言う「ベンダー(vendor)」とは、コンビニに弁当類などを納品する製造業者のことを指す。

対面で取材できたのも奇跡的だと思うが、とにかく、その人は、大手コンビニエンスストアや勤務先にバレることを異様なほど恐れていた。写真も録音も一切ダメ。バレたらただ事では済まない。

いい大人のその異常なまでの怖がり方から、大手コンビニ本部が、日頃この会社にどれほどのプレッシャーをかけているのだろうということをうかがい知らされた。

欠品はもちろんダメ。この会社にとって、大手コンビニは売り上げの多くを占める重要なお客様なので「言うがまま」ということだった。

ヒラメ社員と従順な羊

筆者は「マンセー」という言葉は知らなかったが、外資系企業にいたので「ヒラメ社員」という言い方は知っていた。「上ばかり見ている社員」という意味である。

ジョン・キム氏は、『媚びない人生』(ダイヤモンド社)で「従順な羊」という表現をしている。

実のところ、日本の企業で働く人々に対する私の印象は、これほどまでに「従順な羊」が多いのか、というものだった。もちろん、すべての組織を見たわけではない。しかし、多くの組織で、ほとんどの人は従順な羊だと感じた。

出典:ジョン・キム著『媚びない人生』(ダイヤモンド社)

「員数主義」の病を指摘する記事

あるコンビニオーナーが、この記事を紹介してくれた。

セブン「24時間営業」やめた店舗に非情通告で見える現場軽視のひずみ

さすが伝える世界でキャリアを磨いてきた著者だけあって、読めば読むほど引き込まれる面白さがあった。

セブンーイレブン・ジャパンが数合わせの「員数主義」の病に陥っている、という指摘も、なるほど、と思った。

ただ、複数のメーカーで20年近く勤めてきた筆者から見れば、員数主義におかされているのはセブンだけではない。セブンだけを指摘するのは気の毒な気がする。モノを売ろうとするメーカーも小売も、「対前年比で何%」という「永遠に右肩上がりの無理な目標」を立てさせられる、ありとあらゆる会社に「員数主義」は蔓延している。山のようにある。今に始まった話ではないし、ある特定の企業だけの話ではない。

売りの数字を作るための、期末の「押し込み営業」しかり。

福岡県のスーパーへ取材に行った時も、「海が時化(しけ)て魚が獲れない時でも、大手は、数合わせで買って行く」と指摘していた。チラシに載せちゃっているから、たとえ古くても不味くても、数さえ揃えばOK、なのだろう。

ノブレス・オブリージュ?

じゃあ、員数主義じゃなくて何の病にかかっているの?と問われたら、どう答えるのだろう。

一瞬「ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)」という言葉が頭に浮かんだ。権力を持つ者、位の高い者には、それにふさわしい責任と義務とが伴うものだといった趣旨だ。海外では、社会的地位の高い人は寄付行為など、社会貢献もするのが当然だ。だが、その言葉だと、あまりに気高(けだか)過ぎる。

「セブン」の看板をつけているのだから、本部も加盟店も同じ「仲間」なはず。なのに、本部とオーナー双方に取材すると、両者の間には深い溝がある。

公式サイトで謳っている「エコ物流」について複数のオーナーに聞いたら「何それ?知らない。本部に聞いてきて」と言われた。

2017年10月、本部に伺った際、「自治体に指定されており、法律に適合する、サービスのいい廃棄物業者を紹介し、オーナーがその中から選べるようにすること」といった趣旨の回答をされた。それって企業として当たり前のことでは?ことさらに「エコ物流」というキャッチコピーでうたう意味はあるのだろうか。実態に比べて「盛り過ぎ」では。 (2019年2月時点で公式サイトを見たら、エコ物流は、食べ物は除いてペットボトル回収に特化した話になっていた)

大手コンビニ加盟店のオーナーは、本部からすれば仲間でもなければ人ですらない

同じ看板をしょって仕事しているのだから、筆者から見れば「仲間」だと思う。でも仲間じゃない。『コンビニオーナーから悲鳴相次ぐ 「人権より契約」赤字でも、違約金でやめられず』といった報道を見ると、仲間どころか、人とも思っていないようだ。

群馬県のスーパー社長を取材したとき、コンビニのことを「地主と小作人」と評していた。

「あれ(コンビニ)は、地主と小作人って、昔、あったじゃないですか。あれの現代版だと思います。」

「もっと残酷です。契約がきちんとできているから、その通り、やんなきゃなんない。昔は地主と小作人でも、今年はコメがとれなかったから、いつも10俵なんだけど、今年は6俵でいいよ、とかって、地主さんがそういうふうに、臨機応変にやってくれるわけでしょう。とれないのにとっちゃって、干上がっちゃったらそれこそ万歳になっちゃうから、それも困ることなんで。そういう昔の方が、まだ現実的なところがあったんだ。ところがコンビニとなったら、もう細かいところまでびっしり決めて、『これ約束ですから』ってね。」

出典:「食料品は少量生産に戻るべき」安売りも広告もないスーパーまるおか イオンの隣でなぜ顧客が絶えないのか

多くの部外者が議論したファミマこども食堂、加盟店は報道されてから初めて知った、なぜなら「インサイダー取引になるから」

多くの人が議論していたファミリーマートのこども食堂の話も同様だ。

いろんな人がいろんなことを言っていた。でも、いざ始まったら誰がやるのかと問えば、加盟店オーナーとそこで働く人たちだろう。

『ファミマこども食堂「貧困対策ではなく、地域活性化」と本部 加盟店の負担を聞く』という記事を見たら、なんと、報道があってから、初めて加盟店は知ったというのだ。実際、現場でやる人が知らないのに、本部が「やります」と大々的に狼煙(のろし)を上げる。現場は誰一人知らない。これで「仲間」でなくてなんというのだろう?

記事に出ている酒井さんによれば、本部は「インサイダーに関わる」と言う理由で、ほとんどの重要案件は、金曜日の15時にメディアリリースを行うそうだ。その時点で、事実を把握しているのは統括部長クラス以上。その後、加盟店に報告されるのだという。現場でやる人が知らないで、どうして「やる」って勝手に公式発表できるのだろう?

本部にも心ある人はいるし、オーナーにも声を上げる人がいる

それでも、筆者は一縷の望みを抱いている。コンビニ本部にも心ある人がいるからだ。筆者が直接会った人にもいるし、他の関係者から聞いた話でも「内部でも、このままじゃいけない、と危機感を募らせている社員はいる」と聞いた。

オーナーたちも「マンセー」だけではない。声を上げている人もいる。

「食べ物を捨てるのはもったいないから見切りして販売する」という人たちもいる。

ジョン・キム氏は、従順な羊に対し、魂までは売らない「野良猫」と表現している。

野良猫というのは、自由で独立した存在である。飼い主はいるが、縛られない。餌はもらい、愛嬌も振りまくが、魂までは売らない。

(中略)

必要なのは、野良猫的な能力や感覚なのである。自分の意思を持たない、群れから離れたら自分では生きていけないような従順な羊は、その存在意義をすでに失っているのだ。

(中略)

社会や企業というのは、残酷なまでに大胆に、そして節操なくその規範や基準を変えるものである。そうした現実を、知っておいたほうがいい。だからこそ、あえて野良猫を意識しておいて欲しいのである。今のままでいるほうがリスクが小さいだろうと思い込まされている羊よりも、実はそれははるかにリスクが小さい取り組みになるのである。

出典:ジョン・キム著『媚びない人生』(ダイヤモンド社)

大手コンビニ本部「メディアが騒いだせいで恵方巻きの売り上げが2割減った」

ある大手コンビニ本部は、「メディアが騒いだおかげで(2019年の)恵方巻きの売り上げが2割減った」と嘆いていたそうである。

食べ物を捨てないで済んだ、環境に負荷をかけなくて済んだ、というのではなく、あくまで自社の売り上げだけしか見ていない。

ボクちゃん(自社)のことを褒めて欲しい「裸の王様」

自然災害時にコンビニが販売期限の切れた弁当を大量に廃棄せざるを得ず、オーナーが泣いている記事を書いたら、大手コンビニ本部は「一生懸命、自分たちが(支援食料を)運んだのに、そのことを書かずに捨てたことだけ書きやがって」という趣旨の苦情を言ったそうだ。

どれだけ稚拙な精神なのだろう。

自然災害時に食品関連企業として支援食を手配するなんて、ごく当たり前のことだ。他人に褒めてもらう必要などない。ああいう時に何より考えるべきは「現地の被災者が食べられるかどうか」だろう。消費期限が切れたせいで食べられなかったのならまだしも、その手前に設定してある「販売期限」が切れただけで貴重な食料が大量に捨てられることに対し、筆者は「非常時はただでさえ食べ物が不足するのだからその厳格なルールを緩和できないか」と提言したのだ。

コンビニに売り上げを依存する週刊誌は、他のことは暴露してもコンビニのことは批判しない。

マスメディアも大企業も、強者には「寄らば大樹の陰」とばかり、誰も何も言わない。

まさに「裸の王様」状態。

そして、それを支えるマンセーオーナーたち。

SDGs(持続可能な開発目標)(国連広報センターHPより)
SDGs(持続可能な開発目標)(国連広報センターHPより)

世界の先進国はSDGs(持続可能な開発目標)に向かって地球規模で考えている。

SDGsの精神は「だれ一人取り残さない」だ。

先進国だけ、自分の会社だけ良ければいい、ではない。

自分のことだけ考えていても可愛いのは乳幼児。

社会を変えるのは大衆ではない。個人なのである。その変革の起点に自分がなるよう、力をつけていくことである。

出典:ジョン・キム著『媚びない人生』(ダイヤモンド社)

消費者も売れ残り食品の処理費用を払わされている

われわれ消費者も他人事ではない。コンビニの売れ残り食品は、コンビニだけが廃棄コストを払う産業廃棄物(さんぱい)ではなく、われわれの納めた安くはない税金も投入され、家庭ごみと一緒に焼却処分される事業系一般廃棄物なのだから(東京都世田谷区の場合、事業者から出た事業系一般廃棄物1kgあたり55円の税金が投入されている)。

食べ物をバンバン捨てる企業は、そこで働くアルバイトも、食べ物をぞんざいに扱う。だからバイトテロが起こる傾向にある。

日本じゅうで命を奪う罪にみんなが加担している

筆者は無宗教だが、神さま・仏さまは、人を人として扱わない仕打ちも、金と引き換えに裸の王様に自分の魂を売り渡すマンセーの振る舞いも、天から見ていて、いつか判決を下すだろう、と思う。命の詰まっている食べ物を毎日無感情に大量に捨て続けることも、人が過労死するレベルまで働かせ続けることも、いわば殺人罪に相当するくらいの重罪だからだ。

注:「裸の王様」とはアンデルセンの童話

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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