島嶼防衛用高速滑空弾ブロック1が量産開始予定
8月31日に日本防衛省から来年度予算の概算要求が提出されました。その中で自衛隊が計画している長距離スタンドオフ兵器の一覧が掲載されています。
我が国の防衛と予算-令和5年度概算要求の概要-日本防衛省(令和4年8月31日掲載) ※令和5年=2023年
○12式地対艦誘導弾(能力向上型)
12式地対艦誘導弾(能力向上型)の地上発射型については量産を前倒しすることが以前にも報じられていました。ミサイルは大型化しステルス形状化され、12式の能力向上型とは名ばかりの事実上の完全新型の対艦ミサイルです。射程は公表されていませんが1500km前後となることが予想されています。
- 地発型・・・地上発射型 ※量産開始
- 艦発型・・・艦上発射型
- 空発型・・・空中発射型
今回の概算要求で掲載された12式地対艦誘導弾(能力向上型)イメージ絵はおそらくイラストではなく、風洞実験模型を撮影した写真だと思われます。
関連:ステルス巡航ミサイルとなった12式地対艦誘導弾(能力向上型)
○島嶼防衛用高速滑空弾(早期装備型)
島嶼防衛用高速滑空弾については、防衛装備庁(ATLA)が2019年に発表した以下の資料が詳しいでしょう。島嶼防衛用高速滑空弾は「早期装備型」のブロック1と「性能向上型」のブロック2に分けて同時開発されています。
- 島嶼防衛用高速滑空弾ブロック1・・・機動式弾道ミサイル ※量産開始
- 島嶼防衛用高速滑空弾ブロック2・・・極超音速滑空ミサイル
ブースターロケットを一部で共通化しますが、事実上ブロック1とブロック2は別種のミサイルになります。
[PDF]島嶼防衛用高速滑空弾の現状と今後の展望 | 防衛装備庁
※発射車両についてはこの2019年の資料では8輪トラックですが、2020年の資料では10輪トラックに大型化したイラストに変更。
射程は公表されていませんが、ブロック1は射程500kmあれば沖縄本島から尖閣諸島を直撃可能になります。尖閣諸島を狙う場合は射程300kmでは石垣島や宮古島に前進配備する必要があり、防御を考えると長期間の展開維持が難しく、おそらく射程500kmを与えて沖縄本島に配備したいでしょう。
島嶼防衛用高速滑空弾ブロック1の開発は平成30年度(2018年度)から始まっていて本来は令和7年度(2025年度)から実戦配備予定でした。これが来年の令和5年度(2023年度)に量産開始が前倒しされます。
島嶼防衛用高速滑空弾ブロック2は、ブロック1よりもブースターロケットが追加されて二段化し、滑空弾頭部分は先進的なウェーブライダー形状となって、完全な極超音速滑空ミサイル(HGV)となるイメージ絵が示唆されています。機動性と射程が大きく向上するでしょう。もし射程1000kmあれば、九州や沖縄から大陸の航空基地を攻撃できる性能になります。
○ 極超音速誘導弾の研究
防衛省が研究を行う「極超音速誘導弾」はスクラムジェット極超音速巡航ミサイルです。同じ極超音速ミサイルといっても滑空ミサイルは弾道ミサイルから派生した兵器で弾頭が滑空グライダーなのですが(つまり弾頭にエンジンが付いていない)、スクラムジェット巡航ミサイルはエンジン噴射を続けて巡航します。
スクラムジェット極超音速巡航ミサイルは実用的な炭化水素燃料(つまり石油)を使う場合、最大でマッハ8~9が限界速度です。通常はマッハ5以上のマッハ6~8で運用されます。
用途としては対艦と対地の両方が検討されています。射程についてはまだ不明で、ミサイルの大きさ次第になりますが、実用的な大きさに収める場合は数百kmから1000km程度の射程になるでしょう。
○ 島嶼防衛用新対艦誘導弾の研究
12式地対艦誘導弾(能力向上型)とは別に将来装備用の新型対艦ミサイルの開発研究「島嶼防衛用新対艦誘導弾の研究」が行われます。
令和5年度概算要求にある「島嶼防衛用新対艦誘導弾」の研究のうち、長射程化と低RCS化(ステルス化)については先行して12式地対艦誘導弾(能力向上型)に実装されました。つまり残るは高機動化とモジュール化です。
島嶼防衛用新対艦誘導弾「高機動化」
最終突入段階で驚異的なアクロバット機動を行い敵艦の近接防御兵器の照準を回避する「高機動化」が研究される予定です。これにより近接防御兵器は対空機関砲型は追従がまったく困難になり、小型対空ミサイル型でも突破されやすくなります。
島嶼防衛用新対艦誘導弾「モジュール化」
島嶼防衛用新対艦誘導弾のモジュール化とは何か説明が概算要求に書かれていないので推定になりますが、これは「先進対艦・対地弾頭技術の研究」の実装のことを意味していると思われます。対艦弾頭とは別に対地弾頭が用意されます。この対地弾頭は特殊なマルチプルEFP(高密度自己鍛造弾)となります。
[PDF]防衛装備庁・陸上装備研究所パンフレット
マルチプルEFP(高密度自己鍛造弾)について重要な技術はライナーの積層化になります。
先進対艦弾頭については先駆弾頭(成形炸薬)を起爆した後に徹甲榴弾が突入する方式です。対艦用として二重貫通弾頭は世界初です。
「島嶼防衛用新対艦誘導弾の研究」ではこれらの試験が行われることになるのでしょう。特に「高機動化」は亜音速で飛翔する巡航ミサイルにステルス化以外の突破能力の向上をもたらすことになります。
○JSMの取得 F-35Aに搭載するスタンド・オフ・ミサイルを取得
○ JASSMの取得 F-15能力向上機に搭載するスタンド・オフ・ミサイルを取得
ノルウェーから購入するJSM空対艦ミサイル(対地攻撃も可能)およびアメリカから購入するJASSM空対地ミサイルです。なおJASSM派生型のLRASM空対艦ミサイルの購入計画は中止となっています。
【関連】解説:スタンドオフミサイル(敵の対空ミサイルの射程外から攻撃する) ※敵の攻撃ミサイルの射程外から撃つ意味ではないので注意。
令和5年度概算要求のスタンド・オフ・ミサイルの解説では「相手の脅威圏外からできる限り遠方において阻止する能力」とあるが、この脅威とは具体的にはSAM(地対空ミサイル/艦対空ミサイル)を意味する。