少子化問題はなぜこれまで解決されてこなかったのか?
少子化は予想された未来
「従来とは次元の異なる少子化対策を実現したい」
岸田文雄首相は1月23日の施政方針演説でこう訴えた。
「異次元」から「次元の異なる」に表現を変えた理由はよくわからないが、日本の将来、若い世代にとって重要な課題である「少子化」の問題に真正面から向き合おうとしていることは素直に評価したい。
具体的にどのような施策が必要かについては、改めて書きたいと思うが、その前に、なぜこれまで少子化問題に真正面から向き合ってこなかったのか、問わなければならない。
不確実性の高い経済成長などとは異なり、コロナ禍で多少の加速はあったものの、少子化は確実性の高い「予想された未来」であり、目の前の課題にしか向き合えない、日本政治の構造的欠陥を表しているからである。
なぜ長期目線に立った意思決定ができないのか。
どうすればよくなるのだろうか。
結論から言えば、これらの取り組みが必要である。
・若者や女性を意思決定の場に参画させること
・科学的な意思決定をすること
・選挙制度を変えること
若者や女性が不在の意思決定
『検討に当たって、何よりも優先されるべきは、当事者の声です。まずは、私自身、全国各地で、こども・子育ての「当事者」である、お父さん、お母さん、子育てサービスの現場の方、若い世代の方々の意見を徹底的にお伺いするところから始めます。年齢・性別を問わず、皆が参加する、従来とは次元の異なる少子化対策を実現したいと思います。』
こども・子育て政策の検討に向けて、岸田首相はこのように発言した。
しかし、若い世代からすれば、理由は明らかである。
賃金は上がらない一方、社会保険料は上がり、可処分所得は下がる一方。
非正規雇用は増え、企業の福利厚生も減少傾向にある。
大学の授業料は上がり、受験競争が異常に過熱しており、中学受験など教育費用はかかる一方。
男女間の賃金格差は大きいままで、男性の家庭進出もまだまだな状況。
選択的夫婦別姓や事実婚、同性婚など、多様な価値観も認められない。
むしろ、これで少子化が止まる方がおかしい。
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しかし、政府は、今さら、ヒアリングから開始するという。
逆に言えば、普段からヒアリングをしてきていない、周りに若い世代がいない、ということだ。
専門性が高いテーマや当事者の少ないテーマならまだしも、普段から少しでも若い世代と話す機会があれば、若い世代の多くが当事者である少子化という課題が、容易に想像できているはずである。
こうした若者が不在の政治現場を変えるためには、まず被選挙権年齢を引き下げ、若者の出馬のハードルを下げること、若者も積極的に自分たちのコミュニティから候補者を擁立し、自分たちの「代表」を議会に送り込む意識が重要となる。
さらに、普段の意思決定の場に若者を巻き込むために、ユース党(学生部)の活性化も欠かせない。
被選挙権年齢の引き下げ
被選挙権年齢については、これまでたびたび記事にしているため、詳細は控えるが、いまだ日本は25歳もしくは30歳以上しか出馬できず、当事者不在の議論になりがちである。
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若者を代表する候補者の擁立
一方で、単に「若い」候補者が出馬したからといって、それを支えている支援者が高齢世代ばかりであれば、若者を代表しているとは言えない。
あくまで若い世代の声を受けて、若者政策の実現にコミットする政治家を増やすことが重要である。
逆に、米大統領選で、民主党の選挙戦に出馬していたバーニー・サンダース上院議員のように、高齢であっても、支援者に若者が多い政治家の方がよっぽど若者を代表していると言える。
このような動きを活発にしていくためには、従来のように単に投票を呼びかけるのではなく、自分たちの代表として議会に送り込みたい人への支援を呼びかけることが重要である。
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日本若者協議会では、その一環として、今年4月に行われる統一地方選に向けて、若者政策の協定を結んだ、「若者のミカタ」立候補者の準備を進めている。
ユース党(学生部)の活性化
上記2つについては、選挙の機会を待たなければならないが、各政党がすぐにできることがある。
それが、ユース党(学生部)の活性化である。
欧米では、若者向けの選挙運動を若者が担っているだけでなく、普段から政策の意思決定にも参加している。
たとえば、筆者が2022年9月に視察に訪れたスウェーデンでは、各政党の政策委員会(日本でいう部会)にユース党の席が設けられており、ユース党の代表は、若者を代表して意見を述べている。
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一方、日本の学生部は、単にお手伝い組織となっており、党本部とも上下関係にある。そのため、政策議論に参加することはなく、せっかく身近に若者がいるにもかかわらず、意見を吸い上げる機能を果たしていない。
他にも、1月19日に開催したGX基本方針に関するシンポジウムでは、党内に「未来世代委員会」を設置することを提言したが、様々なルートで若者の意見を日常的に政策の意思決定に反映させる方法はたくさんある。
男女、世代別の格差縮小を目的としたジェンダーメインストリーミングの導入
次に、科学的に意思決定をすることである。
少子化の原因の多くは、「子育て罰」(チャイルド・ペナルティ)や「母の罰」(マザーフッド・ペナルティ)に集約される。
「子育て罰」とは、教育費や子育て費用などが重くのしかかる、子どもの声が迷惑がられる、電車でベビーカー使うのに引け目を感じるなど、子育てをした方が「損」になるような社会構造のことである。
根底にあるのは、社会全体で子どもを支えるよりも、親(個人)が負担するべきという考え方である。
「母の罰」とは、出産を機に退職や時短勤務を選び、下がった給与は長期に回復しない、つまり、子を産んだ女性の所得が減る現状のことをいう。
こちらは、性別役割分業や男性中心社会などが背景にある。
意思決定者や、その周りにいる人々が変わり、価値観をアップデートしていくことが重要である。
しかしそれにはどうしても時間がかかる。
それをすぐに解消するには、感情や印象で決めるのではなく、エビデンスに基づいた政策立案(EBPM)が重要となる。
そのためには、こちらも2021年の日本版ユース・パーラメントで日本若者協議会が提言しているが、ジェンダーメインストリーミングを導入することが有効である。
比例代表制を軸に
そして、最後に、価値観のアップデートや、意思決定者の入れ替わり、長期的目線に基づいた意思決定をしていくためには、選挙制度の改革も欠かせない。
現行の小選挙区比例代表並立制では、国民の多数の支持を得なければならないために、総花的な、目先の利益を重視した政策が訴えられやすい。
政治活動においても、政策研究よりも、地元周りの方が優先され、現実的にそういう政治家の方が長く生き残っている。
また若い候補者や女性の候補者を優先的に当選させることも、小選挙区を軸にした現行制度では難しい。
一方、比例代表制を軸にした小選挙区比例代表併用制では、候補者の優先度がつけやすい。
また「緑の党」などを見ればわかるように、特徴のある政党が議席を持ちやすく、少数派の意見も可視化されやすい。
このように、多様な政治家を生み出し、議論を活性化していくためにも、比例代表制を軸にした選挙制度に変えていった方が良いのではないだろうか。
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少子化対策が注力されてこなかった背景には、短期的視点に立ちやすい現行の意思決定構造の欠陥がある。
少子化対策の具体的施策を考えると同時に、この意思決定プロセスや選出方法などを議論していかなければ、長期的な視点に立った意思決定がいつまで経ってもできず、少子化対策がすでに若干手遅れなように、問題に気付いた時には「時すでに遅し」となり続けるだろう。