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大学女子サッカーが熱い!帝京平成大が初の決勝進出、日体大は3連覇ならず、王者から挑戦者へ

松原渓スポーツジャーナリスト
インカレは白熱した戦いが繰り広げられている(写真:keimatsubara)

【新・女王の誕生へ】

 全日本高等学校女子サッカー選手権大会、全日本U-18女子サッカー選手権大会、全日本大学女子サッカー選手権大会など、各カテゴリーの全国大会が佳境を迎えている。

 大学女子サッカーの集大成となる、全日本大学女子サッカー選手権大会(通称:インカレ)は、1回戦から準々決勝までを勝ち上がった四大学が1月4日、味の素フィールド西が丘に集結した。

 直近の5大会は、早稲田大学と日本体育大学がタイトルを分け合ってきたが、今年は勢力図が変化した。関東予選王者の早稲田大学が2回戦でまさかの敗戦を喫し、その早稲田を破った大東文化大学が準決勝に進出。また、静岡産業大学が初のベスト4入りを果たした。そして、2-1で大東文化大を破った静岡産業大学が初の決勝に駒を進めている。

 一方、逆の山では大会2連覇中の日本体育大学と、3大会連続ベスト4入りを果たした帝京平成大学が対戦。3大会連続、準決勝で同カードが実現しており、過去2大会は日体大が勝利を収めている。今年も日体大と同じ山に入ることがわかった時、帝京平成大の矢野喬子監督は、「日体大に勝たなければ日本一には挑戦できない」ことを宿命のように感じたという。

 インカレの試合は毎年、スタンドで学生たちのバラエティ豊かな応援歌が吹奏楽団の演奏とともに賑やかに展開されるが、今大会はコロナ禍で、原則無観客開催となっている。この準決勝では関係者と選手たちの保護者が観戦を許され、約7000人収容の西が丘のスタンドは、時折聞こえてくる拍手の他は静かな緊張感に包まれていた。その中で、両陣営の声がスタジアム中に響きわたる。チームが1年間積み上げてきたもの、そして最後になるかもしれない目の前の試合に懸ける強い想いが、ピッチを飛び交う「声」に凝縮されていた。

競り合う帝京平成の小原蘭菜(中央)と沖土居咲希(右)
競り合う帝京平成の小原蘭菜(中央)と沖土居咲希(右)

「(1対1で)負けるな、やりきれ!」「もっとゴールに向かおう!」「顔を上げて!」「(試合を)楽しんで!」

 日体大と帝京平成大の試合は前半、互いに裏を狙って蹴り合うシーンが多く、大味な展開になった。だが、後半は帝京平成大が鋭い出足の守備で主導権を握った。矢野監督は、これまで同大会で勝てなかった日体大に対して、プレッシャーを感じて受け身になっていた選手たちに、ハーフタイムに「勝負から逃げなくていい、もっとやれるはずだよ」と、背中を押したという。

 そして、試合はラスト15分で一気に動いた。帝京平成大は76分に右クロスをMF河野有希が逆サイドネットに沈め、80分にはエースのFW今田紗良が、自ら得たPKを決めて突き放した。

 日体大は終盤、急造の3バックで攻撃の枚数を厚くし、セットプレーでは177cmのセンターバックDF関口真衣の高さを武器になんとかゴールをこじ開けようと奮闘するが、最後まで相手の堅守は崩れることはなかった。そして、帝京平成大にとって初の決勝進出を告げる笛が、澄んだ空に響き渡った。

「力を持っていても、相手が日体大というプレッシャーを感じた瞬間にパワーを出せなくなる。それは、帝京平成大に限らず今の大学生にすごく多いと感じています。そこから解放された瞬間に選手たちは生き生きしたし、成長を感じました」

 矢野監督は試合後、すっきりとした表情で語った。矢野監督は、なでしこリーグの浦和レッズレディースで活躍したディフェンダーで、2011年にW杯で優勝したなでしこジャパンのOGでもある。現在は指導者を続けながら、テレビ中継の際の女子サッカー解説者としても知られている。

矢野喬子監督
矢野喬子監督

【インカレ女王の苦悩】

 苦手意識やプレッシャーという“目に見えない敵”に打ち勝って「3度目の正直」を叶えた帝京平成大に対し、3連覇が懸かっていた日体大は、また違うプレッシャーと向き合っていたのだろう。

 日体大は、学生リーグの関東大学女子サッカーリーグ戦(通称:関カレ)の他に、学生選手と日体大OGの社会人選手で構成される「日体大FIELDS横浜(日体大F)」というチームを持っており、日体大Fはなでしこリーグ2部に参加している。

 選手にとって、学生リーグと並行してプロや代表選手もいるトップリーグで戦えることは貴重な経験だ。その反面、両リーグをこなすハードスケジュールの中で「二兎を追う」難しさもある。今季は、コロナ禍で両リーグが佳境を迎える時期が重なった。

 同校男子サッカー部OBで、今季から指揮を執る萩原直斗監督は、主力メンバーのやりくりに苦労していた印象を受ける。2部優勝を目指したなでしこリーグでは、10チーム中9位で終了。関カレは10チーム中6位だった。関カレはインカレの関東地区予選を兼ねており、一時は7位までに与えられる出場権獲得さえ危ぶまれたが、最後は意地でインカレへのチケットを掴み取った。

 そして今大会では、準決勝までの3試合で相手の3倍近いシュートを放ち、大学女王の底力を示してきた。

目原莉奈
目原莉奈

 1回戦で仙台大学(東北1位)に3-1、2回戦は筑波大学(関東2位)に2-0で勝利。準々決勝では新潟医療福祉大学(北信越1位)とPK戦にもつれ込む激闘を制した。エースのFW目原莉奈が見事なバイシクルシュートを決め、MF沖土居咲希がアグレッシブに仕掛けてチームを勢いづけ、PK戦ではGK福田まいが3連続セーブを見せるなど、数少ない4年生たちが見せ場を作った。

 リハビリからの復帰を目指していたMF茨木美都葉は復帰こそ叶わなかったが、ベンチからチームを支え、これまで何度も大事な試合で点を決めてきたFW李誠雅(リ・ソンア)も、インカレ初戦で復帰し、切り札としてピッチに立ち続けた。だが、この準決勝は硬さが出てしまい、「自分たちから仕掛けて意図的にボールを奪うことができなかったこと」を、萩原監督は敗因の一つに挙げた。

「攻守に主導権を持ってサッカーをしたい」。社会人選手もいる日体大Fと日体大の両チームについて、シーズン前に新しいチームのヴィジョンを熱く語っていた指揮官は、1年を通したチャレンジの成果について、こう総括している。

「なでしこリーグを戦っていく上で大事だった球際や切り替えや連続性は1年間、やり続けてきました。そこは逞しくなったと思うし、(この試合でも)そういうプレーが見られたことに、彼女たちの成長を感じました。なでしこリーグは経験する場ではなくて、勝つためのステージです。学年に関係なく、スタメンは試合に出るに値する(実力のある)選手を1年間起用しました。他の大学ではできないようなステージで戦った経験は間違いなく、彼女たちの財産になったと思います」

萩原直斗監督(右)
萩原直斗監督(右)

 今大会のキャプテンマークは、4年生で回したという。「一人一人クセが強くて、個性が立っている選手たちでしたが、こんなに難しいシーズンを先頭で引っ張ってきてくれました」と、感謝を込めた。

【卒業、そして新たな道へ】

「試合を通してセカンドボールを拾えなかったことで流れが掴めず、リスク管理も甘い部分がありました。3連覇をするために頑張ってきたので、ここで負けたことは悔しいです」

 取材エリアに立ち、そう語ったのは、最後の試合でキャプテンマークを巻いたGK福田だ。悄然とした表情だったが、自分たちの良さが出せずに内容で負けたことを受け入れていた。福田は通る声でコーチングを響かせ、1年生の頃からピッチの上では年齢関係なく自分を表現している姿が印象的だった。今年のチームも、そうしたオープンな環境作りを心がけていたという。

「(緩んだ雰囲気を)締めたい時や、言うべき時は言いますが、普段、4年生はどうしたらみんなが楽しくサッカーをできるか考えて行動していました」

 今年の4年生は、どのような進路を選ぶのだろうか。日体大の場合、これまでは日体大Fに社会人選手として残る、なでしこリーグの他クラブに(アマチュアとして)移籍する、もしくは引退、という3つのケースがあった。それに加えて、今年は新たに「プロ」という選択肢が加わる。

 今秋に、日本女子プロサッカーリーグ、WEリーグがスタートする。サッカーを続ける選手にとっては魅力的な選択肢だろう。しかし、WEリーグ参入チーム決定と、なでしこリーグのチーム再編成が年末になったため、選手も動くに動けず、進路決定にも影響している。それは日体大に限らず、すべての大学生選手たちが同じ状況に置かれていた。

「進路が決まるのが例年よりもみんな遅くて、インカレが始まっても決まらない状況だったので焦りもありました。そこは割り切って、インカレでアピールしてやっていくしかないと思っていました」

 福田はそう振り返った。双子の姉のMF福田ゆいはボランチで、今季からマイナビベガルタ仙台レディース(2月からマイナビ仙台レディースとして始動)でプレーしており、来季はプロ契約となる。妹の福田まいの進路はまだ発表されていない。

 サッカー界には、様々な“双子のストーリー”がある。福田姉妹も互いのよき理解者であり、ライバルでもある。ともに静岡の強豪、藤枝順心高校を卒業後、2人の進路は分かれた。姉のゆいは、なでしこリーグ1部のINAC神戸レオネッサでサッカーに専念し、1年目の2017年に新人賞に輝いた。妹のまいは、日体大Fで学業とサッカーを両立させてきた。異なる環境で切磋琢磨し、2018年のU-20女子W杯では、ともに優勝メンバーに名を連ねている。

福田まい
福田まい

「1年生から試合に出させてもらいましたが、双子の姉が(強豪の)INACで出ていたので、悔しさもありました。その中で自分の課題と向き合い、成長できたかなと思います。今後は学生を卒業して、サッカー選手としてどこまで通用するかが楽しみです」

 福田まいは、選手としての飛躍を誓っている。

 3年ぶりに無冠に終わった日体大だが、今季の収穫は、伸びしろ豊かな1、2年生が台頭してきたことだろう。年代別代表経験者も多く、2年生のMF渡邊真衣とDF毛利美佑、1年生のDF富岡千宙、MF森田美紗希、MF高原天音など、日体大の主力として定着した選手もいる。

 来季、日体大Fはリーグの再編成により、なでしこリーグ1部で戦う。これまでにも何度も見せてきた挑戦者としての魅力的な戦いを、来季も期待したい。

 そして、注目のインカレ決勝戦、帝京平成大学対静岡産業大学の試合は、1月6日、13時からインターネットでライブ配信される。

※文中の写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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