社長、どうしても通勤しなくちゃダメですか!?~新型肺炎騒ぎがなくても、通勤電車は限界
・新型肺炎の感染の拡大が
新型肺炎(COVID-19)の拡大が止まらない。ほかのインフルエンザとの比較や致死率のことなど、様々な議論が盛んに行われている。多くの人にとっては、感染することは避けたいし、できるだけそうした危険性があるところには近づきたくないというのが本音だろう。
多くの人たちが懸念するのは、大都市圏での通勤電車だ。全く知らない人たちに至近距離まで近づき、互いの息が直接かかるところに立っていなければならない。今では、これまでの苦痛と不快感だけではなく、新型肺炎感染の恐怖も感じなくてはいけなくなった。
・「痛」勤電車は相変わらず・・・
「複線化とか、新線の開通とかで、ましになったとは言うが、事故やトラブルでの遅延も多く、いったん遅れると、乗り切れないくらいの満員になる。」東京郊外から都心へ私鉄を使って通勤する40代の会社員の男性は、そう話す。
国土交通省が発表した2018年度の混雑率によると、目標混雑率180%を超えている路線は11路線。混雑率180%と言うのは「体が触れ合うが、新聞は読める」程度。しかし、実感としては「よほど無茶をしない限り、新聞など読めない」だろう。200%では、「体が触れ合い、相当な圧迫感がある。しかし、週刊誌なら何とか読める」程度だが、ここまでくれば体を動かすことも難しい状態だ。通勤電車ではなく、「痛」勤電車と呼ばれる状態には変わらない。
三大都市圏主要区間の平均混雑率は、東京圏が163%、大阪圏が126%、名古屋圏が126%だ。しかし、名古屋圏でも「JR中央線などは、朝のラッシュ時は途中駅からは乗り切れないくらいの時が少なくない」と、名古屋市の不動産業勤務の30代の女性は話す。
・混雑率は「通常運転の時」・・ほぼ毎日遅れてくる電車
東京圏が163%、大阪圏が126%、名古屋圏が132%で、「かつてよりは改善が進んで、新聞や雑誌が読めるほどだ」と言われても、実感が無い人の方が多いだろう。そして、これはあくまで通常時だ。
「時間通りに動いている日の方が少ないんじゃないか。もともと利用客が多いので、少しでも遅れると、とんでもない状況になる。」都心への通勤に毎朝、JR線を利用する30代の公務員は、苦笑する。
国土交通省が2月10日に発表した1ヶ月(平日20日間)当たりの遅延証明書発行日数状況、つまり20日間に列車の遅れが何日起こっているかを見ると、こうした感想が現実だということが判る。
20日間に何らかの理由で遅延した日数が、東京メトロの千代田線が19.8日とワースト1位。次いで、中央・総武線各駅停車(三鷹~千葉)と中央快速線・中央本線(東京~甲府)が19.0日、小田急・小田急線が18.8日と、首都圏の多くの路線で「ほぼ毎日、遅れている」と言っても過言ではない。
・東京オリンピックの時には、都内企業の従業員の1割がテレワークが目標
政府は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会期間を含む2020年7月20日から9月6日の期間にテレワークの実施を企業や団体に呼び掛けている。実施目標としては、約3000団体以上の参加、東京都内の企業には、従業員の1割がテレワークを行うこととしている。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会期間中の東京都内の公共交通機関の利用客は、通常の1割以上増加だと見込まれている。そのため、混乱を避けるために、企業において従業員の在宅勤務、テレワークを促進してほしいというのが政府の要望だ。
・新型肺炎の拡大で通勤ラッシュを避ける動きも
日本でも、株式会社オトバンクのように「通勤ラッシュ時(午前7時~午前10時)において全従業員が電車通勤を回避」、「不要な出社を控え、基本的に在宅勤務を実施」をいち早く実施し、新型肺炎の感染拡大によって当面、それらを継続すると発表する企業もでてきている。また、株式会社パソナグループも、ラッシュアワーを避け、早朝・10・11時出社等を認める「オフピーク通勤制度」の新設、50代以上の方、持病のある方、妊娠中の社員などの「在宅勤務」を推奨する「プライオリティ制度」、派遣先・委託元企業が在宅勤務を社員に実施する場合、派遣スタッフ・受託従事社員に在宅勤務の実施を働きかける「派遣先・委託元企業への在宅勤務の要請」などを2月末まで実施すると発表した。
このように新型肺炎の感染拡大を避けるために、ラッシュ時の通勤を避け、できるかぎり在宅勤務を行うようにする動きが複数の企業で出てきている。
・在宅勤務、テレワーク導入。今、新型肺炎が、さらに切実な理由を付加している
シンガポールでは、新型肺炎の感染が拡大し、2月7日に感染症警戒レベル(DORSCON)を4段階中上から2番目に高いオレンジへ引き上げた。そして、「大規模イベント開催に関する注意事項」、「職場での体温測定・在宅勤務等」、「学校・幼稚園等の予防強化措置」などを追加予防措置として実施した。政府の企業への要望も厳格になっており、体温検査を受けないと多くのオフィスや展示会場などに入ることができなくなった。
日本では、横浜沖に停泊しているクルーズ船の問題ばかりがクローズアップされているが、現実には新型肺炎の感染は、シンガポールなど諸外国同様、すぐ身近に近づいている。特に、ラッシュ時の混雑する通勤電車への乗車に対する懸念を持つ人は多い。
インターネットの普及が進み、会社に行かなくともできる仕事が増えている。働き方改革、東京オリンピックの混雑回避と、理由は異なれど、在宅勤務、テレワーク導入の機運が出てきた。そして、今、新型肺炎が、さらに切実な理由を付加している。
・社長、どうしても通勤しなくちゃダメですか!?
帝国データバンクが2019年末に実施した「働き方改革に対する企業の取り組み状況や見解について調査」によれば、働き方改革に「取り組んでいる」企業は60.4%に及び、そのうち、今後の取り組みの第一位として「サテライトオフィスやテレワークの導入」が23.6%となっている。前向きに考えている企業も少なくない。
「経営者サイドより、仕事はオフィスに来てしなくてはいけないという発想から抜けきれない中間管理職が多いのが問題だ」(都内の中小企業経営者)や、「最初からうちは在宅勤務に合う業務が無いという発想から始まっている」(流通系企業に勤務する20代の社員)と言った意見もある。一方で、「今回の新型肺炎を巡っての対応の差が、今後、求人する際に選ばれる企業になるかならないかの選択肢になりうる」(都内の人材派遣会社社員)と言った意見もある。今回の新型肺炎のリスク回避だけではなく、すでに震災や台風、停電など緊急事態下での事業継続体制のためにも、在宅勤務、テレワーク導入は重要視されている。さらに在宅勤務、テレワークの進展は、東京一極集中を緩和し、地方での居住と勤務を拡大させる可能性も大きい。
少なくとも新型肺炎対策は、猶予がない。政府の対策を待っているだけでは間に合わない。従業員と社業を守り、「災い転じて福となす」ためには、経営者や経営幹部の発想の転換と合理的な決断が求められている。
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☆資料
・国土交通省「三大都市圏で輸送人員は微増、東京圏混雑率は横ばい~都市鉄道の混雑率調査結果を公表~」(PDF) 2019年7月