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米レクサス社が公開した衝撃動画!「ながらスマホ」事故遺族が警告する4.6秒のリアル

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
米レクサスが公開した「ながら運転」の危険性を伝えるリアルな啓蒙動画(筆者撮影)

 まずは、アメリカのレクサス社が今月公開した、『Driving Disrupted』(=散漫運転)というタイトルの、以下の動画をごらんください。

 実は、この動画に出てくるレクサス『NX』には、特別な仕掛けが施されています。

 いわゆる「ながら運転」の危険性を一般のドライバーに体験させるため、走行中、全ての窓が瞬時に白く霞み、4.6秒間、一切の視界を遮るのです。

 事前に何も知らされていないドライバーたちは、テストコースを運転中、突然ウインドウが白くなって前が見えなくなり、皆、パニック状態に陥ります。必死でハンドルを切ったり、ブレーキを踏んだりしますが、わずか数秒の間に、車は前方の障害物を次々となぎ倒していくのがわかります。

 なぜ「4.6秒」なのか? 

 その根拠は、NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)の調査結果にあります。

 ドライバーが運転中、スマホを使ってメッセージを送受信するのに、平均4.6秒かかるからです。

 興味深いのは、事前に行われたインタビューで、ドライバーたちが、

「運転中にスマホでメールを読むことがあっても、せいぜい1秒か2秒くらいだと思う」

 と答えていることです。

 実際には1~2秒ではないこと、そして、4.6秒間「前が見えない」ということが、いかに危険なことであるかが、この動画から強烈に伝わってきます。

ながらスマホによる死亡事故を伝える新聞報道(竹田さん提供)
ながらスマホによる死亡事故を伝える新聞報道(竹田さん提供)

■「ながらスマホ」による事故で娘を亡くした母の思い

「米国レクサスの動画を見て、これがリアルなんだと確信しました。突然、視界を奪われたドライバーたちは、急停止どころか次々と障害物に衝突していきます。私は交通安全の講演の中で、いつも『想像してほしい』という言葉を伝えているのですが、この動画は、その想像を現実として見せてくれていると思います」

 そう語るのは、岐阜県多治見市の竹田直美さんです。

 2016年4月6日、竹田さんは娘のひとみさん(当時20)を交通事故で亡くしました。

振り袖姿の瞳さん。事故は成人式から4か月足らずで発生した(竹田さん提供)
振り袖姿の瞳さん。事故は成人式から4か月足らずで発生した(竹田さん提供)

 ひとみさんは、車にひかれて傷を負った猫を見かけて助けようとしていたとき、直進してきた乗用車にノーブレーキで衝突されたのです。

 全身にダメージを受け、ほぼ即死でした。

 加害者は、出産を間近に控えた31歳(当時)の女性でした。

 現場は見通しのよい直線道路でしたが、供述によると、助手席に置いたスマホに気を取られ、前を見ていなかったのだといいます。

ひとみさんに気づかず、ノーブレーキではねた加害者の車(竹田さん提供)
ひとみさんに気づかず、ノーブレーキではねた加害者の車(竹田さん提供)

ひとみさんが「ながらスマホ」の車にひかれて亡くなった岐阜県の事故現場(筆者撮影)
ひとみさんが「ながらスマホ」の車にひかれて亡くなった岐阜県の事故現場(筆者撮影)

 当初、この事故は、単なる「わき見」で処理されようとしていました。

 しかし、竹田さんら遺族の訴えもあり、加害者本人が「ながらスマホ運転」をしていたと供述。結果的に裁判ではその危険行為が認められ、加害者には禁錮9月の実刑が下されました。

 竹田さんは語ります。

レクサスのこの動画を見てから、自分でも再現してみました。すぐ脇にスマホを置き、着信音が鳴ってそれを手に取り、画面を見る……。ここまでの動作で、4.6秒はとうに過ぎていました。スマホのほうに視線と意識をとられている時間は、実は前を見ているようで何も見ていない、まさに『目隠し状態』です。その4.6秒を、ドライバーたちは長いと感じたのか、それとも短いと感じたのか。そして、ながら運転をするときの自分の感覚とのズレを、どう受け止めたのか。何かを伝えるとき、一定の基準値があると受け入れやすくなると思います。この先、講演する機会があれば、今回知ったことをぜひ取り入れたいと思います

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今年1月、高校3年生を対象にZOOM講演を行った竹田さん。この学校には末子が在学中で、学友に話を伝えることが実現した(竹田さん提供)
今年1月、高校3年生を対象にZOOM講演を行った竹田さん。この学校には末子が在学中で、学友に話を伝えることが実現した(竹田さん提供)

■アメリカでは政府機関がリアルな啓蒙動画をテレビで放映

 カリフォルニア州で30年間を過ごしたJun Jim Tsuzukiさんからは、下記のメッセージと共に、動画情報が寄せられました。

「アメリカでは、NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)が「ながらスマホ」の危険性を伝える啓蒙ビデオをテレビで放映しています。まず、この動画は2016年にテレビでよく放映されていた啓蒙ビデオですが、リアルさがかなり話題になって効果が高かったようです」

●米国運輸省道路交通安全局がTVで公開した動画(2016)

<NHTSA Distracted Driving – Texting>

NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)が2016年に公開した動画の一コマ。スマホに気を取られてトラックと衝突した直後の場面(筆者撮影)
NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)が2016年に公開した動画の一コマ。スマホに気を取られてトラックと衝突した直後の場面(筆者撮影)

「まさに、映像が全てを語っています。マジで言葉が出ない、というか、言葉以上ですね。 これを初めて見たとき、いや、その後何度見ても、かなりショックでした。ちなみに、この動画の最後に出る、『If you are texing, you are not driving』は、『テキスト(メッセージ)を打っているとき、あなたは(本来の)運転(操作を)していない』 という意味です。その下に『Just Drive』と出てきますが、これは、『(他の事をせずに)運転(だけ)しろ!』です」(Tsuzukiさん)

  翌2017年に放映されたのは、同じくNHTSAによって製作された以下の動画です。

●米国運輸省道路交通安全局がTVで公開した動画(2017)

<Famous Last Words>

NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)が2017年に公開した動画の一コマ。ドライバーのスマホには最後のメッセージが…(筆者撮影)
NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)が2017年に公開した動画の一コマ。ドライバーのスマホには最後のメッセージが…(筆者撮影)

 Tsuzukiさんはこう解説してくれました。

「2017年の動画の中に出てくる「smh」の3文字は、『Shake My Head』、つまり、首を横に振る⇒ダメ・否定・嫌だ・やめて! という意味で使われる略語です。最後の『If you text and drive, your next message might be your last』という文は、『運転中のメッセージのやり取りは、次に送るメッセージがあなたの最後の送信になるかもしれない』ということです」

 ちなみに、カリフォルニアの道交法では、スマホの操作だけでなく、運転中の飲食、大音量の音楽やその他の装置の操作(ラジオ等含む)、会話、同乗者(子供など)に気を取られるなどの行為も、状況次第では違反の対象とのことです。

■わずか数秒でも「視線」と「意識」をそらすことの危険性

 今日からゴールデンウイークです。新型コロナウィルスの感染拡大で外出に規制がかけられているとはいえ、慣れない場所へ車で出かける機会が増えることもあるでしょう。

 スマホはもちろん、カーナビ、車内での飲食など、わずか数秒だけでも、視線と意識を前方からそらすことがいかに危険であるか。こうした動画を見て再認識することも大切でしょう。

 竹田さんは、こう語ります。

「時代は自動運転にまっしぐらです。衝突軽減や車線逸脱防止など、ぜひとも全車に装備を、と願う機能もありますが、ときどき、『進む方向が違うのでは?』と不安になることもあります。メーカーは命を重視した開発をしているはずです。大手企業だからこそ、ここまでの動画を作成する力があり、それを発信してくれます。でも、最後はそれを使う私たちの判断です。こうした動画が有意義に広まり、ドライバーの意識を変えていくことを願っています」

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ひとみさんが「ながらスマホ」による事故で命を奪われた現場を見つめる、母親の竹田直美さん(筆者撮影)
ひとみさんが「ながらスマホ」による事故で命を奪われた現場を見つめる、母親の竹田直美さん(筆者撮影)

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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