研究を未来につなげ!熊本地震の研究機関への影響と支援の重要性
甚大な被害
2016年熊本地震発生から9日が経過した。被災した皆さまに心よりお見舞い申し上げると同時に、お亡くなりになられた方々のご冥福を心よりお祈りする。
昨年12月、私は熊本大学博士課程教育リーディングプログラム、HIGOプログラムに招かれて講演をさせていただいた。そのとき、東京大学浅島誠研究室で一時期ご一緒させていただいた西中村隆一先生(熊本大学発生医学研究所所長)と久々の再会をしたほか、博士課程の若い学生たちと夜が更けるまで密な議論をさせていただいた。
西中村先生は避難所や車の中で夜を明かしたという。また、旧知の学生、教員の皆さんが被災され、大変な思いをされている。胸が締め付けられる思いだ。
熊本大学は、日本有数の発生学の研究施設である発生医学研究所や、マウスを飼育する生命資源研究・支援センターを要するなど、生命科学の拠点だ。
そんな熊本大学の研究機関がどうなっているのか。ホームページで状況が公開された。
掲載された写真をみると、次世代シークエンサーをはじめとする重要な機材が落下、破損しているのが確認できる。
西中村先生は、発生医学研究所長としてこう述べる。
人的被害がなかったのは本当によかったが、研究機器等に大きな被害が出ているのが分かる。
生命資源研究・支援センターの状況はどうか。
貴重なマウスが途絶えることはなさそうで、少し胸をなでおろした。
危機は去っていない
しかし、西中村先生は「これらの状況は、あと一発の大きな余震によって大きく変わる可能性があることは念頭に置かねばなりません」ともいう。
こうしたなか(順序はこちらのほうが先だが)、ノーベル医学生理学賞受賞者の山中伸弥京大教授が、首相官邸で安倍晋三首相に面会し、熊本大学の危機を訴えた。
首相も対応を約束した。
山中教授が言うように、命の危機にある被災者の皆さんを支援するのが第一なのは当然だが、研究のなかには、生き物を培養したり、サンプルを保存したりする必要があるものが多々ある。いったんそれが失われてしまえば、研究を復活するのに何年、何十年もかかることがあるし、それどころか取返しが付かなくなることがある。
実際、阪神大震災のときは、甲南大学理学部で火災が発生し、貴重なサンプルが失われたという(参考神戸新聞)。当時私は東京大学臨海実験所で卒業研究をしていたが、甲南大学の研究者の方から、サンプルが失われ長年の研究がダメになったという悲痛な連絡が届いた、という話を聞いている。
研究を未来につなぐためにも、今この時期、研究機関や研究者への支援は重要なのだ。
広がる支援の輪
今回の地震の影響を受けているのは、熊本大学だけではない。熊本県を中心とする大学や研究機関にも被害が出ている。
こうしたなか、研究支援の輪が広がっている。
東日本大震災や阪神大震災の記録も参考にされたい。
私は神戸大学に所属していたこともあり、被災状況を体験者から何度も聞かされた。多くの病理標本が破損。研究が長期間滞ったという。また、身近にいる方が、アパートが倒壊して半日生き埋めになった経験があるという話をぽろっとされて、神戸の地に震災が残した爪痕の深さを痛感した。
実は私は7月に熊本大学に再びうかがうことになっている。今回の地震で7月は無理かもしれないが、再び大学院生の皆さんに再会できることを楽しみにしている。それまで、未来に研究をつなげるために、私もできる限りのことをしていきたい。