長さ2300万光年で観測史上最大の構造!超巨大ジェット「ポルピュリオン」を新発見
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「宇宙最大の単一天体を新発見」というテーマで解説していきます。
カリフォルニア工科大学などの研究チームは、理論限界を超えるほど巨大なブラックホールジェットを発見し、その研究成果を2024年9月にnatureの論文で公表しました。
そのジェットは単一の天体から放射された構造として、既知の中で最大のものとなります。
さらに今回のジェットの発見から、大昔に存在していた巨大なジェットが宇宙の性質に大きな影響を与えた可能性も示唆されています。
●これまでの最大の銀河と理論限界
2022年2月、オランダのライデン大学などの研究チームは、地球から実に30億光年も彼方で、直径が最低でも1600万光年ある、発見当時で観測史上最大の構造を持つ銀河を発見したと発表しました。
こちらの画像はその銀河が放つ電波を、LOFARと呼ばれる電波望遠鏡で撮影した実写画像ですが、中心にある銀河本体の両端に、とてつもなく巨大な何かが写りこんでいます。
これは銀河中心にあるブラックホールが放出した、ジェットの残骸です。
ブラックホールは周囲にある大量の物質を重力で捕らえ、自身の周囲を公転させて降着円盤を形成したのち飲み込んでしまいますが、その一部はブラックホールに飲まれず、亜光速のジェットとして宇宙空間へと放たれています。
そんなジェットとして吹き飛ばされた物質が電波を放ち、その電波を地球から観測できている、というわけです。
この天体は30億光年も彼方にあるにもかかわらず、地球からの見た目の大きさは、なんと満月にも匹敵します。
あまりに巨大であるため、研究者たちはこの巨大構造を、ギリシャ神話に登場する巨人の名から「アルキオネウス」と命名しています。
遠くの天体を観測するとき、地球からだと一つの視点からしか観測できないため、その天体の奥行きを知ることは困難です。
アルキオネウスも地球からの見た目の大きさが1600万光年というだけで、正確な大きさについてはわかっていません。
なお、アルキオネウスの中心にあるブラックホールの質量は、太陽の4億倍あると考えられています。
天の川銀河中心部にある、太陽の430万倍の質量を持った超大質量ブラックホールいて座A*と比べると100倍ほど大きいです。
○ジェットの理論上の限界
ジェットのサイズには理論上の限界があると考えられています。
それは超大質量ブラックホールに落ちる物質の量が非常に豊富な状態が、極めて長期にわたって安定し続けることが困難であるためです。
また、ジェットを放つブラックホールが属する銀河の周囲には、膨大な銀河間物質が存在しており、それらの存在がジェットの成長を妨げるためです。
このような理由から、アルキオネウス以上のサイズのジェットが存在することは理論的に不可能だと考えられていました。
●記録破りの巨大天体を新発見
カリフォルニア工科大学などの研究チームは、理論限界を超えるほど巨大なブラックホールジェットを発見し、その研究成果を2024年9月にnatureの論文で公表しました。
この超巨大ジェットはアルキオネウスと同様に、ギリシャ神話に登場する巨人にちなんで「ポルピュリオン」と命名されました。
○ポルピュリオンの性質
こちらはポルピュリオンをLOFAR電波望遠鏡で撮影した実写の画像ですが、ジェットと、それを放ったブラックホールが属する銀河は、現代の地球から70億年以上前の姿が見えています。
つまりこれらの天体は、光が現在の地球に届くまでに70億年以上かかるほど遠くにあるということです。
このジェットの長さは2300万光年で、巨大な銀河である天の川銀河の直径の実に140倍です。
これは単一の天体や、それから放たれた構造としては、アルキオネウスを抑えて「観測史上最大」といえます。
アルキオネウスのサイズが当時の近傍のボイドの半径の30%程度であるのに対し、ポルピュリオンは当時の近傍のボイドの半径の約66%のサイズであり、まさに宇宙の大規模構造スケールの単一天体です。
ポルピュリオンのジェットは太陽が放出するエネルギーの実に2兆倍以上のエネルギーを放っています。
ポルピュリオンを形成するブラックホールが属する銀河の星々全体が放つ総エネルギーよりも大きいのです。
中心のブラックホールは、ジェットを放ち始める直前から既に太陽の10億倍の質量を持っており、ジェットを放つ間にさらに太陽10億個分も質量を増大させたと考えられています。
○新事実
今回のジェットの発見から、一般的にブラックホールのジェットは宇宙の大規模構造に対し、従来の予想よりも大きな影響を与えている可能性が示唆されました。
これまでに数多くのジェットが観測されていますが、巨大なジェットはより現代に近い宇宙で観測されていました。
しかしポルピュリオンのジェットが見えている70億年前の宇宙は、現代より宇宙は小さく、宇宙の大規模構造も小さかったのです。
ボイドを取り巻く銀河の高密度領域(銀河フィラメント)も、ジェットから比較的近くに存在していたことになります。
そのような環境に存在するこれほど巨大なジェットは、銀河フィラメントに存在する銀河間物質により大きな影響を与えていた可能性があります。
より古い時代から巨大なジェットが存在しており、このようなジェットが宇宙のあらゆる時期で普遍的な現象だった可能性も示唆されています。
ブラックホールのジェットが、宇宙の様々な性質に極めて大きな影響を与えているかもしれないのです。
○残された謎について
ポルピュリオンについては、なぜここまで巨大で直線的なジェットが形成されているのかよくわかっていないようです。
このようなジェットの形状から、中心のブラックホールは20億年間にもわたって安定してジェットを放射していたことが推測できます。
これほど長期にわたってブラックホールに対して大量の物質が降り注ぐような状態が継続し、安定してジェットを放射し続けられた理由については、よくわかっていないことが多いです。
今後さらに多くのジェットを観測することでより深い理解へと繋がることが期待されています。