ブラックホールが星の核を破壊して起きた新種の超新星爆発を初観測
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「星の核が破壊されて起きた新型超新星を初観測」というテーマで動画をお送りしていきます。
2021年9月2日とつい先日、カリフォルニア工科大学の研究チームが、これまでにないメカニズムで発生する、非常に珍しい特殊な超新星爆発を初めて観測することに成功したと発表しました。
この新型の超新星は恒星と、中性子星やブラックホールなどのコンパクト天体との連星系にて、なんとコンパクト天体が連星の恒星の核を破壊することで発生するんだそうです!
今回はそんな新発見の天体現象について解説していきます。
2017年の電波放出
上記の画像のように、Y字型に並んだ口径25mの巨大なパラボラアンテナ27基から成る、VLAと呼ばれる電波望遠鏡群は、2017年にVLASSと呼ばれる観測プロジェクトを行いました。
カリフォルニア工科大学の研究チームは、VLASSのデータから、過去の電波観測では写っていなかった非常に明るい電波源を発見し、その電波源をVT 1210+4956と名付けました。
その後、VLAとさらにハワイのケック天文台による追加観測を行い、その結果電波の発生源VT 1210+4956は地球から約4億8000万光年も彼方にある矮小銀河の周辺であることが判明しました。
さらに今から300年ほど前に電波の発生源にある恒星が、その周囲に自身を構成する大量のガスを何らかの原因で放出し、その後最近になって恒星が超新星爆発を起こした際に放出された高速のガスが、300年ほど前から放出していた周囲のガスに追いつき、衝突することで強力な電波を発生させた、という電波の発生メカニズムも突き止めました。
ですが周囲に放出されていたガスの想定される形状や、それが形成されるのに要した期間などが一般的にみられるものではなかったため、追加の検証を行うこととなりました。
2014年のX線放出
電波の発生メカニズムを突き止めたのち、さらに研究チームは過去に行ったX線による観測で得られたデータを分析しました。
すると電波放出があった3年前の2014年に、同じ場所から強力なX線が放出されていたことが判明したそうです。
X線は、例えば超新星爆発が起こったり、ブラックホールや中性子星などの超高密度のコンパクト天体が、光速近い速度でジェットのように物質を放出する際など、高エネルギー現象が起こらない限り発生しません。
超新星で放たれたガスがそれ以前に放出されたガスと衝突し電波が放たれる現象も、ブラックホールや中性子星などのコンパクト天体がジェットを放ってX線が放たれる現象も、どちらも非常に珍しい現象です。
そしてこれまでにこれらの珍しい現象が関連付けられたことはなく、当初はどのようなメカニズムで同じ場所から立て続けにこれらの現象が発生したのかが理解されませんでした。
BHが星の核を破壊!?
その後も観測事実を分析し続けた結果、研究チームは可能性が高く納得ができる一つの説明を考案しました。
冒頭で述べた、コンパクト天体が連星の恒星の核を破壊したというものです!順を追って見ていきましょう。
X線と電波の発生源となったのは、大質量の恒星の寿命が尽き、超新星爆発を起こした後に残る中性子星やブラックホールといったコンパクト天体と、寿命の末期段階に差し掛かり膨張した恒星との連星系でした。
まずコンパクト天体と恒星は徐々に接近していて、すでに非常に近い位置を公転し合っていました。
そして今から300年ほど前の1700年代にはコンパクト天体の本体が星の外層部に到達し、恒星の大気を吸い上げてガスを宇宙空間に放出するようになります。
その結果、渦を巻くように連星系の周囲にドーナツ型のガス円盤が形成されることとなります。
徐々にコンパクト天体が星の内部に侵入していきながらも、この過程はX線が観測される2014年まで続いたとされています。
そして2014年には、ついにコンパクト天体が星の核にまで到達し、コンパクト天体の周囲にガス円盤が形成されます。
するとコンパクト天体の両極の方向へと亜光速のジェットを放出します。
このジェットは恒星を突き破って宇宙空間へと放たれました。
これがX線を発生させた原因となる現象と考えられています。
コンパクト天体が星の核に到達した瞬間、核は破壊されてしまい、核融合反応が停止します。
恒星は核融合反応が止まると自身の重力による圧縮に耐えられなくなり、超新星爆発を引き起こします。
そして超新星爆発により高速で吹き飛ばされた星を構成していたガスが、以前にコンパクト天体の侵入で周囲に形成されていたドーナツ型のガス円盤に追いついて衝突し、2017年に観測された電波を放った、という流れです。
電波源VT 1210+4956で、コンパクト天体の侵入で超新星爆発を無理やり引き起こされた末期の恒星は、このようなプロセスを経ることがなくても、一般的な星の末期の超新星爆発を引き起こすはずでした。
ですがコンパクト天体の侵入により、超新星爆発をより早い段階で起こしたことになります。
実は以前から、一般的な星の末期に至る前に、外部からコンパクト天体が侵入することで星の核が破壊され、無理やり超新星爆発を引き起こされるという特殊な過程が存在している可能性は示されていました。
今回電波源VT 1210+4956の詳細な観測を行うことで、初めてそのような特殊なプロセスによる超新星が発生した現場を目撃できた可能性があります。
今後さらにこのような現象が観測されていけば、より詳細なプロセスについて理解されるかもしれません。
これからの観測に期待がかかります!