AI半導体輸出規制の穴「塞ぐ」 バイデン米政権、クラウドも対象へ
バイデン米政権が、中国企業による米国のクラウドコンピューティングサービスの利用を規制する動きを見せている。
バイデン政権は、米国製AI(人工知能)半導体の対中輸出規制を強化する考えだが、その「抜け穴」を封じることが狙いという。
激化する米中報復合戦
米中の報復合戦が一層激化しそうだと、米ウォール・ストリート・ジャーナルなどは報じている。
関係者の話によると、バイデン政権は、中国企業による米国のクラウドコンピューティングサービスへのアクセスを制限する準備を進めている。
これにより、米アマゾン・ドット・コムや米マイクロソフトなどのクラウドサービスプロバイダーは、高度なAI半導体を使用するクラウドサービスを中国企業に提供する際、事前に米政府の許可を得る必要が生じる。
先端技術サプライチェーンへのアクセスを巡る米中の対立はますます激化している。
中国政府は、イエレン米財務長官の訪中を前にした2023年7月3日、半導体の材料などに使われる希少金属であるガリウムとゲルマニウムの関連製品を輸出規制の対象にすると発表した。中国企業は23年8月1日から、当局の許可がない限りこれらの製品を輸出できなくなった。
AI向け半導体規制、範囲拡大
米国の対中輸出規制を巡っては、先ごろバイデン政権が、AI半導体について、規制適用範囲の拡大を検討していると報じられた。
米商務省は22年10月、AI向けの先端半導体の中国への輸出を原則禁じた。これは、データセンターでAI計算に広く使われている米エヌビディア製「A100」などを、事実上中国などの懸念国に輸出することを禁じるものだ。
だが、その後エヌビディアは対応措置として、商務省が示した規制基準を下回る性能のAI半導体「A800」を中国市場向けに製造・販売した。関係者によると、検討中の規制では、このA800であってもライセンスを取得しない限り輸出できなくなる。
クラウドが抜け穴に
しかし、この新規制を導入したとしても、中国企業は米国のクラウドサービスを介して米国製先端AI半導体を利用できる。
つまり、中国企業はA100などの高度な半導体を購入することなく、強力なコンピューティング能力を得られることになる。今回新たに検討されているクラウド規制はこの抜け穴を塞ぐものとみられている。
米ジョージタウン大学安全保障・先端技術研究センター(CSET)の研究員であるエミリー・ワインスタイン氏は「中国企業がエヌビディアのA100にアクセスしたかったら、それはどのクラウドサービスプロバイダーからでも可能だ。完全に合法である」と述べている。
関係者によれば、米商務省は今後数週間以内にこの新たな措置を発表する予定。22年10月に導入した半導体輸出管理規制の適用範囲拡大の一環として、クラウドサービス事業者も新たに対象に加えることになる。
ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、この措置で最も影響を受ける米国のクラウドサービスプロバイダーは、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)とマイクロソフトの「Azure(アジュール)」だとみられている。
また同紙によると、米国の当局者や議員らはこの措置に加えて、アリババ集団や騰訊控股(テンセント)といった中国クラウドサービスプロバイダーの米国での活動を制限することも検討している。
筆者からの補足コメント:
筆者からの補足です。今回の対中半導体規制拡大に関する検討は、米オープンAIの「Chat(チャット)GPT」のような生成AIが台頭し、社会現象になったことを受けたものだといわれています。オープンAIは20年にLLM「GPT-3」を開発し、22年11月にこれを進化させたGPT-3.5を取り入れたChatGPTを公開しました。するとわずか2カ月でユーザー数が1億人に達しました。23年3月には、GPT-3.5を進化させた「GPT-4」を発表。そしてChatGPTのほか、マイクロソフトの「Bing」をはじめ、各種アプリやサービスがGPT-4を取り入れました。米政府による対中輸出規制の第1弾が発表されたのは、その前でした。それ以来、米国の政府高官や政策立案者はこの問題を、国家安全保障という観点で捉えるようになった。AIを搭載した兵器は競合国に優位性を与える可能性があり、AIは化学兵器の製造や、サイバー攻撃目的のコード生成に利用される恐れがある、といったことを米国は懸念していると米メディアは報じています。
- (本コラム記事は「JBpress」2023年7月7日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)