国民の分断を招く「二大政党制」の幻想を日本はいつまで見続けるのか?
平成の政治改革からおよそ25年。
1996年の総選挙から、政権交代可能な二大政党制を目指して「小選挙区比例代表並立制」が導入されたが、二大政党に収斂される気配は一切ない。
そこには、現在代表選を行っている立憲民主党をはじめ、野党の物足りなさというのもあるが、もともと日本に合っていなかったのではないか。
そして一定期間ごとに政権交代が起きないのであれば、小選挙区制の弊害は大きい。
ならばいっそのこと、二大政党制は諦めて、比例代表制を軸にした多党制へと移行すべきだ。
具体的には、「小選挙区比例代表並立制」から「小選挙区比例代表併用制」に移行すべきである。
現状の課題と、移行すべき理由について説明していく。
民意と議席数の乖離
小選挙区制を軸にした「小選挙区比例代表並立制」の欠点は大きく3つ挙げられる。
一つ目が、「民意と議席数の乖離」、二つ目が「多様な民意を受け止められない選挙制度であること」、三つ目が「国民の分断を招く」ことだ。
一つ目はよく報道されているが、小選挙区制においては、得票率と議席占有率が一致していない。
今回であれば、自民党の小選挙区における得票率は48.4%だったのに対して、議席占有率は65.4%と、民意と議席数が必ずしも一致していない。
得票率だけを見れば、前回2017年とほぼ変わらないのにもかかわらず、議席占有率は10ポイント減になっていることからも、やや歪な制度であることは明らかだ。
一方、小選挙区制においてはいわゆる「死票」が生まれやすく、得票数に対する死票の比率を各党別にみると、自民党は26.8%、立憲民主党は64.2%と、立憲民主党に投じた票の半数以上は議席獲得につながっていない。
多様な民意を受け止められない選挙制度
次に、小選挙区制を軸にした現行制度だと、多様化するニーズを掬い取れず、国民の不満が高まりやすい点だ。
出口調査など、様々な調査で明らかになっているように、大多数の国民がもっとも重視している政策は「経済政策」である。
しかし、後述する「小選挙区比例代表併用制」を採用するドイツで今年9月に行われた総選挙において、若い世代が、気候変動対策と社会正義を重視する緑の党と、市民の自由とデジタルを重視するFDP(自由民主党)に多く投票したように、経済政策以外を重視して投票したい人はもちろん存在する。
関連記事:30代以下と70歳以上の立候補者の数がほぼ変わらない日本の総選挙【衆院選2021】(室橋祐貴)
しかし、有権者の過半数から投票してもらわないと議席を獲得できない小選挙区制では、少数の声は反映されにくい。
結果的に、ジェンダーや気候変動対策、デジタル化など、重要なテーマだが大多数の人にとってはやや優先順位が下がるテーマが解消されにくい。
ただ社会は多様化しており、政治に求める課題解決もどんどん多様化が進んでいる。
しかし、小選挙区制ではそうした多様な民意を受け止めきれず、自分が投票してもあまり変わらないと「政治的有効性感覚」が減退する可能性も高い。
(蛇足だが、筆者が代表理事を務める日本若者協議会では、アドボカシーなど、選挙以外の政治参加を重点的に進めているのはそのためである。大テーマ以外を解決しようとしたら投票を呼びかけるよりも、政策の意思決定者にアプローチした方が解決できる可能性は高い)
実際、政治学者アーレンド・レイプハルトは、36カ国の民主主義国を比較研究した結果、多数決型民主主義(小選挙区制)よりもコンセンサス型民主主義(比例代表制)の方が、少数意見の反映、女性の政治参加、投票率などの点で優位にあり、民主主義の質が高いと主張している。
無理やり差別化することで先鋭化する
そして、レイプハルトの主張の中で注目したいのが、「寛容さ」というキーワードである。
コンセンサス型民主主義は、多数決型民主主義と比較して「より寛容な」民主主義の形態を採り、特に、福祉、環境保護、治安及び対外援助について寛容な政策を実施し、民主主義の満足度も多数決型民主主義よりも高いとする。
対して、二大政党制を実現しているアメリカを見ればよくわかるように、多数決型民主主義では、「敵」と「味方」に分かれやすく、SNSによって分断は先鋭化している。
しかも人種や階級など、もともと分断の大きいアメリカやイギリスならまだしも、国民の中に大きな差がない日本においては、他党の良い部分も評価せずに、無理やり違いを誇張し、差別化する流れを起こしている。
そして多くの有権者は、批判のための批判や「反アベ」などの主張に辟易としている。
2016年の参院選以降、野党間では「野党共闘」が進められているが、小選挙区制によって無理やり「野党共闘」に追い込まれているのであり、選挙のために主義主張を変えるなど、健全な関係とは言えない。
だが、比例代表制は、一党独裁体制を生むことなく、複数の政党が互いに歩み寄り、合意を形成することを促す。対決型ではなく、コンセンサス型である。
今回、野党の中では、「是々非々」の日本維新の会と国民民主党が議席を伸ばしたように、国民が求めているのは、対立よりも、互いに協力しながら山積する課題を解決していく方向ではないか。
関連記事:今後若者の投票率は右肩上がりになるのではないかという希望と懸念(室橋祐貴)
小選挙区比例代表併用制の方が日本にふさわしい?
では、どう選挙制度を変えていくべきか。
たまに「中選挙区制」に戻した方がいいのではないかという意見が散見されるが、はっきり言って「論外」だ。
なぜなら、党内での競争になると、政策での差別化が難しいことから、利益誘導型の政治になりやすく、金銭的腐敗を招くのは必然だからである。
かつ、党内での競争だと、不透明化しやすく、首相交代(党内の疑似政権交代)に国民が関与できる範囲が狭いなど、民主主義の質も低下する。
ではどう変えるべきか。
冒頭で述べたように、「小選挙区比例代表併用制」が良いのではないかと思っている。
小選挙区制を軸にした「小選挙区比例代表並立制」と名前は似ているが、「小選挙区比例代表併用制」は比例代表制を軸にしている。
投票方法が、選挙区で候補者の名前を、比例で政党名を書く、という意味では、現行の日本の選挙と変わらない。
しかし、議席の割り当て方が大きく異なる。
まず先に、政党の得票数に応じて全議席が比例配分され、各政党では小選挙区で当選した候補者に優先的に議席が与えられる。
ルールが変われば、戦い方も変わるため(小選挙区で自民党、比例で公明党と呼びかけているように)、単純な計算にあまり意味はないが、試しに、比例で議席を割り当てると、下記のようになる。
全465議席(過半数233)
自民167(実際は261)、立憲102(96)、公明65(32)、維新37(41)、共産23(10)、国民18(11)、れいわ18(3)、その他35(11)、となる(ドイツの小選挙区比例代表併用制では、ここからさらに小選挙区分も一部上乗せされる&阻止条項で得票率5%以下の政党は比例配分から外されるのだが)。
「小選挙区比例代表併用制」のメリットは、大きく3つ挙げられる。
一つ目が、「少数意見を反映しやすいこと」、二つ目が「死票が少なく、政治的有効性感覚が高まること=投票率が高くなりやすい」、三つ目が「連立政権が頻繁に入れ替わるため、腐敗や分断を招きにくい」ことだ。
また小選挙区制の要素も入っているため、各地域の代表を選ぶという現行制度の良い部分を引き継ぎつつ、改善を加えることができる。
逆にデメリットは、複数政党による連立政権を基本とするため調整に時間がかかること、変化のスピードが緩やかなことが挙げられる。
しかし日本人自体が、なるべく全会一致を求め、変化に対してもやや保守的な気質が強い傾向にあるため、大きなデメリットではないのではないだろうか(比較的気質や人口規模の似ているドイツが採用している制度であることからも相性は悪くないように思える)。
日本の「小選挙区比例代表並立制」は、小選挙区制と比例代表制が混じった中途半端な形であるため、この制度自体の不備もあるが、基本的には比例代表制を軸にした制度の方が、望ましい。
もちろん、選挙制度を変えるのは時間がかかるため、現制度を前提にしたブラッシュアップも必要だが、中長期的には、選挙制度の見直しも必要ではないだろうか。