就活成功がゴールではなく、その後のキャリアを支える教育を
6月に法政大学 キャリアデザイン学部の「キャリア体験学習」という講義を見学させてもらいました。
先日の記事で、就職活動に対する学生のマインド・チェンジが必要、そのために中学、高校、大学のキャリア教育が重要であるということを書きました(先送りされた就活ルール廃止。現実化に備えて学生、大学、企業はどうすべきか?)。
若者に必要なキャリア教育について、この講義の内容を紹介しつつ、考えてみたいと思います。
インターンシップへの参加が必須の講義
「キャリア体験学習」はキャリアデザイン学部の2年生を対象とした通年科目で、単位取得には5日間以上のインターンシップに参加し、そこでの学びについて報告・共有とエッセイの執筆が求められます。
まず夏休みまでに自己分析やインターン先の決定、業界研究などを行い、夏休みにインターンを実施、年度の後半はインターンでの学びの振り返りや共有、エッセイをまとめて文集にするという大まかな流れがあり、合間合間に社会人のゲストからリアルな体験を聞き、働くことや社会について考える場が提供されます。この授業をきっかけに、数ヶ月から就職活動が始まるまでの長期にわたってインターンシップを経験する学生も何人もいるとのことです。
4人のワーキングマザーがリアルな会議の様子を実演
お伺いしたのは外部講師が招かれる日で、普段はそれぞれ別の組織で働く4名のワーキングマザーが壇上に立ちました。
この講義を受け持つ田中研之輔教授は、学生に働く女性のロールモデルを見せたいと考え、今回のゲストに「それぞれがプロフェッショナルとして、日頃どのような働き方をしているか、リアルな様子を見せてほしい」と依頼したそうです。
それを受け、4人は仮想の「面白ワーママ企画社」のメンバーという設定で模擬ミーティングを実施、取り囲む学生たちがその様子を見守りました。
【ゲスト講師のお名前および所属(当時)と、模擬ミーティングにおける役割(敬称略)】
・岡本真梨子
(株式会社エスキャリア取締役社長)
模擬ミーティングでの役割:社長(経営戦略)
・中山綾子
(イベントプロデューサー/一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会理事)
模擬ミーティングでの役割:企画営業
・城みのり
(株式会社グローバル・カルテット代表、リサーチクオリティコントローラー)
模擬ミーティングでの役割:マーケティング・リサーチ
・岡村紘子
(株式会社リアライブ 経営企画室/株式会社manma 広報)
模擬ミーティングでの役割:広報PR
模擬ミーティングは「週次定例ミーティング」という位置づけで、以下のような流れで進んでいきました。
1.(まずは、学生たちに向けて「面白ワーママ企画社」の紹介)
社長役で経営戦略担当の岡本さんより、自分たちの強みとビジョン、世の中に伝えたいメッセージ、中期経営戦略から導かれる今期の注力分野(ティーンエイジャーに自分たちのメッセージを伝えていく)の再確認。
2.(ここから、具体的な業務の話題に)
企画営業担当の中山さんから、ある自治体の「成人式の企画・運営業務」を受託すべく動いているという進捗報告。
3.
マーケティング・リサーチ担当の城さんより、上の案件獲得にあたっての事前調査の内容共有(成人式の出席率低下の現状、出席しない理由、出席率の回復に成功している自治体の事例etc.)。
成功事例(成人式のコンテンツの企画段階から若者を巻き込む)をヒントに、実際の若者の声を拾い上げて提案内容を詰めることを提案。
4.
広報PR担当の岡村さんより、「法政大学の田中研之輔教授とつながりがあるので、学生にヒアリングさせてもらいましょう」という提案があり、他のメンバーも賛同。
その場で田中先生のアポイントメントを取り付ける。
5.
学生ヒアリングを経て自治体へ提案するまでのタスクや役割分担を確認し、ミーティング終了。
楽しそうに働く大人たちから学生が受け取ったメッセージ
模擬ミーティングの後、実際成人式の課題と、参加したくなるアイデアを考えるワークショップが開催されました。
学生たちはとても楽しそうにワークに取り組んでいました。それは「成人式」という身近なテーマで意見を出しやすかったことの他、ゲスト講師たちのとても明るく楽しそうな様子に刺激を受けたという面もあるのではないかと思います。
子育てと仕事の両立の大変さにフォーカスが当たりがちなワーキングマザーですが、4人がとても楽しんで仕事をしていること、これがよく伝わってくる模擬ミーティングだったのです。
学生もそれを感じ取ったようで、講義後の感想には以下のようなものがありました。
模擬ミーティングの前のゲスト講師たちの自己紹介では、
- 大手企業、研究機関の研究者を経て創業期のベンチャーに参画。小さかった子どもを育てながらがむしゃらに働いた。
- 新商品・サービスやキャンペーンの企画などを中心に営業やイベントの運営など、仕事を通じてできることが広がっていった。
- 学生時代からフリーランスとして働き始め、海外で起業、会社員など、色々な働き方を経験してきた。
- 子育てを始め、会社を辞めて専業主婦になってからも、プロボノで働くことを続けてきた。
といった、それぞれの経歴が語られました。
学生たちはこれからの就活について不安やプレッシャーを感じることも多いでしょうが、ゲスト講師たちの紆余曲折のキャリアを聞いて、新卒で入った会社で全てが決まるわけではないこと、その時々の学びや選択によって次の道が拓けてくることに朧げながらでも気づいたのではないでしょうか。
新卒入社という「入り口」までのサポートにとどまらず、その後の支えになるキャリア教育を
寄せられた感想を見ると、ゲスト講師たちの手際の良さや発言内容に格好良さを感じたり、複数のメンバーのスキルや人脈などを持ち寄ることでひとつのプロジェクトが成り立つのだという理解につながった学生もいたようです。
少子化により激しい競争に直面する中、就活支援に力を入れる大学が増えています。しかしその内容は、新卒でどこかの企業に入社するというキャリアの「入り口」までのサポートにとどまっているところが多いのではないでしょうか。
人生100年時代と言われる今、キャリアをスタートさせてから引退という出口に至るまでにはものすごく長い期間があり、その間にどんな道筋を進むのかには、(時には休んだり、学生に戻って勉強したりということも含め)限りない可能性があります。
キャリア教育としてやるべきなのは、一度社会に出てからもキャリアを模索する旅は続いていくことを認識させ、その旅路にある将来の自分をイメージするサポートをすることではないでしょうか。そのために、今回の講義のように、それぞれにユニークなキャリアを歩み、自分を活かす方法を見つけてきた人たちの実例を紹介することはとても意味があります。
そういう意味で、このような講義はキャリアデザインを専門とする学部にとどまらず、まだ社会に出る前の学生には広く提供してほしいところです。
もっと言えば、いずれ新卒一括採用システムが崩れていき、若者は実務経験がないなりにも職業につながる具体的な能力をアピールして職を得ていくことになるであろう今後の社会においては、このようなキャリア教育を高校の段階で実施し、将来の自分をイメージしながら進学先を選べるようにすべきではないでしょうか。
その上で大学は、それぞれの講義やゼミの内容が仕事にどのように役に立つか、目指す職業によってどのような単位を取得するのが良いかといった示唆を与え、学生たちが大学で学んだことに自信をもって社会に出ていけるようにするのが、本来の姿ではないかと思います。
※写真はすべて筆者撮影