韓国大統領に「新人」尹錫悦候補が当選
3月9日に行われた韓国大統領選挙で、最大野党・国民の力から立候補していた尹錫悦(ユン・ソギョル、61)候補が当選した。
●開票率95%で当確
日をまたいだ10日の午前3時50分頃、韓国の通信社・聯合ニュースは「尹錫悦当選」の速報を打った。この時点での開票率は約95%。この時点で尹候補は与党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン、57)候補を約0.8%リードしていた。
午後7時30分の開票開始から約8時間後の出来事だった。当確が出るや尹候補はソウル市内から国会のある汝矣島に向かい、開票状況を見守っていた状況室を訪れ党員に感謝を伝えると同時に「今日の勝利は偉大な国民の勝利だ」と述べた。
一方、敗れた李在明候補はこれに先立つ10日午前3時半過ぎに与党の党舎を訪れ、「すべては私の責任だ」と頭を下げると同時に、「尹錫悦候補にお祝いの言葉を伝える」とした。
●出口調査では僅差
投票が締め切られた9日午後7時半すぎ、「放送3社」と呼ばれる地上波テレビのKBS、MBC、SBSが合同で行った出口調査の結果が発表された。
これによると、与党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン、57)候補は47.8%、最大野党・国民の力の尹錫悦候補が48.4%を獲得したとされた。3位には2.5%を獲得した第二野党・正義党の沈相奵(シム・サンジョン、62)候補が入った。
一方、ケーブルテレビ局JTBCの独自調査では、李在明候補が48.4%、尹錫悦候補が47.7%と0.7%差で李在明候補がリードする結果となった。
結果として、放送3社の出口調査結果に近い形となった。なお、今回の投票率は77.1%と、前回17年大統領選の77.2%に及ばなかったものの、高い数値だった。
なお、最終的な得票数の差はまだ判明していないが、10日午前4時半現在、開票率98.94%の時点では、尹錫悦48.60%、李在明47.78%となっている。
票差は27万4167票で、このまま開票が進む場合には1987年の民主化以降、最少の票差になる可能性がある。過去最少の票差は1997年に金大中(キム・デジュン)大統領が当選した際の39万557票だった。
●当選者の横顔
当選した尹錫悦氏は、ソウル出身。大学教授の家に生まれ、名門・ソウル大学法学部を1983年に卒業後、8浪して91年に司法試験に合格した。
その後94年3月から02年1月、03年2月から21年3月まで合計26年間検察ひと筋のキャリアを持つ。また、19年7月から21年3月までは検察総長を務めた。
検察時代の13年、前年の大統領選挙における政府機関の世論工作を追及する過程で、上司の制止を振り切り捜査を強行したことで懲戒を受けた。
この時の国政監査の際に発した「私は人に忠誠しない」という発言で「反骨の検事」として一役有名になった。その後、左遷されるも文在寅政権になり大抜擢され「政権の顔」の一人となり、検察トップにまで登り詰めた。
しかし、検察総長になった直後から、検察の権限を縮小する「検察改革」を進める文政権との対立が目立ちはじめ、20年には葛藤がピークに達する。
政権の顔から一転、文政権を追い詰める存在となり、世論調査で高い人気が確認されるや21年3月に検察総長を辞め、同年6月に政治家への転身を明かした。
政治経験はないため、その実力は未知数。メディアとのインタビューや討論会では常識的な知識も間違えるなど実力を不安視する声も高かったが、「適材適所で人材を活用する」といった姿勢で乗り切った。
さらにこうした短所を「新鮮さ」に置き換え、従来の政治家への不信や飽きを抱いていた保守派や浮動層の支持を集めての当選となった。
●今後は「大統領当選人」に
尹錫悦候補者は今後、「大統領当選人」という法的な地位を得て「大統領職引受委員会」を設置する。
最大24人で構成される同委員会は文字通り政権発足の準備をするもので、ここに参加する人物が次政権の中枢を担うことになる。
「大統領当選人」は22年5月10日0時をもって正式に第20代大統領に就任する。就任式は5月10日に行われる予定で、任期は5年となる。