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風車撤去を求めて国会前で封鎖・座り込み 先住民サーミの人権侵害から2年

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
カール・ヨハン通りを封鎖する若者たち 筆者撮影

10月11日はノルウェー政府が先住民サーミに対して人権侵害をしているとノルウェー最高裁判所が下して2年目になる。フォーセン地域における風力発電所の建設許可は、サーミ人の生業であるトナカイ放牧を困難にさせるからだ。しかし、最高裁判所は「すでに設置された風車をどうするべきか」までは進言しなかったために、ノルウェー政府は「対話で解決したい」としながら、事態は進展せず、風車は稼働し続けている。

サーミ人はかつてノルウェー政府の同化政策によって、サーミ人としての誇りや言語を奪われた重い歴史をもつ。そのため、「緑の植民地主義」(グリーン・コロニアリズム)によって、さらに土地を奪われることを拒んでいる。トナカイ放牧はサーミ人にとってアイデンティティでもあり文化的遺産でもあるために、土地を追われることは、いまでも植民地主義が続いていることを意味する。

風車撤去を求めて抗議活動をリードしているのは、ノルウェー人とサーミ人の若い世代、環境団体などによるいくつものコミュニティだ。

2年目に突入したこの日は大規模な抗議活動が行われることが宣言されていた。この日、朝7時から首都の中心地にあるカール・ヨハン通りを封鎖し、通りに面する国会前広場で座り込みや違法行為である「市民的不服従」が始まった。

抗議活動は数日間続くと見込まれ、参加者は荷物を持って国会前に置いた 筆者撮影
抗議活動は数日間続くと見込まれ、参加者は荷物を持って国会前に置いた 筆者撮影

ノルウェー国旗がなびく国会前広場にはサーミの国旗がかけられる 筆者撮影
ノルウェー国旗がなびく国会前広場にはサーミの国旗がかけられる 筆者撮影

サーミ人の移動式住居ラヴヴォがカール・ヨハン通りを埋め尽くした 筆者撮影
サーミ人の移動式住居ラヴヴォがカール・ヨハン通りを埋め尽くした 筆者撮影

日本の抗議活動との大きな違いは、参加者の圧倒的多数が若者であるということだ。試験を諦めて抗議活動に参加しにきた学生もいる。それほど重要な抗議活動なのだ 筆者撮影
日本の抗議活動との大きな違いは、参加者の圧倒的多数が若者であるということだ。試験を諦めて抗議活動に参加しにきた学生もいる。それほど重要な抗議活動なのだ 筆者撮影

すでに1か月、国会前広場で座り込み・寝泊りで抗議をしていたサーミ人はひとりだけだったが、この日は北欧各地から仲間がかけつけた 筆者撮影
すでに1か月、国会前広場で座り込み・寝泊りで抗議をしていたサーミ人はひとりだけだったが、この日は北欧各地から仲間がかけつけた 筆者撮影

若者たちは座り込み、道路を封鎖している間はSNSで抗議運動を拡散したり、読書をしたりと、夜までい続けた 筆者撮影
若者たちは座り込み、道路を封鎖している間はSNSで抗議運動を拡散したり、読書をしたりと、夜までい続けた 筆者撮影

「判決は下った。規則を守れ」とサーミの国旗の色で抗議メッセージが書かれた布 筆者撮影
「判決は下った。規則を守れ」とサーミの国旗の色で抗議メッセージが書かれた布 筆者撮影

フォーセン地域でトナカイ放牧を営む農民も駆け付け、抗議活動をする若者たちに感謝した。政府との交渉は面会が続くばかりで進展がないと報告 筆者撮影
フォーセン地域でトナカイ放牧を営む農民も駆け付け、抗議活動をする若者たちに感謝した。政府との交渉は面会が続くばかりで進展がないと報告 筆者撮影

長い時間の座り込みや寝泊りとなるため、トナカイの毛皮の敷物を持って駆け付ける人が多い 筆者撮影
長い時間の座り込みや寝泊りとなるため、トナカイの毛皮の敷物を持って駆け付ける人が多い 筆者撮影

サーミ人の多くは民族衣装で参加した 筆者撮影
サーミ人の多くは民族衣装で参加した 筆者撮影

警察は常に現場にいたが、通りから抗議活動者たちが撤去されることはなかった。オスロ中心地はカーフリー政策で車の交通量がもともと少なく、警察が動くほど問題とは見なされなかったからだ 筆者撮影
警察は常に現場にいたが、通りから抗議活動者たちが撤去されることはなかった。オスロ中心地はカーフリー政策で車の交通量がもともと少なく、警察が動くほど問題とは見なされなかったからだ 筆者撮影

数日間の座り込みとなるので、サーミ語のクラスなど様々なアクティビティが行われた。一部の参加者は市民的不服従で警察に運ばれて連行される際のための練習をしていた 筆者撮影
数日間の座り込みとなるので、サーミ語のクラスなど様々なアクティビティが行われた。一部の参加者は市民的不服従で警察に運ばれて連行される際のための練習をしていた 筆者撮影

国会前地面に書かれたメッセージは「政府は法を破っている」 筆者撮影
国会前地面に書かれたメッセージは「政府は法を破っている」 筆者撮影

「先住民の権利は選択可能なものではない」 筆者撮影
「先住民の権利は選択可能なものではない」 筆者撮影

夕方になると夜の寝泊まりのために大型ラヴヴォの設置が始まった 筆者撮影
夕方になると夜の寝泊まりのために大型ラヴヴォの設置が始まった 筆者撮影

国会前が大型テントで埋め尽くされるという異様な光景に 筆者撮影
国会前が大型テントで埋め尽くされるという異様な光景に 筆者撮影

夜は参加者を応援するためのコンサートが開催予定だったが、このあと事態は急展開を迎えた。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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