クラスター爆弾の代替を目指す自衛隊の新型兵器「高密度EFP」
自衛隊が島嶼防衛用として研究開発を始めた対地弾頭技術「高密度EFP」について、11月13日と14日に開かれた防衛装備庁技術シンポジウムで解説が行われました。高密度EFPはEFPを並列・積層に配置したもので、一つの爆発体から多数の高速弾を形成して上陸して来たばかりで海岸付近にまとまっている敵部隊を面制圧する兵器です。従来はクラスター爆弾が担ってきた役割ですが、日本はクラスター爆弾規制条約(オスロ条約)に参加したために代替手段として用意されることになります。
EFP(自己鍛造弾)とは~宇宙探査機「はやぶさ2」のインパクタにも採用~
EFP(自己鍛造弾)とは炸薬が爆発した際に浅い窪みがある金属ライナーが衝撃波により折り畳まれて砲弾のような形状になり飛んで行くものです。大砲のような長い砲身を必要とせず真っ直ぐ高速弾を射出できる特徴があり、軍事用だけでなく宇宙探査機「はやぶさ2」が小惑星に衝突体を撃ち込んでデータを取得するインパクタ・ミッションにも採用されています。なおライナー角度を深くするとHEAT(成形炸薬弾)となり、こちらは衝撃波で圧縮された金属ライナーが流体化し細いメタルジェット(金属噴流)となります。HEATのメタルジェットはEFPより高速で貫通力も高いのですが、威力を保てる距離が極端に短くなる特徴があります。
マルチプルEFP(多弾頭化)とクラスター爆弾規制条約の回避
弾頭に多数のEFPのライナーを並列に設ければ、それぞれのライナーからEFPを発射することができます。多弾頭化とはいってもこの場合は一つの弾頭から多数の鍛造弾を産み出すので、弾薬としては1発扱いになります。これによりクラスター爆弾規制条約に触れることはありません。クラスター爆弾が国際的に規制されたのは殺傷力の高さではなく「多数の爆発性子弾をばら撒くので不発弾が大量に発生してしまう」ことが理由です。不発弾処理が追い付かず戦争が終わってからも市民を殺傷し続ける問題が非人道的とされました。一方でEFPの鍛造弾は金属の塊で爆発しないので、多数ばら撒かれても鍛造弾にはこの問題は発生しません。
EFPの積層化技術
EFPのライナーを並列に多数設けるには面積的に限界があります。通常榴弾の弾殻破片と比べてEFPは広い面を折り畳んで鍛造するため、威力は高くなりますが数は少なくなってしまいます。EFPを広範囲にばら撒くとしても密度が低ければ効果的な面制圧は見込めません。そこで高密度化するために採用されたのがライナーを積層する技術です。
US6510797B1 - Segmented kinetic energy explosively formed penetrator assembly 参考:アメリカ陸軍の特許「区分けられた運動エネルギーEFP貫通体の組み立て部品」より
自衛隊の高密度EFPの技術はおそらくこの2000年に出願されたアメリカ陸軍の特許に近いものでしょう。積層化されたライナーは起爆した炸薬の衝撃波によりそれぞれ自己鍛造されて飛んで行きます。ライナーの取り付け角度をずらせば分散して飛んで行き、広範囲を制圧できます。積層枚数には限度があるとしても積層した分だけ数を倍加できるので、飛躍的に高密度化することが可能です。
高密度EFPに適した運搬キャリア
高密度EFPは弾頭の下面に多数のライナーを並べて上空で起爆して地上の敵を面制圧する性格上、ミサイルの最も広い面積を下に向けられる姿勢が重要になります。つまりミサイルの起爆時に水平に飛行することが望ましいので、姿勢を制御しやすい巡航ミサイルあるいは滑空ミサイルが適していて、水平飛行ができない弾道ミサイルや大砲の砲弾は不向きになります。自衛隊の各種資料からも高密度EFPは島嶼防衛用の巡航ミサイルと高速滑空弾に使われている参考イラストが見受けられます。過去に自衛隊が何度かATACMS短距離弾道ミサイルの取得を目指しながら諦めたのは、クラスター弾頭が国際的に使えなくなりそうになった当時の情勢が影響していたのかもしれません。それが高速滑空弾ならば高密度EFPを運用できるので、代替計画として再スタートしたとも考えることができます。
高密度EFPはクラスター爆弾の完全な代替にはならない
高密度EFPは地上目標の広範囲の面制圧が可能ですが、主力戦車の厚い上面装甲を貫通することまでは期待されておらず、水陸両用装甲車や上陸用舟艇の撃破を主目的としています。歩兵にもある程度の効果は期待できますが、高密度EFPであっても通常榴弾の弾殻破片と比べると数が少なく密度が低く、効果が劣ります。過去の成形炸薬弾の子弾を持つクラスター爆弾の場合は戦車・装甲車・歩兵の全てに効果的な汎用性を持っていたのに比べると、高密度EFPは効果的な相手の範囲が狭くなっています。高密度EFPはクラスター爆弾の代替は目指していますが、完全に全てを代替することはできません。