極超音速ミサイルなのか、多弾頭ミサイルなのか? 食い違う韓国と北朝鮮の発表!
昨日の北朝鮮の弾道ミサイルは何だったのか?
韓国合同参謀本部は昨日、北朝鮮が「午前5時半頃、平壌付近から東海(日本海)に向け未詳の弾道ミサイルを発射した」と発表した。後に、合同参謀本部の関係者は韓国の報道機関に「固体燃料極超音速弾道ミサイルの性能改良のための試験発射をしたようだが、失敗したようだ」と説明していた。
従って、韓国ではミサイルは「北朝鮮東部の江原道元山から約70~80kmの海上で爆発し、破片が発射地点から水平距離で最大約250km先に落下した」と受け止められている。
一方、日本の防衛省は「5時28分頃に北朝鮮内陸部から1発の弾道ミサイルが東方向に向けて発射され、最高高度約100km程度で、約200km以上飛翔し、日本の排他的経済水域(EEZ)外に落下した」と伝えていた。
ミサイルの種類については「極超音速ミサイル」とは特定せず、失敗したかどうかについても断定せず、林正芳官房長官は午前の記者会見で「失敗の可能性も含めて詳細について防衛省が引き続き分析を行っている」と、即断することを控えていた。
韓国は今年4月2日に発射された中距離級の固体燃料式極超音速滑空ミサイル「火星16ナ」(最高高度約100km、飛行距離650km)と発射地点や高度、発射方向が似通っていたことなどから「火星16ナ」の性能改良のための試射とみなしたようだ。
また、韓国メディアはミサイルが異常に多い煙を出しながら飛行していた様子が目撃されたため「エンジンの不具合により燃焼がうまくいかなかったようだ」と失敗の原因を指摘していた。
ところが、今朝になって、北朝鮮は「ミサイル総局が26日、ミサイル技術力の高度化目標の達成において重要な意味を持つ個別機動戦闘部(多弾頭戦闘部=MIRV)の分離および誘導操縦試験を成功裏に行った」と発表していた。個別機動戦闘部とは多弾頭戦闘部(MIRV)を意味する。
朝鮮中央通信によると、実験は「中長距離固体弾道ミサイル1段エンジンを利用し、個別機動戦闘部の飛行特性の測定に有利な170~200km半径の範囲内で行われ、分離された各機動戦闘部は設定された3つの目標座標点へ正確に誘導された」とされ、「ミサイルから分離された欺瞞体の効率も対空目標発見探知機を用いて検証した」とのことだ。
また、「個別機動戦闘部の分離および誘導制御実験の目的は多弾頭によるそれぞれの標的撃破能力を確保するところにある」と指摘し、この日の実験により「本格的な実験段階に入れるようになった」と伝えていた。
北朝鮮の発表どおりならば、北朝鮮はミサイルに複数の弾頭を搭載し、同時に複数の目標物を攻撃でき多弾頭ミサイルの発射実験を行ったことになる。
但し、北朝鮮は「成功裏に行った」と主張しているが、捉えられた映像では正常な飛行ではなく、ぐるぐる回転しながら飛行していることからエンジンなどのトラブルが起きていたものと推測され、成功したかどうかは疑わしい。
北朝鮮が中長距離固体弾道ミサイルの1段エンジンを利用したため韓国は極超音速滑空ミサイル「火星16ナ」の性能改良試射とみなしたものとみられるが、韓国と北朝鮮の発表の決定的な違いは何よりも韓国が「元山から約70~80kmの海上で爆発し、破片は発射地点から最大約250km先に落下した」と分析しているのに対して北朝鮮が「分離された各機動戦闘部は設定された三つの目標座標点へ正確に誘導された」と発表していることだ。
破片というとミサイルが爆破し、ばらばらになったことを想像するが、爆破せずに目標通り三つの標点へ正確に誘導されたとするならば、話は違ってくる。
昨日のミサイル発射には金正恩(キム・ジョンウン)総書記の軍関連視察には常に随行している労働党中央軍事委員会の朴正天(パク・ジョンチョン)副委員長と軍需担当の金正植(キム・ジョンシク)党第1副部長が参観していたが、金総書記は姿を見せてなかった。
今回は初めての実験だったことから参観しなかったが、本格的な実験段階に入り、完成の折には参観することになるであろう。
それが今年なのか、来年に持ち越されるのかは定かではないが、北朝鮮の開発のペースが速いことや多弾頭ミサイル開発が2021年8月の党第8回大会で打ち出された「国防・兵器発展5か年計画」に含まれていることや「党中央が最も関心を寄せる問題である」(朝鮮中央通信)ことから北朝鮮は年内完成を目標にしているのかもしれない