政治家の登竜門?スウェーデン政党青年部の役割とは
最近よく知られるようになってきたが、北欧の政治家の平均年齢は低い。
34歳で首相となったフィンランドのサンナ・マリン首相をはじめ、スウェーデンでは、30歳以下の国会議員の割合が12.32%を占める(2018年時点)(ちなみに日本は2018年時点だとゼロ人のためゼロ%。現在は一人)。
この背景には、被選挙権年齢の低さ(18歳)や選挙制度が比例代表制であることが大きな要因となっているが、今回スウェーデン視察によって、政党青年部(ユース党)の存在の大きさを強く感じさせられた。
結論から言えば、ユース党が政治家の登竜門のような存在となっており、多くが10代から政治活動のキャリアを始めている。
それも日本のような、“お手伝い”ではなく、政治家と同様のアドボカシーや党員集めをやっており、政治キャリアだけで見れば、日本の高齢議員と変わらない、むしろ人によってはそれよりも長い。
こうした素地があるからこそ、若くても活躍することができる。
今後日本で若い政治家を増やしていくためには、欠かせない視点であるため、インタビュー内容をもとに紹介していきたい。
インタビュー先:
・社民党ユース党(事務局長、コミュニケーション担当)
・穏健党ユース党(国際部・選挙キャンペーン担当)
・環境党ユース党(ユース党代表)
・中央党ユース党(ユース党代表)
最大政党・社民党の党首、副党首はユース党出身
今回最初に視察に訪れた最大政党・社民党のユース党(SSU)。
数日後の選挙で政権交代が起こったため、党首(首相)は交代予定だが、党首や副党首もユース党出身であるなど、ユース党が、次世代の政治家を育成するための土台となっている。
SSUの会員は、1.8万人。
年齢要件は、13歳〜35歳だが、会員の95%が15歳〜25歳だという。
ちなみに、スウェーデンの13歳〜25歳の子ども・若者は約160万人で、約1%が社民党のユース党員ということになる。
それに、SSUだけが多いのではなく、穏健党のユース党員も1.5万人存在し、近年増加傾向にある。
スウェーデンでは政党が8党あるため、全てを合わせればユース世代の数%がどこかしらの党員になっている(学校だとクラスに1人はいる計算)。それぐらい政党で活動することは珍しくない。
学校や大学で勧誘
では、どうやってユース党の会員を集めているのか。
SSU事務局長のリサさんは、ターゲットがいるところに働きかけているという。
「学校やSNSなど、ターゲットごとにキャンペーンを展開している。学校では、カフェテリアで、特定の問題について賛成、反対かを聞いたり、対話している。SNSでは、TikTokなどを活用して、レイシズムに反対したり、平等や自由などをキーワードに連帯を求めている。」
学校を中心に党員集めをしているのは、穏健党と環境党のユース党も同様だそうだ。
他方、日本に照らせば、日本で政党が学校や大学に行くことはハードルが高く、ここをどう変えていくかがユース党員(学生部)を増やすために重要なポイントとなりそうだ。
政治に関わることを楽しく
また、会員になって楽しいと思ってもらえるように工夫しているという。
例えば、それぞれ支部ごとに活動しており、イベントを開けば数百人集まるため、そこで仲間や親友ができたり、レイシズムに反対するためのフットボール大会を開催したりしているという。
政治にエンタメ要素を絡めるのは、Fridays For Futureのデモや各党の街頭演説の間に、アーティストがライブをしていることを見ても、政治活動全般に共通しているテーマと言えそうだ。
ただ議論の内容は高度であり、決してエンタメ化=容易化・単純化などではないというのは、注意が必要のように思える。
どうやってユースの声を党本部や政府に伝えているか?
日本だと、学生部は大人の“手伝い”であり、補助機関であるイメージは強い。
例えば議員事務所でインターンをしたり、選挙ボランティアをしたりだ。
しかし、スウェーデンのユース党はそれとは異なる。
党本部とは独立しており、会員も自分たちで集め、意見を独自に発信したり、提言している。
具体的には、SSUの全国の支部から意見が上がってくるため、それをユース党の総会で取り上げ、党本部に伝える。
党本部に伝える手段としては、SSUの代表が党本部の政策委員会に席を持っており、日頃から政策の議論に参加している。
これは穏健党や環境党なども同じ構造であり、穏健党では、各政策委員会に必ず一人ユース党のメンバーがいるという。
このように、独立性と対等性を確保しており、若者の声を政策決定に反映させている。
代表は毎年選挙で選ばれるが、事務局は継続して務めており、その予算は党本部と政府から出されている。
こうした予算があることも、独立性と対等性を保つ上で欠かせない。
もちろん、党本部とユース党の意見が食い違うことも珍しくない。
その場合は党内で声を上げるだけでなく、外部に対してもメディアやSNSを通して情報発信し、世論喚起を行なっている。
最近だと、今回の選挙に勝った場合、中央党と連立するという話になっているが、ユース党は反対しており、戦略的に選挙前に発信し、メディアに取り上げられたという。
次の世代を育てる機能
このように、今の若い世代の声を政策決定に反映させるという意味で、ユース党は非常に大きな役割を担っている。
各党に規模の大きいユース党があることで(小さい政党でもユース党員は1000人以上いる)、政治家も日常的に若者の意見に触れることができている。
そして、各党の選挙小屋にユース党党員がいることも珍しくはなく、選挙活動を支える重要な一員にもなっている。
街中でキャンディと政策パンフレットを配っていた中央党ユース党の代表は、なぜスウェーデンの投票率が高いのか聞くと、「ユース党があるから投票率が高い」と答えてくれた。
ただそれだけではない。
ユース党のもう一つ重要な役割が、次の世代を育てる場所になっていることだ。
穏健党の選挙キャンペーンを担当しているユース党員に「ユース党がなくなったら困ることは何か?」と質問したら、次の世代を育てる機能が失われると回答した。
「デモクラシーは全世代の意見を必要とする。そのため若者の意見を集約する組織が必要。それと次の世代を育てる機能が失われる。」
実際、ユース党の幹部メンバーは10代の頃から活動を始めており、幹部になる頃には5年以上の政治キャリアを積んでいる。
そして20代後半で地方議員になったりと、次のステップに進んでいく(この頃には既に10年以上の政治キャリアがある)。
こうした状況に対して、日本の学生部は、規模も影響力(権限)の大きさも全く比にならない。
別の記事(町村議会に占める60歳以上の議員の割合は76.9%。どうしたら若者の政治家を増やせるか?)で書いたように、日本の議会の平均年齢は非常に高く、若手議員が少ないのが現状だが、これを変えていくためには、被選挙権年齢や選挙制度などの制度面だけでなく、ユース党(学生部・青年部)で活動する若者を増やし、政治キャリアを若い頃から積めるようにすることも欠かせないと感じたスウェーデン視察であった。
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