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北朝鮮が発射したミサイルは失敗したのか、成功したのか? 南北発表のズレは今に始まったことではない!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
北朝鮮が主張する多弾頭ミサイルの分離(朝鮮中央通信から)

 北朝鮮が6月26日に発射した弾道ミサイルについて韓国合同参謀本部はその日のうちに「ミサイルは約250km飛行し、元山東側海上で空中爆発し、失敗した」と発表していた。

 初動発表では発射されたミサイルについては「未詳」としていたが、後に「極超音速ミサイルを発射したようだ」との見方を示した。それも、発射地点、発射方角、さらには噴射火がスカートのような形態だったことから今年4月2日に発射された固体燃料極超音速ミサイル「火星16ナ」の性能改良のための試射と解析していた。

 ところが、翌日(27日)に北朝鮮が中長距離固体弾道ミサイル1段エンジンを利用し、多弾頭ミサイルの発射実験を行い、「成功した」と発表すると、合同参謀本部広報室は直ちに記者会見を開き、北朝鮮の主張を「欺瞞と誇張にすぎない」と断じた。「(多弾頭ミサイルならば)多弾頭が分離されるのは下降段階なのに(北のミサイルは)飛行の初期段階(上昇中に)爆発していた」と、反論した。

 また、北朝鮮が公開した写真のミサイルは『火星17』と外見が類似しているとして「エンジンの炎が個体燃料式のように広がっていることから写真を加工した可能性がある」とも指摘していた。長距離弾道ミサイル「火星17」ならば液体燃料が使用される。

 さらに、合同参謀本部は「もしかしたら本当に多弾頭ミサイルの実験を行ったのでは」との雑音を完全に払拭するため翌28日には失敗を裏付ける「確証」として発射に失敗した様子を明確に捉えた映像を異例にも公開した。

 前線に配備している赤外線監視システム(TOD)で撮影された映像にはミサイルが上昇中に異常回転し、空中で爆発する姿が映し出されていた。また、破片が飛び散る姿も捉えられた。

 そのうえで、合同参謀本部は北朝鮮が「多弾頭ミサイルを発射した」と嘘をつくのは発射失敗を、また破片の一部が内陸に落ち、被害が発生した可能性を追い隠すためであると結論付けていた。

 合同参謀本部が発射前から発射の兆候を捉え、レーダーや地上の監視資産で探知していたならば、発射地点だけでなく、ミサイルの速度及び時間飛行、さらにはどのぐらいの地点(高度)で爆破したのか、もう少し詳細を明らかにできれば、より一層説得力を持ち、異論を完全に払拭できるのだが、その点に若干、物足りなさを感じる。何よりも、失敗したならば、北朝鮮は発射そのものを公表せずに沈黙していれば済んだ話だ。直ぐにバレるような嘘をつく必要はなかったのではとの疑問も沸く。

 北朝鮮のミサイルに関する南北の発表の食い違いは今に始まったことではない。これまでも双方の発表は真逆のケースが多かった。幾つかその実例を挙げてみる。

 その1.2022年1月5日午前8時頃に発射されたミサイルを北朝鮮が6日に「ミサイルは発射後分離され、極超音速滑空飛行戦闘部が120km側面機動して700kmに設定された標的を誤差なく命中した」と正式に発表するまで韓国は極超音速ミサイルであることをキャッチできなかった。

 その2.北朝鮮は2022年11月2日午後に巡航ミサイルを2発発射し、「590km先の(韓国南東部の)蔚山沖の公海上に着弾した」と発表したが、韓国軍は「事実ではない。ミサイルは発射されていない」(国防部)と真っ向否定していた。

 その3.北朝鮮は2023年2月23日未明に日本海に向け「戦略巡航ミサイルを4発発射した」と、発表したが、韓国軍は発射そのものを否定した。いかに海面から50~100mの低空で飛行したとしても、4基も発射されれば、1基ぐらいは韓国の最新レーダーでキャッチできるはずなのに捕捉できなかったのは「実際に飛ばしていないから」(国防部)との理由による。結論として「北朝鮮の欺瞞戦術」とみなした。

 その4.北朝鮮は2023年3月9日午後6時20分頃、南浦一帯から新型戦術誘導ミサイル6発同時発射発射したが、韓国軍は7時45分頃(1時間25分後)に「1発発射された」と発表。発射から2時間20分後の夜10時になって「数発同時発射された」に訂正。北朝鮮は10日に「6発発射した」と報道し、発射場面の写真を公開したが、発射地点は南浦ではなく、南浦から10km離れた平安南道カンソ郡の貯水池・台城湖傍の人工の島だった。

 その5.北朝鮮は2024年4月2日午前6時53分頃に平壌近郊から極超音速滑空飛行戦闘部を装着した新型の中・長距離固体弾道ミサイル「火星砲―16ナ」型の初試射を実施したが、韓国軍は「飛翔体は約600キロを飛行し、東海上に落下した」と発表。北朝鮮が翌日(3日)「射程1000km界線の朝鮮東海上の水域に正確に着弾した」と発表すると、「韓米日が分析した結果は約600km、北朝鮮の発表は誇張している」と反論した。韓国の合同参謀本部と北朝鮮が発表した飛行距離に約400キロの差があることから韓国の一部ミサイル専門家の間で「韓国軍のレーダーが軌道を変更しながら飛行する極超音速ミサイルを探知できなかったのでは」との指摘が出ていた。

(参考資料:極超音速ミサイルなのか、多弾頭ミサイルなのか? 食い違う韓国と北朝鮮の発表!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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